新規事業の立ち上げ|8ステップの順番と、どこから作るかの決め方 の全体像をまとめた図解

新規事業の立ち上げ|8ステップの順番と、どこから作るかの決め方

施術者を指名できる整体院が6店舗目を立ち上げたときの記録です。新規事業を立ち上げる順番を、ユーザがいちばん先に触る予約画面から始めました。予約は入るのに、指名された施術者の90分の枠が店の台帳に立たない。108日気づかなかった原因と、予約の入口を1本に寄せ直した話を書きました。
新規事業の立ち上げ|8ステップの順番と、どこから作るかの決め方(リード図解)

去年、家に分別用のゴミ箱を4つ買って並べました。プラスチック、缶、びん、紙です。並べた日は、家が片付いた気がしました。

ところが、住んでいる地域では、プラスチックの回収は月に2回しかありません。出す場所も、家の前ではなく150メートル先の集積所でした。分けた袋はゴミ箱から溢れて廊下に置かれ、次の回収日まで積み上がります。半年たって、廊下にはプラスチックゴミの袋が並んでいました。

いま思えば、僕が整えたのは分ける入口だけでした。家から出ていく出口——回収日と集積所——を確かめないまま、入口だけを4つに増やしていたわけです。

新規事業の立ち上げでも、同じことが起きます。やることの中身は、どの手順書を読んでもだいたい同じです。違いが出るのは、どこから手をつけるかという順番です。

先に結論だけ書きます。AI時代に新規事業を立ち上げるときは、ユーザが触る入口ではなく、受けた注文が現場の作業になる出口から作ります。AI時代以前は出口を配備するための開発期間が長く、失う時間が大きすぎたため、ニーズがあるかないかをクイックに検証し、筋が良い入り口に合わせて出口を作るやり方が主流でした。しかしAI時代には、この出口が整備されたシステムの開発期間が極端に短くなります。そのため、AI時代に合わせた新規事業の開発方法を模索する必要が生じています。出口が1本通っていれば、入口はあとから何本でも足すことができ、検証からシームレスにそのまま事業拡大する時代だからからです。

ここでいう入口はユーザが使い始める画面、出口は受け付けた内容を現場の作業に反映する仕組みです。

僕は、旧来の常識通りユーザがいちばん先に触る予約の画面から作り、そこで受けた予約の一部が店の台帳に届いていないことに、検証開始から3日目に気づきました。今日は、その3日間に何が起きていたかを通じて、どこから作り始めるかという話をしていこうと思います。前置きはさておき、本題に入ります。

この話に出てくる事業

「この話に出てくる事業」を図解したスライド|大企業と僕の会社の共創事業(両社が共同で作る事業)で、僕の会社が開発を担当したMVP(実用に必要な最…

大企業と僕の会社の共創事業(両社が共同で作る事業)で、僕の会社が開発を担当したMVP(実用に必要な最低限の機能を備えた試作品)のひとつに、施術者を指名できる整体院の予約アプリがあります。施術1回の枠は90分。PoC(本格展開の前に小さく試す検証)に参画する店舗は5つで、腰痛と肩こりを、担当の施術者が最初から最後まで1人で見る形の店です。

指名があるので、予約は日時だけでは決まりません。誰の、どの90分かまで決まって、はじめて予約になります。店側は、施術者ごとに90分の枠が縦に並んだ台帳(予約管理表)を見ながら動いています。

もともと5店舗は、店のサイトに置いた入力フォーム(画面の項目を埋めて送信する方式)で予約を受けていました。今回のアプリは、そこに新しい入口を足すものです。どちらの入口から入っても、その予約が店の台帳に記録されて、はじめて現場の仕事になります。

① 教科書どおりに、ユーザが触る予約画面から作った

「教科書どおりに、ユーザが触る予約画面から作った」を図解したスライド|どこから作るかは、素直に教科書どおりに決めました

新規事業の立ち上げの流れをすでにご存じの方は、② 予約は入っているのに、施術者の90分が埋まらないから読み進められます。

新規事業の立ち上げとは

新規事業の立ち上げとは、まだ売り先も売り方も決まっていないものを、実際に提供して対価を得られる状態まで持っていく一連の工程です。

難しいのは、工程そのものより順番です。各工程のやり方は調べれば出てきますが、どれを先にやるかで、後の工程のやり直しの量が変わります。

立ち上げに必要な経営資源

  • ヒト — 決められる人、動かせる人、現場を知っている人
  • カネ — 立ち上がるまでの運転資金と、検証にかける費用
  • モノ — 使える設備、既存の販路、顧客名簿
  • 情報 — 既存事業で溜まった顧客の反応と、業務のデータ

ゼロから全部を揃える必要はありません。既存事業から使い回せるものを先に数えるほうが、勝てる場所が決まりやすくなります。

新規事業の立ち上げの流れ(8ステップ)

工程ここで決まること
1事業領域(ドメイン)の策定どこで戦うか
2顧客と課題の特定誰の、どの困りごとか
3解決策の検証その困りごとを解けるか
4事業性の検証お金になるか
5事業計画の作成いくら要って、どう回収するか
6撤退基準の決定どうなったら止めるか
7テストマーケティング実際に売れるか
8リリースと成果の検証続けるか、変えるか、やめるか

工程ごとの中身と、回し続けるための型は新規事業のプロセスの記事に整理しています。ここでは、順番そのものを見ていきます。

ステップ1|事業領域(ドメイン)を決める

自社の資産が効く場所を選びます。アイデア出しより先に、使い回せる資産の棚卸しです。顧客、技術、販路、信用。紙1枚で足ります。

ここを飛ばして多角化から考え始めると、資産の無い場所でゼロから戦うことになります。

ステップ2|顧客と課題を特定する

誰の、どの場面の、どの困りごとかを1文にします。属性ではなく状況で書いてください。

あわせて「いま何で代用しているか」を必ず聞きます。代用手段が無い困りごとは、本人がまだ困りごとと認識していない可能性があります。

ステップ3|解決策を検証する

考えた解き方で、その困りごとが実際に減るかを確かめます。作り込む前に、手作業でも紙芝居でもよいので当ててみます。

ここで確かめるのは「使うか」であって「買うか」ではありません。2つを混ぜると、どちらの答えも出ません。

ステップ4|事業性を検証する

価格、原価、必要な数量。お金を払う人が誰かをここで確定させます。使う人と払う人が違う場合は、払う人の判断基準を確かめます。

「無料なら使う」は事業性の証拠になりません。仮申込でも、事前決済でも、財布が動く一歩を挟んでください。

ステップ5|事業計画をつくる

必要な資源、収益の作り方、時間軸を文書にします。数字より、その数字を置いた前提のほうが読まれます。

項目の一覧と通らない原因は新規事業の計画書の記事に整理しています。

ステップ6|撤退基準を決める

何が、いつまでに、どうなっていなければ止めるのかを数字と期限で書きます。

この工程を7より前に置くのが要点です。売ってみた後に決めようとすると、出た結果に合わせて基準のほうが動きます。考え方は撤退基準の記事に書いています。

ステップ7|テストマーケティングを行う

範囲を絞って、実際に売ってみます。地域、顧客層、機能のいずれかを限定します。

測る指標を、始める前に決めてください。申込率か、継続率か、単価か。やってから決めると、必要な記録が残っていません。

ステップ8|リリースして、成果を検証する

本番として提供を始め、6で決めた基準と突き合わせて、続ける・変える・やめるを決めます。

判断の期日をカレンダーに入れておいてください。期日が無いと、判断は「もう少し様子を見る」に流れます。

なぜ順番が効くのか — 工程の依存関係

後ろの工程は、前の工程の答えを前提に作られます。前提が変わると、その後ろが全部やり直しになります。

入れ替えると起きること
2より先に3(解決策)を決める解ける問題を探し始め、誰も困っていないものを作る
4より先に5(事業計画)を書く払う人が未確定のまま、売上の数字だけができる
7の後に6(撤退基準)を決める結果に合わせて基準が動き、やめられなくなる

やり直しの費用がいちばん大きいのは2です。顧客と課題が動くと、3以降で作ったものがほぼ全部使えなくなります。

作る順番の決め方 — どこから実装するか

実際に作り始めるとき、「どの部分から作るか」は工程の順番とは別の判断です。

  • いちばん外れたら困る前提から確かめられる部分
  • 止まると事業が成立しない部分
  • 手作業で代替できない部分

逆に、手作業で回せる部分は後回しにできます。表からは動いているように見せて、裏を人がやる形でも、確かめたいことは確かめられます。この記事の後半は、その順番を1箇所だけ変えた記録です。

新規事業を立ち上げるメリット

  • 新しい収益の柱ができる — 1本の事業への依存から抜ける
  • 既存事業との相乗効果 — 顧客・販路・データが行き来する
  • 人が育ち、組織が動く — 決める経験を積める場所ができる

2つ目を狙うなら、既存事業と接点のある領域を選んでください。完全な飛び地は、相乗効果が構造的に生まれません。

立ち上げに必要な人材とスキル

  • 情報収集力 — 一次資料に当たれる
  • 課題発見力 — 与えられた課題ではなく、本当の課題を決められる
  • ロジカルシンキング — 仮説と検証を組み立てられる
  • プレゼンテーション — 社内の合意を取れる
  • プロジェクトマネジメント — 止めずに進められる

5つを1人で満たす必要はありません。ただし「決める人」だけは兼務にしないでください。決裁が他部署に回るたびに、1週間が消えます。

チームの作り方と、担当の決め方

初期に要るのは、決める人・作る人・売ってみる人の3役です。人数が揃わないときは兼務の組み合わせを決めます。

決める人と売ってみる人を同じにしないでください。自分で売った結果を自分で評価すると、判断が努力量に引きずられます。

よくある失敗と、その手前で防ぐ方法

失敗の型手前で防ぐ方法
撤退基準を決めていないステップ6を7より前に置く
失敗を許容しない評価制度止めたときに担当者の評価を下げないと先に約束する
兼務で時間が取れない使う時間の割合を上司と合意する
資産の棚卸しをしていないアイデア出しの前に紙1枚で出す
顧客に会っていないステップ2を人数ではなく回数で管理する

5つとも、始める前に防げます。立ち上げで難しいのは実行そのものより、実行の前に決めておくことのほうです。

規模別のポイント(大企業と、中小・スタートアップ)

効きやすいこと詰まりやすいこと
大企業資産・販路・信用を使い回せる決裁の段数と、既存事業の物差しで測られること
中小・スタートアップ決めるのが速い。順番を変えやすい人と資金の余力。耐えられる期間が短い

どちらも、確かめる順番の設計で差が出ます。大企業は決裁の前に確かめを済ませる、中小はいちばん外れたら困る前提から小さく確かめるのが定石です。

リスクの抑え方

  • 需要を数字で見積もる — 感触ではなく、代用手段の利用量から
  • 撤退の線を先に引く
  • 参入の時期を逃さない — 早すぎても市場が無い
  • 小さく出して、増やす — 一度に全部を賭けない

1つ目は、いま何にお金が払われているかを見ると近づけます。代用手段に払われている金額が、最初の市場規模の目安になります。

資金の集め方と補助金

社内予算、借入、外部からの出資、補助金・助成金。補助金は後払いなので、立て替える資金が別に要ります。

対象になる経費と、報告に必要な書類の量を申請前に確認してください。事務の工数が、担当者の検証の時間を圧迫することがあります。

工程別に使うフレームワーク

工程よく使う道具
領域と環境を見るSWOT分析、3C分析、PEST分析、ポジショニングマップ
アイデアを出すバックキャスティング、フォアキャスティング
顧客と課題を掴むペルソナ、カスタマージャーニーマップ
事業の形を作るビジネスモデルキャンバス、6W3H
進め方を決めるWBS、アンゾフの成長マトリクス

枠を埋めることが目的になった時点で、道具は効かなくなります。選び方はフレームワークを失敗の検出器として選び直す記事に書きました。

新規事業の立ち上げについてよくある質問

Q. 新規事業の立ち上げは、どんな順番で進めますか。
事業領域の策定 → 顧客と課題の特定 → 解決策の検証 → 事業性の検証 → 事業計画 → 撤退基準の決定 → テストマーケティング → リリースと成果検証、の8段です。撤退基準を「売ってみる」より前に置くのが要点です。

Q. 何から着手すればよいですか。
アイデア出しではなく、自社の資産の棚卸しからです。顧客・技術・販路・信用のうち何が使い回せるかを紙1枚に出すと、戦う場所が絞れます。

Q. 実装は、どの部分から作り始めるべきですか。
いちばん外れたら困る前提を確かめられる部分からです。手作業で代替できる部分は後回しにできます。表は製品、裏は人手でも、確かめたいことは確かめられます。

Q. 立ち上げに必要な人材は何人ですか。
人数より役割です。決める人・作る人・売ってみる人の3役が要ります。兼務でも構いませんが、決める人と売ってみる人は分けてください。

Q. うまくいかない会社に共通するのは何ですか。
撤退基準を決めていないこと失敗を許容しない評価制度です。どちらも担当者の努力では解けず、始める前の設計で決まります。

どこから作るかは、素直に教科書どおりに決めました。立ち上げの手順書に載っている順番は、だいたい共通しています。ユーザが触るところから作ること、反応が早く返るところから作ること、動いたものを見せられる形にすること。この3つで絞ると、先に作るのは予約の画面しか残りませんでした。5店舗の店長に聞いても同じで、「まず予約の画面ですよね」と即答されています。

作ったのは、ユーザがアプリに向かって音声やテキストで「土曜の午前に、○○さんで」と話しかけるだけで予約が取れる画面です。フォームの項目を順に埋めなくても、話した中身から必要なものをアプリが聞き取って、予約の処理が進みます。

画面の流れは、症状を選ぶ、施術者を選ぶ、日時を選ぶ、内容を確かめる、の4段です。整体、骨盤矯正、産後ケア、スポーツ向けの4メニューにこの4段を掛けた全予約導線を2時間で作っています。プログラムの行数は1,547行。そのうち、話しかけた内容を予約の処理へ差し込む繋ぎの部分(予約画面と予約処理をつなぐプログラム)は、107行でした。作り込んだのはユーザに見せる画面のほうで、画面と処理の繋ぎはおまけ程度の分量です。

リリース前の通し試験は、音声と従来のWEBフォームの両方の経路でやっています。店長にも触ってもらい、自分の店でよく受ける指名と時間帯の組み合わせを、お客さん役を演じながら3件試してもらいました。3件とも予約の確認画面まで進み、台帳にも枠が記録されました。この時点で、間違った感覚はまったくありませんでした。

ここまでが、新規事業の立ち上げの教科書どおりの順番です。領域を決め、顧客と課題を特定し、解決策と事業性を確かめ、計画と撤退基準を置いてから、小さく売ってみる。

この記事の後半で扱うのは、この順番どおりに進めた1件で、どこから作り始めたかです。リリース前の通し試験は、通っていました。

② 予約は入っているのに、施術者の90分が埋まらない

「予約は入っているのに、施術者の90分が埋まらない」を図解したスライド|PoCの開始後は、アプリ経由の予約件数と、台帳に記録された枠の数を、毎日突き合わせることにしていまし…

PoCの開始後は、アプリ経由の予約件数と、台帳に記録された枠の数を、毎日突き合わせることにしていました。開始から2日間は、両者の差は数件で、入力のタイミングのずれとして説明がつく範囲でした。

3日目に、数字が合わなくなりました。アプリ側の予約は入っているのに、施術者ごとの90分の枠だけ埋まっていません。予約が台帳に立たない条件を特定した結果、話しかけて予約したときの、整体メニューだけが台帳に記録されませんでした。同じ音声の予約でも骨盤矯正は記録されます。フォームからの予約は、メニューを問わず記録されます。

ユーザの画面には、どの経路でも「ご予約を承りました」と出ます。日時も、指名した施術者の名前も出ます。ユーザの側からは、成立しているようにしか見えません。一方、店の側からは、その予約は最初から存在しません。当日、指名された施術者は空き時間のつもりで別の予約を入れ、そこに予約を取ったはずのユーザが来ます。ぶつかるのは当日で、その場では店頭の手違いとして片付いてしまう。だから、不具合が出た瞬間に不具合として報告される道がありません。

③ 気づいたのは、数字の不一致と、店長が持ってきた1件のメールでした

「気づいたのは、数字の不一致と、店長が持ってきた1件のメールでした」を図解したスライド|数字の不一致だけなら、まだ「入力遅れが溜まっているのでは」という読み方も残っていました

数字の不一致だけなら、まだ「入力遅れが溜まっているのでは」という読み方も残っていました。決め手になったのは、同じ日に店長が持ってきた1件の苦情メールです。ユーザから「予約完了のメールは届いているのに、店に着いたら予約が入っていないと言われた」という内容で、指名した施術者の名前と、90分の開始時刻まで書かれていました。

そこで、予約が入ってくる入口を1本ずつ、台帳まで指でたどる棚卸し(入口と行き先を一つずつ洗い出す点検)をしました。当時、予約の入口は5本です。アプリのテキスト入力、アプリの音声入力、店舗サイトのフォーム、店舗での出張施術の依頼、予約プラットフォーム経由。

台帳に届いていなかったのは、5本のうち音声入力の1本、それも整体メニューの分岐だけでした。そこから入った予約は、台帳ではなく、開発初期に仮置きしていたスタッフ向けカレンダーに書き込まれていました。店の誰も開かない場所です。開いてみると、3日分の整体の予約が3件、そこに溜まっていました。

④ 原因を1つに絞る

「原因を1つに絞る」を図解したスライド|思い当たることは、いくつもあります

思い当たることは、いくつもあります。試験のメニューの組み合わせが偏っていたこと、店長に触ってもらった3件がたまたま整体以外だったこと。ただ、それらは全部、最後の1つの結果です。原因を絞ると、ユーザが触る入口から作り始めたことでした。

順番を数字で並べると、はっきりします。予約の導線を作ったのが最初の日。受けた予約を施術者ごとの90分の枠として台帳に記録する出口を作ったのは、その20日後です。出口ができた時点で、先に作ってあった入口の分岐を新しい出口へ繋ぎ変えたのですが、音声×整体の1分岐だけが、仮置きのカレンダーを向いたまま残りました。

入口が先にあると、出口ができるまでの間、入口は仮の行き先を持ちます。仮の行き先は、あとで必ず繋ぎ替えることになります。繋ぎ替えの数は、入口の数×メニューの数だけ増えていきます。今回はそのうちの1本を落としました。出口から先に作っていれば、仮の行き先も、繋ぎ替えの作業自体も、最初から存在しません。

⑤ 直したのは1箇所だけ

「直したのは1箇所だけ」を図解したスライド|やったことは、入口ごとの専用処理をやめて、予約の通り道を1本にすることだけです

やったことは、入口ごとの専用処理をやめて、予約の通り道を1本にすることだけです。話しかけて予約する経路から専用の処理を外し、話しかけた結果が、フォームと同じ既存の予約処理に流れ込むようにしました。

このとき、予約の入口をひととおり点検しています。アプリの中には残っているのに、ユーザには二度と表示されない画面が3枚見つかりました。最初の日に作った予約導線の一部です。まとめて撤去しました。その日にやったのは、専用処理を消して、1本化のための処理を足すこと。直すというより、作ったものを捨てる作業でした。

⑥ あとで知った ── 最後に回した作業に、名前がついていました

「あとで知った ── 最後に回した作業に、名前がついていました」を図解したスライド|しばらくして、製品づくりの助言をしている Silicon Valley Product Group …

しばらくして、製品づくりの助言をしている Silicon Valley Product Group の Marty Cagan の文章を読み、手が止まりました。新しいプロダクト(製品やサービス)の作り方を、長く書いている人です。作るに値する解決策を見つける段階で、先に潰すべきリスクを4つに分けています。

1つ目は「whether customers will buy it or users will choose to use it」。ユーザが買うか、使ってくれるか。2つ目は使いこなせるか、3つ目は作れるか。そして4つ目が「whether this solution also works for the various aspects of our business」。その解が、事業のほかの面でも成り立つか、というリスクです。

指名された施術者の90分が台帳に立つかどうかは、まさに4つ目です。ユーザが買うかどうかは、5店舗分の過去の実績で分かっていました。分かっていなかったのは、受けた予約が現場の1枠として成立するかのほうです。

同じ文章には「The business value (viability) risks can be substantial」とあり、続けて、それらは「too often under-appreciated and under-estimated (or simply avoided)」だと書かれています。過小評価されるか、単に避けられる、と名指しされていました。書かれたのは2017年です。2023年に整理し直された文章では「Assessing the product risks is the first thing we do」と、順番まで明示されています。僕がやったのは、4つ目のリスクの優先順位を最後に回すことでした。

⑦ 変えてみて、何が良くなって、何を失ったか

「変えてみて、何が良くなって、何を失ったか」を図解したスライド|通り道を1本にしてから、変わったことがあります

通り道を1本にしてから、変わったことがあります。話しかけて取った予約が、メニューを問わず施術者ごとの90分の枠として台帳に記録されるようになりました。毎日の突き合わせも、経路別に数える必要がなくなり、アプリの予約数と台帳の枠数という2つの数字を見るだけになっています。数字が合っているかを誰でも確かめられる状態になったことが、いちばん大きい変化でした。

ただ、代償があります。3件書いておきます。

1件目。話しかけるだけでは完結しなくなりました。既存の予約処理の形式に合わせたので、予約が終わるまでにユーザが画面を触る回数が3回ぶん増えています。

2件目。アプリをアップデートしていないユーザの端末では、撤去したはずの旧経路がまだ動きます。開発側からユーザの端末の中身は消せません。旧経路から予約が入ったときは店長のメールへ転送し、店舗の担当者が確認して手で台帳に記録する手順を1つ足しました。あわせて、仮置きだったスタッフ向けカレンダーは、月に一度、店舗の担当者が開いて空であることを確かめています。

3件目。専用に作った予約処理を、丸ごと捨てました。1,547行のうち、予約の中身に関わる部分で残ったのは予約画面と予約処理の繋ぎの107行だけです。先に出口から作る順番で始めていれば、払わずに済んだ代償でした。

⑧ 現場で決めるなら、この3つの問い

「現場で決めるなら、この3つの問い」を図解したスライド|新規事業を立ち上げるときに、どこから作るかを決める問いは3つです

新規事業を立ち上げるときに、どこから作るかを決める問いは3つです。

1. 受けた注文は、現場の誰かの作業になるまで通っているか。通っているなら、入口を足してかまいません。通っていないなら、入口より先にそこを通します。いちばん効くのはこの問いです。出口が1本通っていれば入口はあとから何本でも足せますが、逆にすると、入口の数だけ届いていない経路が増えます。

2. 入口ごとに、別の通り道を作っていないか。作っていないなら、そのまま進めます。作っているなら、1本に寄せてから次へ進みます。繋ぎ忘れは、通り道の数に比例して増えます。

3. 注文が届かなかったとき、ユーザか現場のどちらかが気づけるか。気づけるなら、任せてかまいません。気づけないなら、数字の突き合わせか、人が定期的に見る手順を残します。今回の予約は、ユーザには成立して見え、店には最初から存在しませんでした。落ちた瞬間には誰も困らないので、放っておけば苦情が来るまで見つかりません。毎日の突き合わせを決めていたことが、3日目の発見につながりました。

入口から出口までを1本の道として見る方法は、扱っているものには依存しません。90分の施術でも、修理の受付でも、部品の手配でも同じです。受けたものが、誰かの作業として立つところまでが1本の道です。

⑨ この順番が効き続ける理由

「この順番が効き続ける理由」を図解したスライド|作るのが速くなるほど、出口から作るか入口から作るかの差は開くと考えています

作るのが速くなるほど、出口から作るか入口から作るかの差は開くと考えています。速くなって増えるのは、入口のほうだからです。話しかける入口、地図アプリから入る入口、外部の予約サイトから入る入口。予約導線を2時間で作れる速度は、そのまま入口を量産する速度になります。

一方で、出口は増えません。施術者の90分は1つで、そこに予約が登録されるかされないかの、どちらかしかありません。入口が10本になっても出口が1本のままなら、繋ぎ忘れの起きる場所は10通りに増えます。しかも、繋がっていない経路の不具合は、受けた時点では誰の目にも見えません。ユーザの画面には「ご予約を承りました」と出るからです。速く作れる時代ほど、出口を先に通し、数字を毎日突き合わせる決まりが効いてきます。

そもそも、教科書が入口から作れと言ってきたことには、理由がありました。出口——受けた予約を台帳の枠として登録する側——は基幹の処理で、作り込むには時間と費用がかかる。ニーズが無かったと分かったとき、いちばん大きな損失が出る場所でした。だから、安く作れる画面で先に確かめろ、という順番には、その時代なりの合理性があります。

その前提が、いま崩れています。基幹の処理の変更に、たいした時間がかからなくなったからです。出口を先に1本通しても、ニーズが無ければ捨てられる大きさで作れます。出口から作るという順番は、正しくなったのではなく、作れるようになったのです。

もうひとつ、検証のあり方も変わりました。開発期間が短くなると、ニーズ検証だけを切り出した活動は、役割の幅を狭めていきます。検証で作ったものを捨てて本番を作り直すのではなく、検証を始めたその仕組みのまま、事業を育てていく。そうなると先に要るのは、日々のグロースで増えていく入口の拡大に耐えるインフラです。出口を先に1本通しておくことは、戦略の変更に応じて入口を足し続けられるシステムの、いちばん効率的な立ち上げ方になっています。

新規事業を立ち上げる順番をどう組むかは、新規事業コンサルとMVP・PoCのページに整理しています。PoCは、本格開発の前に小さく試して実現可能性を確かめる検証です。作りかけの入口が何本あるか数えかねている段階であれば、こちらからご相談ください。

撤去した3枚の画面のうち、1枚だけ手元に残してあります。日時を選ぶ画面で、90分の枠を横に並べて描いていたものです。よくできています。ユーザの予約には一度も使われていませんでした。

ゴミ箱のほうは、いまも4つ並んでいます。回収日をカレンダーに入れたので、廊下の袋は、先週2個だけ減りました。

以上です。

新規事業の立ち上げ よくある質問

新規事業の立ち上げは、どんな順番で進めますか?

事業領域(ドメイン)の策定 → 顧客と課題の特定 → 解決策の検証 → 事業性の検証 → 事業計画の作成 → 撤退基準の決定 → テストマーケティング → リリースと成果検証、の8段です。撤退基準を「売ってみる」より前に置くのが要点で、後から決めると出た結果に合わせて基準のほうが動きます。

新規事業は、何から着手すればよいですか?

アイデア出しではなく、自社の資産の棚卸しからです。顧客・技術・販路・信用のうち何が使い回せるかを紙1枚に出すと、戦う場所が絞れます。ここを飛ばして多角化から考え始めると、資産の無い場所でゼロから戦うことになります。

実装は、どの部分から作り始めるべきですか?

いちばん外れたら困る前提を確かめられる部分、止まると事業が成立しない部分、手作業で代替できない部分からです。逆に手作業で回せる部分は後回しにできます。表は製品として見せて裏は人がやる形でも、確かめたいことは確かめられます。工程の順番と、作る順番は別の判断です。

新規事業の立ち上げには、何人必要ですか?

人数より役割です。初期に要るのは、決める人・作る人・売ってみる人の3役です。兼務でも構いませんが、決める人と売ってみる人は分けてください。自分で売った結果を自分で評価すると、判断が努力量に引きずられます。また「決める人」を兼務にすると、決裁が他部署に回るたびに1週間が消えます。

新規事業がうまくいかない会社に共通するのは何ですか?

撤退基準を決めていないことと、失敗を許容しない評価制度です。どちらも担当者の努力では解けず、始める前の設計で決まります。ほかに、兼務で時間が取れない、資産の棚卸しをしていない、顧客に会っていない、という型があります。5つとも始める前に防げます。

新規事業の立ち上げは、何から始めればよいですか?

客が最初に触る画面ではなく、受けた予約や依頼が現場の誰かの作業になる出口から始めます。記事の整体院では、指名された施術者の90分の枠が店の台帳に立つところが出口でした。そこまでの道を1本通してから、話しかける画面などの入口を足します。出口が通っていれば、入口はあとから増やせます。

新規事業で客が触る画面から作ると、なぜ失敗することがあるのですか?

入口を先に作ると、あとから出口を作った際に、既存の入口を新しい出口へ繋ぎ変え忘れることがあるからです。記事では予約画面を作った35日後に台帳へ枠を立てる出口を作りましたが、話しかける入口だけは古い控え表へ書き込み続けました。客には予約完了と表示され、店には予約が存在しなかったため、さらに73日間気づけませんでした。結果として、合計108日ぶんの予約が誰も開かない控え表に溜まりました。

MVPで予約や依頼の入口が複数ある場合、どう設計すればよいですか?

入口ごとに現場までの別経路を作らず、予約や依頼が通る道を1本に寄せます。記事では、話しかけると既存の予約フォームが開く形に変え、聞き取ったメニューと希望時間帯だけを先に埋めるようにしました。客が同じ確認画面を通り、支払いを終えたあとで台帳に枠が立つため、入口が違っても出口は共通になります。

新規事業の立ち上げで、処理漏れに早く気づくにはどうすればよいですか?

予約や依頼の入口を1本ずつ、現場の台帳や作業までたどって点検します。届かなかったときに客か現場のどちらかが気づけるかも確認します。記事の事例では客には予約が成立して見え、店には最初から存在しなかったため、落ちた瞬間には誰も困らず、作り手にも情報が届きませんでした。そのため、月に一度は控え表を人が開く手順を追加しています。

新規事業を出口から作るメリットは何ですか?

受けたものが現場の仕事として成立するため、利用が少ないのか、途中で届いていないのかを区別できます。記事では、話しかけて取った予約が施術者ごとの90分の枠として台帳に立つようになり、新店舗の予約数を既存店の同じ週と比べられるようになりました。出口が1本通っていれば入口を追加しても行き先を共通にでき、繋ぎ忘れを減らせます。

予約の入口を1本に寄せると、どのようなデメリットがありますか?

記事の事例では、話しかけるだけでは予約が完結せず、客が画面を触る回数が3回増えました。新しい版へ更新していない端末では古い画面が残るため、その経路からの予約は店長のメールへ転送し、人が手で台帳に立てる手順も必要になりました。また、客から二度と表示されない画面が11枚見つかり、作った画面を捨てることになりました。出口を共通化すると確実性は上がりますが、操作の手軽さや既存実装の一部を失う場合があります。

You May Also Like

AI機能を“足す”ほどプロダクトは使われなくなる ― 機能の数と価値は比例しない

競合に追いつこうとAI機能を足したのに、なぜかプロダクトが使われなくなる――その逆説を、実家のテレビのリモコンの話から、足し算ではなく引き算のAIプロダクト開発まで、ゆるっと書きました。AI機能の数と、プロダクトの価値は比例しないのです。
View Post

AIの活用事例|自動化できる業務10種と、公表値だけで読む7社

「他社はどこまでやっているのか」——生成AIの社内導入を任された担当者が、稟議の材料としていちばん最初に集めるのが活用事例です。ところが検索して出てくる事例集の多くは、ツール会社の宣伝か、効果の数字が…
View Post
稟議書の書き方|基本構成・例文と、決裁との違い

稟議書の書き方|基本構成・例文と、決裁との違い

稟議書とは、社内で決裁を得るために回す申請文書です。全社に生成AIツールを入れる稟議を題材に、教科書どおりに書いて差し戻され、中身を変えずに通るまでを追います。決裁者が見ていたのは企画の良し悪しではなく、その支出がどの科目に載るかでした。資産計上と経費計上では承認の階層も所要時間も違う。同じAI導入でも構成次第で科目が変わるところまで、そのまま使える確認シートで置きます。
View Post

AIエージェントの活用事例|業務別10種と業界別の使われ方、導入3ステップ

AIエージェントの事例を、各社が公表している数値だけで6件並べました。セールスフォース、モルガン・スタンレー、コモンウェルス銀行、ルーメン、パナソニック コネクト、横浜銀行。置いた工程・人の承認位置・効果の単位・段階という4つの列で比べ、自社の業務がどれに当たるかを引ける対応表にしています。
View Post