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2026.10.29.THU

70人の会社を15人に。AIが開発を回し始めた日、僕が決めたこと【実録】#ハーネスエンジニアリング

70人が15人になった日——AIに開発を任せて見えた、これから「ものを作る仕事」の形

バングラデシュに作った開発会社は、去年まで、グループ会社も含めて70人の仲間がいました。年末には15人ほどになります。ARC channelの『ブログ記事を動画で解説』シリーズ、今回はARCHECOのブログ記事「70人が15人になって分かったこと」を、筆者自身が語る回です。縮小を決めるまでの経緯、AIのセッションだけで2つのアプリを作らせた10時間の記録、そこから見えたAIの周りに付ける12個の備えを、順に追っていきます。

「待つこと」を禁じたチーム——ShellBeeHakenを作った理由

筆者が日本で会社を作ったのは2014年。それから12年、UXデザインとアプリやWeb、業務システムの開発に携わってきました。UXデザインを担当し、開発はほかの会社に頼むこともあり、そのたびに「仕様に書かれていないので、やっていません。追加見積もりになります」と言われてきたそうです。このやり取りを根本から変えたい。仕様から漏れても、要求が途中で変わっても、エンジニアが自分のプロダクトとして考えて動くチームを作りたい。そう考えて6年前にバングラデシュで立ち上げたのが、ShellBeeHakenです。
ホームページには「エンジニアの仕事は、何時間分の売り上げになったかではなく、いかに良いプロダクトを作るかで評価する」と掲げ、仕様から漏れた分や作り直しの時間まで最初から値段に入れました。ただ、最初から自分で考えて動けたわけではありません。「この仕様は自分では判断できないので進められない」という声が飛び交う中で、筆者はプロジェクトのたびに現地へ行き、「このチームで禁止することは一つだけ。待つことだ」と伝えました。UXデザインの教科書を作って研修を重ね、同じ釜の飯を食べるうちに、チームは家族のようになっていったといいます。日本の第三者機関による金融レベルのセキュリティ審査でも毎回満点。だから受託の競争には勝てると信じていました。

Agenicが先に超えたもの——6か月前の決断

開発の力に自信があったからこそ、筆者は2026年の2月、日本の会社でAIが自分で開発を進める仕組み「Agenic」を作り始めます。ゴールを決め、計画し、計画を見直し、作り、できた物を確かめて受け取る。この流れを複数のAIが人の代わりに何度も回す仕組みです。作り始めて2か月目には「要件を正しく指示したら、寝てる間に完璧に動くものができていた」と書き残しています。そこから5週間で、およそ200時間、AIとのやり取りは2000を超えました。
Agenicが最初に上回ったのは、チームが一番自信のあったセキュリティでした。何年もかけて確立したコーディングガイドラインを使って、作り始めたその日から、満点を取ってきた守り方を再現したのです。専門性を追求していたから、終わりが誰よりも先に見えてしまった。6か月前、筆者は6年かけて立ち上げた会社を縮小せざるを得ない未来を覚悟します。現地の共同設立者は今、人を減らすことを現地で実行していて、かける言葉も見つからないそうです。それでも理由はシンプルで、人が作るより、AIでやった方が良いものを速く作れる。お客さんがエンジニアの時間にお金を払う理由がなくなる。信じていた勝負そのものが消えていくからです。

10月24日、AIに任せた10時間——Spotifyのようなアプリ

7月、LLMのモデルそのものが急に賢くなり、決まった流れを何度も回すより、その場で判断させた方が良い結果が出るようになりました。そこで筆者はAgenicを、AIが都度判断し、AI同士が連動して動く仕組みへ作り変えます。AIの周りに付けるこうした仕組みが「ハーネス」。もとは馬に付ける引き具のことで、どれだけ力強い馬でも、なければ荷車は引けません。拠り所は、2025年の秋から作ってきたRAGと、筆者がAIに伝えてきた7400を超える発言から取り出した「判断の型」でした。
最初の本番のテストが10月24日です。Spotifyのような音楽アプリと、TikTokのような短い動画アプリを、別々のAIのセッションに同時に作らせました。Spotify側には、アプリを作るAIと、筆者の代わりに指示を出すまとめ役のAIがいます。筆者の指示は「いちいち僕に聞かずに、その都度、自分で決めて進めて」の一言と、途中の数回の軌道修正だけ。約10時間後には、ホーム・検索・ライブラリの画面があり、曲を並べ替えて続けて流せるスマホアプリが手元にありました。曲はすべてAIが作った60曲。AIの契約のほかに追加で払ったお金は0円です。夜には8時間の連続再生テストが回り、曲は205回切り替わって、止まった回数は0。動画アプリも約14時間半で、本家の公式ヘルプにある112の機能のうち103が動くところまでできました。

つまずきから見えた12個——AIの周りの7つの仕組みと、人と組織の5つの備え

筆者が本当に伝えたいのは、この結果ではありません。10時間のあいだにAIは何度もつまずき、その形は日本の会社でAIを使う中で繰り返し見てきた課題とほぼ同じでした。
AIの周りに付ける7つの仕組みは、1. 意図と会社の考え方を正しく渡す(要約で「Spotify」の言葉が抜け、店のBGM用のプレイヤーを作られかけたので、指示書には原文を貼るように)、2. ツールを渡し、直し続ける、3. ガードレール(止めてと言われて関係のない作業まで止めかけた事例から、止める前に誰が始めた作業かを確かめる線を引いた)、4. 止まらない仕組み(人の返事を待って考えるのをやめたAIを、15分ごとに見張りの仕組みが見に行き、会社の基準で代わりに決める)、5. 安全な環境(落ちる先を浅くしておく)、6. できた物を受け取る前に確かめる(「全部できました」の報告に後回しが4つ。機械の点検では60曲中54曲に要確認の印が付き、人の耳で確かめた曲はまだ1曲もない)、7. 初期の事故に備える(自動返答の誤選択で外部サービスの設定が1件書き換わったが、変更前の記録で戻せた)。
人と組織の側の5つの備えは、8. 会社の外に試すための出島を持つ、9. 人にしかできない操作をすぐ引き受ける人を置く、10. 事故から決まりを書き足していく体制、11. 使うAIやサービスを選び、入れ替え続ける、12. ハーネスを作り直し、組織に根付かせるコーチング。モデルが新しくなるたびにハーネスは根本から作り直しが必要で、それを組織に根付かせ続けるのがAI時代のコーチングだと語られます。

これから、ものを作る仕事は——作ることに値段がつかない時代

作り終えて筆者が気づいたのは、このハーネスに込めた考え方が、もともとShellBeeHakenで仲間と培ったものだったということです。待つことを禁じたのは、4番目の「止まらない仕組み」と同じ。「言われていなくても自分で考えて決めて」と伝えたのは、AIに「いちいち聞かずに自分で決めて」と任せたのと同じ。違いは一つで、人は一度信じた考え方を持ち続けますが、AIはやり取りが終われば忘れてしまう。だから毎回読ませるだけでなく、守れているかを毎回確かめる仕組みが要ります。
これからものを作る仕事はどうなるのか。作ることそのものには、もう値段がつきません。ただ10時間で作れたのはSpotifyと同じ構成のアプリまで。Spotifyの強さは、1億曲を超える権利と7億人を超える利用者にあり、アプリを作れても、使われてお金を生まなければ何も残りません。働いた時間で値段が決まる受託には、もともと限界がありました。これからの開発の産業は、作った時間ではなく、お客さんの事業が成功したときに一緒に報われる形へ変わっていく、というのが筆者の見立てです。

待たずに、自分で考えて、良いプロダクトを作る。ShellBeeHakenで信じてきたこのことを、筆者はAIの時代の形で続けていくと語って、動画は終わります。縮小の決断の重さも、AIが一晩で出した成果も、数字と実際の記録で語られているのが今回の特徴です。12個の仕組みと備えの一つひとつの事例、出島の考え方、モデルごとの得意分野の使い分けは、本編動画と元記事に、さらに詳しくまとまっています。ぜひ続けて見て(読んで)みてください。

ARC channel

10年間、大企業と新規事業を作ってきた ARCHECO(アルチェコ)が、自分たちのブログ記事を動画で解説しています。
紹介する事例は、記事と同じく公表された事実のみで、内部の事情や個人の責任は推測していません。
解説してほしい記事があれば、コメント欄で教えてください。