「取適法の勧告とは?トリドール事案の要点」の全体像をまとめた図解|取適法の勧告は、公正取引委員会が違反した委託事業者に減額分の返金や再発防止を求める措置で、2026年9月9日にはトリドールホールディングスが受注者37名への約1億4741万円の返還などを求められました。

取適法の勧告とは?トリドール事案の要点

X長文記事の表紙。共創×公取委「トリドール勧告の読み方」、見られているのは名前ではない

取適法の勧告は、公正取引委員会が違反した委託事業者に対し、減じた代金の支払いや再発防止の措置を求める行政上の措置で、2026年9月9日には丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスが、受注者37名から差し引いた代金(2024年8月〜2025年12月分だけで1億4741万1330円)の支払いなどを勧告されました。ただし、この事案で新規事業の担当者が読むべきなのは金額ではありません。契約書の上では卸売業者が発注していたのに、公取委は「誰が仕様と代金を決めていたか」で委託元を認定しました。

社外のスタートアップや制作会社、SIと組んで新規事業をつくる発注側にとって、この判断の向きは他人事ではありません。本記事では、勧告の中身、根拠となった下請法と取適法(中小受託取引適正化法)の関係、2026年1月の改正点を、公取委の公表資料にもとづいて解説します。そのうえで、共創やオープンイノベーションの名の下で発注側が何に気をつけるべきかを考察し、発注前のチェックリストにまとめます。なお、本記事は公表資料の整理と実務上の考え方の紹介であり、個別の取引についての法的助言ではありません。

要点

論点公表資料で確かめられたこと発注側への示唆
根拠の法律改正前の下請法と改正後の取適法の両方に基づく勧告。違反法条はどちらも「代金の減額の禁止」2025年12月以前の発注と2026年1月以降の発注で、効く法律が切り替わる
委託元の認定発注も支払いも卸売業者が担っていたが、仕様・受注者の選定・代金の額を決めたトリドールHDを委託事業者と認定間に事務局や商流を挟んでも、決めている側に義務が及び得る
減額の認定「システム利用料」の名目で、代金から例外なく一律に1.1%を差し引いた方法を減額と認定利用料・手数料・協賛金といった名目の差引きは、中身で見られる
勧告の内容減じた額の支払い、2026年1月以降分は年14.6%の遅延利息、取締役会の決議での確認、発注担当者への研修など是正は現場ではなく経営の議題になる
共創への射程2026年6月24日の知財取引指針が、無償のPoC(実現できるかを試す検証)や貢献度と切り離した成果の帰属を問題になり得る行為として示した共創の契約も、名目ではなく実態で読まれる前提で組む

何が起きたか

公正取引委員会は2026年9月9日、株式会社トリドールホールディングスに対して勧告を行ったと公表しました。根拠は、改正前の下請法第7条第2項と、改正後の取適法第10条第1項です。違反法条は、改正前の下請法第4条第1項第3号と改正後の取適法第5条第1項第3号で、どちらも「代金の減額の禁止」です。

公表文によると、トリドールホールディングスは卸売業者を介して、受注者(下請事業者または中小受託事業者)37名に、自社が子会社に販売する食品の製造を委託していました。そして2024年(令和6年)8月から2026年(令和8年)7月までの間、その代金の額から「システム利用料」の名目で、例外なく一律に1.1%を乗じた額を減じていたとされています。このうち2024年8月から2025年12月までに減じた額が1億4741万1330円です。2026年1月以降の分は金額が公表されておらず、遅延利息の対象として勧告に入っています。

勧告書(公取適第1083号)の主文は、6つの措置を求めています。

  • 受注者37名に、減じた額を公正取引委員会の確認を得たうえで速やかに支払うこと(2026年1月以降の委託分は、年14.6%の遅延利息を加える)
  • 減額が下請法・取適法に違反することと、今後減額しないことを、取締役会の決議で確認すること
  • 発注担当者への取適法の研修など、社内体制を整えること
  • 勧告を受けたことと採った措置を、役員・従業員に周知徹底すること
  • 同じ内容を取引先の中小受託事業者に通知すること
  • 採った措置を速やかに公取委に報告すること

時系列で並べると、取引の期間が法改正をまたいでいたことが分かります。

時期出来事出典
2024年6月頃トリドールHDが卸売業者に、受注者への製造委託を依頼しはじめる勧告書 理由 第1
2024年8月「システム利用料」1.1%の差引きが始まる公表文
2025年5月16日・23日下請法の改正法が成立・公布公取委 取適法ページ
2025年12月までこの期間の委託には改正前の下請法を適用。減じた額は1億4741万1330円公表文
2026年1月1日取適法が施行。以降の委託には取適法を適用公取委 改正法概要
2026年7月まで差引きが続く公表文
2026年9月9日公取委が勧告を公表公表文・勧告書

この勧告は2日にわたって @archeco_ai でも取り上げました。最初の投稿は論点を3つに分けたもの(@archeco_ai の投稿(9月9日))、翌日は共創の実務に落としたX長文記事の紹介です(@archeco_ai の投稿(9月10日))。本記事は、その内容を公表資料に当て直して書き直しています。

背景と用語

取適法(中小受託取引適正化法)とは

取適法は、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を改正した法律の通称です。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、公取委は略称を「中小受託取引適正化法」、通称を「取適法」としています。改正法は2025年5月16日に成立、5月23日に公布され、施行期日は2026年1月1日です。

呼び方も変わりました。「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」です。社内の発注規程や契約書のひな形が旧名称のままなら、それ自体は違反ではありませんが、改正点が反映されているかを点検するきっかけになります。

2026年1月の改正で何が変わったか

公取委の改正法概要が挙げる主な変更点は次のとおりです。

変更点中身
協議を適切に行わない代金額の決定の禁止代金の協議に応じない、必要な説明や情報を出さないまま、一方的に代金を決めることを禁止
手形払等の禁止手形払いを禁止。支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段もあわせて禁止
運送委託の追加製造・販売等の目的物の引渡しに必要な運送の委託を対象取引に追加
従業員基準の追加常時使用する従業員300人(情報成果物作成委託・役務提供委託等は100人)の区分を新設
面的執行の強化事業所管省庁による指導・助言などの規定を新設
遅延利息の対象拡大代金を減じた場合も、減じた額に年14.6%の遅延利息がかかる

従業員基準は、資本金基準が当てはまらない場合に使われます。資本金は小さいが従業員の多い発注者や、資本金は大きいが従業員の少ない受注者の組み合わせが、新たに対象に入り得るということです。自社と相手がどちらに当たるかは、公取委の取適法ページにある簡易診断ツールで、資本金・従業員数・委託内容から確かめられます。

取適法の目的と改正の背景

取適法(読み方は「とりてきほう」)の目的は、委託する側とされる側の取引を公正にし、受託側の中小企業の利益を守ることです。改正の背景には、労務費や原材料費、エネルギーのコストが急に上がるなかで、受託側が値上げを言い出せず、コストの上昇分を価格に移せないという問題がありました。政府は、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」を掲げ、その手段として下請法を見直しました(政府広報オンライン)。

対象になる取引と事業者

対象になる取引は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託(ソフトウェアやコンテンツの作成など)、役務提供委託(サービスの提供の委託)に、改正で加わった特定運送委託の5つです。特定運送委託は、販売する物品などを取引の相手に届けるための運送を、他の事業者に委託する取引で、無償の荷役・荷待ちの問題を受けて対象に加わりました。

対象になるかは、取引の種類と、双方の資本金または従業員数の組み合わせで決まります。資本金の基準か従業員の基準のどちらかに当てはまれば対象です。

取引の種類委託事業者(発注側)中小受託事業者(受注側)
製造委託・修理委託・特定運送委託、プログラム作成・運送・倉庫保管・情報処理の委託資本金3億円超資本金3億円以下
同上資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下
同上常時使用する従業員300人超従業員300人以下
それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託資本金5千万円超資本金5千万円以下
同上資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下
同上常時使用する従業員100人超従業員100人以下

従業員基準が加わったことで、減資して資本金基準から外れる、受注者に増資を求めて対象外にする、といった基準の外し方は通りにくくなりました。なお、受注者がフリーランスにも当たり、両方の法律に違反する行為があった場合は、原則としてフリーランス・事業者間取引適正化等法が優先して適用されます。

委託事業者の4つの義務

義務中身
発注内容等の明示給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを、書面か電子メールなどで明示する。電子メールなどでの明示は、受注者の承諾がなくてもできるようになった
取引記録の作成・保存取引の記録を書類か電磁的記録で作成し、2年間保存する
支払期日の設定物品などを受け取った日から60日以内の、できる限り短い期間で支払期日を決める
遅延利息の支払い支払期日までに払わなかった場合、受領日から60日を過ぎた日から払う日までの日数に応じて、年14.6%の遅延利息を払う。正当な理由なく減額した場合も、減額分に遅延利息がかかる

明示する中身には、双方の名称、発注した日、給付の内容、納期、受け取る場所、検査をするならその完了日、代金の額(または算定方法)、支払期日と支払方法などが入ります。メールやチャットでの簡単な依頼であっても、発注に当たるなら明示の義務はかかります。

委託事業者の11の禁止行為

禁止行為中身
1. 受領拒否発注した物を受け取らない。発注の取消しや納期の延長を理由にする場合も含む
2. 支払遅延定めた支払期日までに払わない。手形の交付や、期日までに現金化しにくい支払手段も禁止(改正で追加)
3. 減額発注後に代金を減らす。協賛金などの名目や方法を問わない。振込手数料を受注者に負担させて代金から差し引くことも減額に当たる
4. 返品受け取った後に返品する。不良品なら受領後6か月以内は返品できる
5. 買いたたき同種の物の市価などに比べて、著しく低い代金を不当に決める
6. 購入・利用の強制指定する製品や保険、リースなどの購入・利用を強制する
7. 報復措置違反を公取委・中小企業庁・事業所管省庁に知らせたことを理由に、取引停止などの不利益に扱う。事業所管省庁への通報も対象に加わった
8. 有償支給原材料等の対価の早期決済有償で支給した原材料の代金を、製品代金の支払日より早く払わせる
9. 不当な経済上の利益の提供要請協賛金や従業員の派遣などを不当に求める
10. 不当な給付内容の変更・やり直し取消しや変更、やり直しをさせながら、その費用を負担しない
11. 協議に応じない一方的な代金決定価格の協議を求められても応じず、必要な説明もせずに代金を決める(改正で追加)

11番目は、値上げに必ず応じる義務ではありません。求められた協議に応じ、説明を尽くしたうえで決めることが求められています。

違反したときの措置

違反に対しては、公取委・中小企業庁による指導・助言のほか、改正で事業所管省庁の主務大臣にも指導・助言の権限が加わりました。不利益が大きい場合は公取委が勧告し、社名と違反の内容を公表します。さらに、発注内容の明示義務や取引記録の作成・保存義務の違反、報告の拒否や虚偽の報告、立入検査の拒否などには、50万円以下の罰金が科されることがあります。

勧告とはどういう措置か

勧告は、公取委が違反を認めたときに、違反した委託事業者へ減額分の支払いなどの必要な措置を求めるものです。取適法では第10条に規定があります。公取委は勧告を報道発表として公表しており、社名と違反の内容が一般に知られることになります。2026年9月の報道発表資料だけでも、トリドールを含む4件の勧告が並んでいます。

今回は、取引期間が改正をまたいだため、2025年12月までの委託には改正前の下請法(経過措置で「なお従前の例による」とされた第7条第2項)、2026年1月以降の委託には取適法第10条第1項と、二つの根拠条文が並びました。減額の禁止は改正前からある禁止行為で、今回の勧告は改正で新設された項目を適用した事例ではありません。改正で加わったのは、減額分にも遅延利息がかかるという点です。

「委託」は名義ではなく、誰が仕様を指定したかで決まる

今回の判断の中心は、「名前ではなく誰が決めたか」で委託元を認定した点です。投稿で書いたこの論点は、公表資料の三か所に対応しています。

一つ目は、勧告の概要資料の「補足① 受託取引の認定」です。トリドールホールディングスが製造委託の内容(製品仕様、中小受託事業者の選定、代金の額等)を決定していたことから、事務手続の代行を行っていたにすぎない卸売業者ではなく、トリドールホールディングスが委託事業者になる、と書かれています。

二つ目は、勧告書の「理由 第1 事実」です。トリドールホールディングスが、自社の指定した仕様、代金の額その他の取引条件で受注者に委託するよう卸売業者に依頼し、卸売業者はそのとおりの条件で委託した、と認定されています。

三つ目は、補足①が引用している公取委の取適法テキストのQ&Aです。商社が製造委託等の内容に全く関与せず、注文書の取次ぎや代金の請求・支払といった事務手続の代行をしているにすぎない場合、その商社は委託事業者にも中小受託事業者にもならず、発注者が委託事業者になる、とあります。続けて、その場合の委託事業者は商社と外注先の取引内容を確認し、商社を指導する必要がある、とも書かれています。同じテキストには、「委託」に当たるかどうかは請負か売買かといった契約上の形態を問わない、という説明もあります。

名目をつけた差引きが「減額」とされた理由

減額の認定は、補足②に書かれています。トリドールホールディングスと卸売業者の間では、卸売業者がトリドールHDに情報システムを無償で利用させること、代金の1.1%相当額を「システム利用料」の名目で受注者から徴収すること、徴収額の一部をトリドールHDに支払うことが取り決められていました。代金の支払い時に一律に差し引かれる方法を採っていたことから、トリドールHDが代金の額を減じたと認定されています。

ここで見られたのは費目の名前ではなく、受注者の手取りが受注者の責めに帰すべき理由なしに、例外なく一律に減る仕組みがあったかどうかです。なお、9月9日の投稿では「自社負担分は払わず全額を下請けに転嫁」と書きましたが、公表資料の表現は「トリドールHDに無償で利用させる」取決めです。本記事では公表資料の表現に合わせています。

なぜ重要か

この勧告が新規事業の担当者にとって重要なのは、外食や食品製造の業界ルールではなく、取引の当事者をどう判定するかの考え方を示しているからです。

公取委が名目ではなく実態で判断した3点として、委託事業者の認定は名義ではなく仕様・選定・代金を決めた側、減額の認定はシステム利用料の名目でも一律1.1%の差引きは減額、適用法は改正前の下請法と改正後の取適法の両方、と整理した図

新規事業の現場では、契約の形と意思決定の形がずれることがよくあります。グループ会社や事務局会社、商社を契約の当事者に立てる。けれども、どのスタートアップと組むか、何を作ってもらうか、いくら払うかは事業会社の新規事業部門が決めている。今回の判断に照らすと、このずれは「間に一社挟んだから自社は当事者ではない」という説明を支えにくくします。

もう一つは、名目の設計で負担を移す発想が通りにくくなったことです。プラットフォーム利用料、事務局手数料、検収システムの利用料、イベントの協賛金。新規事業の座組みには、相手の手取りから差し引く費目が生まれやすい構造があります。その費目が、相手の責めに帰すべき理由なしに一律に代金を減らしているなら、名前が何であれ減額と見られる可能性があります。

そして、取適法の改正で従業員基準が加わったことで、資本金だけ見て「この相手は対象外」と判断していた取引の前提が変わりました。スタートアップは資本金が大きくても従業員が少ないことがあり、逆に発注側の新会社は資本金が小さくても親会社から人が出ていることがあります。どちらの組み合わせになるかは、案件ごとに確かめるしかありません。

考察:新規事業への示唆

ここからは、この記事の発信元であるARCHECO(AIと新規事業の支援会社)の読みです。トリドールの件は食品の製造委託で、新規事業の共創とは取引の種類が違います。それでも同じ判断の向きは、2026年6月24日に公取委・中小企業庁・特許庁が公表した「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(知財取引指針)にも表れています。

指針は、共同研究開発の成果の帰属は技術やアイデアの貢献度によって決められることが原則だとし、自己の内規や従前の取引慣行のみを理由に、貢献度によらず成果を一方的に自社に帰属させるような条項を当然の前提としないよう求めています。無償の技術指導・技術検証(PoC)・試作品製造等についても、正当な理由がないのに無償で実施させれば発注者が本来負担すべき費用が受注者に転嫁される、と整理しています。公取委と経済産業省のスタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(2026年2月19日改正)も、無償のPoCや正当な理由のないPoCのやり直しを、問題となるおそれのある行為として挙げています。

共創の取引に向かってきた動きとして、ルールの側に2026年9月9日のトリドールHDへの勧告と2026年6月24日の知財取引指針、後押しの側に2022年のスタートアップ育成5か年計画と2026年5月のスタートアップ総力創出パッケージを並べた図

勧告は「誰が決めたか」、指針は「誰が貢献したか」を問います。どちらも、契約書の文言より取引の実態を先に見るという同じ向きです。共創やオープンイノベーションという言葉は対等な関係を連想させますが、仕様と金額を決めているのが一方だけなら、制度の側から見れば発注と受注の関係として読まれる可能性がある、とARCHECOは見ています。

この論点が今後さらに効いてくると考える理由は、外部への依頼の中身が変わっているからです。ARCHECOが生成AIを週1回以上使う新規事業の関与者420名に行った生成AI時代の新規事業開発 実態調査では、外部のコンサル・支援会社への依頼の変化として最も多かったのが「実行・検証の支援の比重が増えた」39.8%で、「戦略立案・資料作成の比重が増えた」18.3%の2倍を超えました。外部パートナーの選定基準でも「実行・検証まで伴走してくれるか」が38.8%で最多です。実行と検証を外に出すほど、試作、PoC、開発といった、仕様を指定して作ってもらう取引が増えます。

同じ調査では、企画は速くなったのに検証・意思決定が追いついていない組織が27.4%ありました。企画の本数が増え、検証を外に頼む比重が上がり、そのうえで決裁が詰まっている。この状態では、契約を整える前にPoCを走らせる、対価は成果が出てから決める、という順番になりやすいと考えます。速さの副作用は、契約の粗さとして出てくるということです。調査の数字は同一時点の分布で、因果を示すものではありませんが、発注前の確認を工程として先に置く理由にはなります。

実務の工程に落とすなら、発注前の確認は法務の個別相談ではなく、検証のゲートに組み込むほうが漏れにくくなります。ARCHECOがステージゲート伴走で扱う設計でも、ゲートの通過条件に「対価と成果物の扱いが文書になっているか」を入れると、確認が担当者の記憶に頼らなくなります。

実務で使うなら

X長文記事で「明日見直す5点」として挙げたものを、発注前のチェックリストに組み直しました。取適法の対象かどうかにかかわらず、共創の取引で先に確かめておきたい項目です。最終的な判断は、自社の法務や弁護士と一緒に行ってください。

共創の現場で明日からできる5つとして、PoCの対価と成果物の扱いを始める前に決める、共同研究は期待される貢献を先に書く、NDAが片務的でないか読み直す、利用料・協賛金・手数料の名目を棚卸しする、公表された契約書ひな形を一度読む、を並べた図
確認すること見る資料確認できなければ
仕様・相手の選定・金額を、実際にはどの会社の誰が決めているか稟議書、発注依頼、会議の議事録契約の当事者と決めている人がずれている。間に入る会社の取引内容も自社で確認する
自社と相手が、資本金基準か従業員基準で取適法の対象になるか相手の登記情報と従業員数、公取委の簡易診断ツール対象かどうか分からないまま発注しない
PoCの対価、ゴール、共同研究に進む条件が始める前に書かれているかPoC契約書、発注書無償や成果払いのPoCなら、その理由を文書で説明できるか確かめる
成果物と知財の帰属が、役割分担と貢献度に沿っているか共同研究契約書、知財条項帰属条項より先に、誰が何を持ち込み何を作るかを書く
代金から差し引く費目(利用料・手数料・協賛金)がないか支払通知、検収規程、プラットフォーム利用規約相手の責めによらず一律に手取りが減る仕組みなら見直す
代金の見直しを求められたときに協議する場があるか契約の価格改定条項、交渉記録協議に応じずに一方的に代金を決めない
支払手段が手形や、期日までに現金化しにくい方法になっていないか支払条件現金・振込など期日までに代金相当額が届く方法に変える
NDAが片務的になっていないか秘密保持契約書自社だけが開示を受ける形、自社だけが目的外利用できる形を直す

表の中で最初に手をつけるなら、一行目です。契約書の当事者欄ではなく、実際に仕様と金額を決めた人の名前を書き出してみてください。そこに自社の担当者の名前が並ぶなら、間に誰が入っていても、自社が発注者として見られる前提で残りの行を確かめるのが安全です。

契約の種類ごとの違いは準委任契約と請負の違いと契約時の注意点で、開発の発注先の選び方はAI開発会社の比較基準と発注の進め方で扱っています。PoCから先の段取りはプロトタイプ開発の進め方とMVPへ進む基準、知財を対価に変える契約の項目はライセンス契約の前に決める項目、依頼先の類型ごとの比較は新規事業の外注先の類型比較が参考になります。

よくある質問

取適法の勧告とは何ですか?

公正取引委員会が、取適法に違反した委託事業者に対して、減じた代金の支払いや再発防止などの必要な措置を求めるものです。取適法第10条に規定があります。公取委は勧告を報道発表として公表しており、社名と違反の内容が一般に知られます。2026年9月9日のトリドールホールディングスへの勧告もその一つです。

取適法と下請法の違いは何ですか?

取適法は下請法を改正した法律で、2026年1月1日に施行されました。名称が変わり、親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者と呼ばれます。協議を適切に行わない代金決定の禁止、手形払等の禁止、運送委託の追加、従業員基準の追加、減額への遅延利息の拡大などが加わりました。

トリドールホールディングスへの勧告は下請法と取適法のどちらに基づくのですか?

両方です。2025年12月までの委託には改正前の下請法(第7条第2項)、2026年1月以降の委託には取適法(第10条第1項)が適用されました。違反法条はどちらも代金の減額の禁止で、改正で新設された項目が適用された事例ではありません。

トリドールの勧告では、何がいくら問題とされたのですか?

卸売業者を介して受注者37名に食品の製造を委託し、2024年8月から2026年7月まで、代金から「システム利用料」の名目で一律に1.1%を差し引いていたことが減額とされました。2024年8月から2025年12月までに減じた額は1億4741万1330円です。

卸売業者が発注していたのに、なぜトリドールが委託事業者とされたのですか?

製品仕様、受注者の選定、代金の額を決めていたのがトリドールホールディングスで、卸売業者は発注や支払いの事務手続を代行していたにすぎないと認定されたためです。公取委の取適法テキストにも、事務手続の代行だけをする商社は当事者にならず、発注者が委託事業者になるとの説明があります。

取適法の従業員基準とは何ですか?

2026年1月の改正で加わった適用基準です。常時使用する従業員が300人を超える委託事業者が300人以下の事業者に委託する場合(情報成果物作成委託・役務提供委託等は100人)に対象となります。資本金基準が当てはまらない場合に使われ、該当するかは公取委の簡易診断ツールでも確かめられます。

勧告を受けると、企業は何をしなければならないのですか?

トリドールの例では、減じた額の支払い(2026年1月以降分は年14.6%の遅延利息つき)、取締役会の決議による違反と再発防止の確認、発注担当者への研修などの社内体制の整備、役員・従業員への周知、取引先への通知、公取委への報告が求められました。

利用料や手数料の名目なら、代金から差し引いても問題ないのですか?

名目だけでは判断されません。今回の勧告では、「システム利用料」の名目でも、受注者の責めによらず例外なく一律に代金が減る方法を採っていたことから減額と認定されました。費目の名前ではなく、相手の手取りがどう減る仕組みかを確かめる必要があります。

スタートアップとの共創やPoCも、この勧告と関係がありますか?

取引の種類は違いますが、判断の向きは共通しています。2026年6月24日の知財取引指針は、無償のPoCや、貢献度によらず成果を一方的に自社に帰属させる契約を問題になり得るものとして挙げています。誰が決め、誰が貢献したかという実態で読まれる前提で、発注前に対価と成果物の扱いを決めておくのが安全です。

新規事業の発注前に、最初に確認すべきことは何ですか?

仕様、相手の選定、金額を実際に決めているのが誰かを書き出すことです。契約の当事者欄と決めている人がずれていれば、間に入る会社があっても自社が発注者として見られる前提で、対価、成果物の帰属、差し引く費目、支払手段を確かめます。個別の判断は法務や弁護士と行ってください。

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