新規事業の評価軸|6軸の作り方と評価基準・評価シート

新規事業の評価軸|6軸の作り方と評価基準・評価シート

「新規事業の評価軸|6軸の作り方と評価基準・評価シート」の全体像をまとめた図解|採点表を見ると、僕は少し安心します

新規事業の評価軸は、市場性・収益性・競争優位・実現可能性・親和性・意思の6つに整理できます。この記事では、6軸それぞれの見方と評価基準の作り方、そのまま使える評価シートの形まで順に扱います。

ただ、軸の話より先に伝えたいことがあります。採点表には妙な力があります。空欄を埋めていくと仕事が整って見え、事業の当事者だったはずなのに、採点している間だけ審査員の気分になる。そして気づかないうちに、顧客に確かめる代わりに、表を埋めることが検証の代わりになっていきます。評価会議は通るのに、顧客は1人も増えていない——この記事の後半は、その状態に落ちて、抜け出した話です。

舞台は食品メーカーの新規事業室。僕は複数の事業案を比べる評価設計と、評価会議の運営に参加しました。※複数の実経験をもとに再構成した架空のプロジェクトです。起きている力学は実際のものです。この記事では、事業案を選び、次の検証へ送り出す工程を扱います。

前置きはさておき、本題に入ります。

① 教科書どおりに、6軸で評価してみる

「① 教科書どおりに、6軸で評価してみる」を図解したスライド|評価の目的は、案の格付けではありません
新規事業の評価軸の基本をすでにご存じの方は、② そのとおりに回して、詰まるから読み進められます。

その評価は何のためか — 既存事業の物差しを持ち込まない

評価の目的は、案の格付けではありません。次にどの案へ時間と資金を使うかを決めることです。

新規事業に既存事業の基準をそのまま持ち込むと、まだ売上も利益も小さい芽を摘みます。そこで僕は、完成度を比べるのではなく、不確実な段階でも次に資源を使う理由があるかを見ます。評価会の冒頭で「今日は順位ではなく、次に何へ資源を配るかを決める」と読み上げるだけでも、議論の向きが揃います。

軸より先に、「何を良しとするか」を決める

単一の指標だけでは新規事業の一面しか見えないため、軸は複数必要です。ただし、軸を並べる前に、今回の評価で何を良しとするかを一文にします。

たとえば「既存顧客との接点を生かし、3年後の収益源になり得る案を優先する」のように、事業目的と時間軸を明記します。この一文がなければ、同じ点数でも評価者ごとに「良い」の意味が変わります。

6軸で、実際に何を見るか

まず、6つの意味を揃えます。新規事業の評価基準は、次の形です。

評価軸確かめる問い見る内容
市場性課題と需要はあるか顧客、課題、市場の広がり
収益性続けられる利益が出るか価格、費用、収益の構造
競争優位選ばれる理由はあるか代替手段、模倣の難しさ
実現可能性今の条件で試せるか人材、技術、資金、時間
親和性自社がやる意味はあるか資産、顧客、既存事業との接続
意思困難でも続けたいか責任者の覚悟、経営の意向

市場性は、対象顧客を区切り、顧客数と利用頻度、支払額の仮説を掛けて市場の広がりを測ります。公開情報だけで大きく見せず、顧客への聞き取りで課題の頻度と強さも確かめます。

収益性は、想定価格から顧客一人を獲得し提供し続ける費用を引き、販売量が増えたときに利益が残る構造かを見ます。価格を尋ねるだけでなく、現状その課題へ払っている金額とも比べます。

競争優位は、同業の商品だけでなく、手作業、内製、放置を含む顧客の現在の代替手段を聞き出します。そのうえで、速さ、費用、使いやすさなど選ばれる差と、その差が模倣されにくい理由を確かめます。

実現可能性は、最初の検証に必要な人材、技術、資金、時間を分解し、今あるものと足りないものを一覧にします。「技術的に可能」で終えず、誰がいつまでに試せるかまで置きます。

親和性は、自社の顧客基盤、販売網、データ、ブランド、業務知識のどれが仮説に効くかを一つずつ確かめます。資産が「ある」ことではなく、それを使う場合と使わない場合で獲得費用や検証速度がどう変わるかを比べます。

意思は、責任者が次の検証へ割ける時間と、経営が提供できる人員・予算を具体にします。熱意という言葉だけでなく、難しい結果が出たときも仮説を更新して続ける担当者と支援者がいるかを見ます。

6軸に点数・根拠・次に確かめることの欄を付けたシートです。XLSX版でダウンロードPDF版でダウンロード

既存のフレームワークとの関係

BMO法は複数項目を点数化して事業案を比較する型、ステージゲートは段階ごとに通過条件を置く型です。僕の6軸は、BMO法のように比較するときの論点として使えます。一方、ステージゲートへ接続するなら、各段階で6軸の重みと必要な証拠を変えます。

名前を混ぜて項目を増やすのではなく、「何を測るか」は6軸、「いつ判断するか」はゲート、と役割を分けます。評価会の資料には、現在のフェーズと次の判断日を一行で添えます。

撤退基準は評価軸の外に置く

評価軸は案の魅力と次に確かめる価値を見るものです。撤退基準は、期限までにどの事実が得られなければ止めるかを決める別の条件として置きます。①では入口だけを定め、具体的な運用は②以降で扱います。

たとえば「市場性が低い」という点数ではなく、「判断日までに対象顧客の継続行動を確認できなければ、対象か提供方法を見直す」と書きます。低得点を罰する基準と、学習の期限を混同しないためです。

誰が、何人で採点するか

主観に流れないよう、採点には客観性の装置が要ります。実務には、複数の立場で偏りを薄める考え方と、経営者や新規事業の統括者に評価者を絞って判断責任を明確にする考え方があります。

僕は、事業責任者、顧客や市場を知る人、経営または新規事業の統括者の3人を基本にします。一人だけなら自分の案を高く見る「我が子バイアス」が出やすく、大人数なら役職者の意見へ寄りやすいためです。最初は別々に採点します。その後、点差の理由を話します。

評価の落とし穴

代表的なのは、自分が育てた案を高く見る「我が子バイアス」、役職者の採点へ寄る同調、情報量の多い案だけを高く見る偏りです。逆に、未知が多いという理由だけで初期案を落とすと、既存事業に近い案しか残りません。

対策として、採点前に評価者が別々に根拠を一行書き、「事実」「仮説」「未確認」を分けます。点差が出たら平均する前に、見ている証拠の違いを確認します。僕は、案の提案者を伏せるより、利害関係を明記して判断材料にするほうが実務で扱いやすいと考えています。

採点の前に、どこまで調べるか

根拠を添えるなら、事実を取る範囲も先に揃えます。各案について、公開資料で市場と競合を調べ、想定顧客5人を目安に課題と代替手段を聞き、社内の担当者に資産と実行条件を確認してから最初の採点に入ります。

まだ取れていない情報は無理に埋めず、「事実」「仮説」「未確認」の三つに分けます。調査量を揃えるのは、情報の多い案だけが高得点になるのを防ぐためです。

フェーズで重みを変える

事業のフェーズが変われば、確かめる指標も変わります。同じ重みを固定すると、着想時の案に収益の確かさを求めたり、拡大時まで熱意だけを重く見たりするためです。

着想時は、市場性と意思を重くします。検証時は、実現可能性も重くなります。拡大時は、収益性と競争優位が増します。親和性は、各段階で確認します。

点数は何段階にするか

複数軸を比べるには、全員が同じ点数の意味を使う必要があります。僕は迷いを減らせる3段階を基本にし、1点を「根拠がない、または条件を満たさない」、2点を「仮説はあるが未確認」、3点を「事実で確認できた」と定義します。

差を細かく議論したい組織なら5段階でも構いませんが、各点の判定文を先に書きます。ただ、刻みを細かくしすぎると、根拠が同じ案にも似た中間点が並び、意味のある差が出ません。段階を増やす前に、隣り合う点を分ける事実を言葉にできるかを確認します。さらに、点数には根拠を一行添え、事実と仮説を分けます。

ウェイトの付け方 — 何を基準に、何倍まで

6軸を同じ重さで扱う必要はなく、事業目的とフェーズに応じたウェイトが必要です。まず全軸を1倍にし、「何を良しとするか」の一文に直結する軸だけを2倍にします。3倍以上にすると一つの軸が他の弱点を覆いやすいため、僕は最大2倍までにします。

重みが2倍を超えると、一つの軸だけで合否が決まりやすくなり、複数軸で評価する意味が薄れるためです。たとえば既存顧客との接点を生かす目的なら親和性を2倍にし、理由を採点表の欄外へ残します。

合計点をどう扱うか(通過ラインと絶対評価)

合計点は比較に使えますが、弱点を平均点に隠さない扱いが必要です。3点満点の6軸なら、僕は合計12点以上を次の検討へ進める目安とし、同時に市場性と実現可能性が1点の案は合計点にかかわらず保留にします。

これは相対順位だけで案を選ばず、最低限満たす条件も見る絶対評価です。通過ラインは正解ではないので、評価会の前に決め、運用結果を見て調整します。

他社が使う軸は、6軸のどこに入るか

評価軸は複数必要ですが、名前を増やし続けると同じ内容を二重に採点します。持続可能性は収益性と実現可能性へ、新規性は競争優位へ、事業上のリスクは実現可能性へ畳み込みます。

理念との整合やステークホルダーへの価値は親和性に含め、責任者と経営のコミットメントは意思で見ます。独立軸にしたい場合も、まず6軸のどの問いでは拾えないのかを一行で説明します。

採点表そのものを見直す

基準は一度では完成しないため、案の点数と物差しそのものを分けて見直します。評価日を残して案の点数を定期的に更新するのは、古い仮説を残さないためです。

一方、四半期ごとに「高得点なのに進まなかった案」と「低得点でも進んだ案」を振り返り、軸の問い、点数の定義、ウェイト、通過ラインを修正します。採点表の版番号と変更理由を残せば、基準を変えた前後の評価を混同せずに済みます。

フェーズごとに見る指標が変わる

着想時は課題が本当にあるか、検証時は使われ続けるか、拡大時は経済性が成り立つかを見ます。検証以降では、有料利用へ移った割合である有料転換率、利用が続いた割合である継続率、顧客との取引全体で得る価値である顧客生涯価値と顧客を得る費用である獲得単価の関係、毎月繰り返し得る売上である月次経常収益、売上から直接費を引いた割合である粗利率が候補です。

基準値を借りず、前の期間や仮説との差を見ます。僕は評価表の先頭に現在のフェーズを書き、今は使わない指標を灰色にします。

KGI・KSF・KPIの階層と、KPIを絞ること

KGIは最終目標を測る重要目標達成指標、KSFは達成に不可欠な成功要因、KPIは途中の進み具合を測る重要業績評価指標です。「最終的に何を実現するか→そのために何が必要か→今週何を測るか」と上からつなぎます。

指標を増やすほど報告は厚くなりますが、何を動かす会議かが曖昧になります。僕は各KSFにつき、次の判断を変えるKPIだけを残し、変化しても行動が変わらないものは外します。

BMO法

BMO法は、事業の魅力度と、自社がその事業を遂行できる適応度の二つから案を見る考え方です。市場が魅力的でも自社に実行条件がなければ進めにくく、逆に得意でも需要がなければ事業にならないため、二面を分けます。

他社の配点表は写さず、僕は6軸のうち市場性・収益性を魅力度側、競争優位・実現可能性・親和性・意思を適応度側に仮置きし、片側だけ高い案を会議で問い直します。

ステージゲート法

ステージゲート法は、調査、試作、検証、拡大といった段階の間に関門を置き、次へ資源を出すかを決める考え方です。日本の組織では、関門が承認者を増やすだけの稟議になり、止める人はいても次の検証に責任を持つ人がいない状態で詰まりやすくなります。

僕は各関門に「進む・条件付きで進む・戻す・止める」の選択肢と、次の判断日、責任者を一行で置きます。

評価会議をどう回すか

起案者、事務局、市場や顧客を知る人、実行部門、資源配分を決める人が集まり、案の順位ではなく次の検証と投入する資源を決めます。起案者の説明、評価者の個別採点、点差の理由、判断の順に進めます。

決まらなければ「追加検討」で放置せず、不足する証拠、取りに行く人、再判断日を議事録に残します。これだけで、保留が事実上の否決になるのを防げます。

投資回収の期間をどこに置くか

回収期間は一律の年数では決まりません。初期投資の大きさ、粗利が積み上がる速さ、顧客獲得に先に出る費用、入金と支払いの時間差、技術や規制の変化、自社が資金を待てる余力で変わります。

僕は単一の回収年だけを置かず、単価、顧客数、継続、提供費用のどれが動くと回収時期がずれるかを表にし、最初に確かめる変数を一つ決めます。

点数で拾えない案を通す枠

全会一致だけを通過条件にすると、説明しやすい既存事業寄りの案が残ります。そこで、通常採択とは別に、少数の評価者が強い根拠を持ち、限定した検証費用で反証可能な案を試す枠を設けます。

例外枠は無条件の特別扱いではありません。僕なら推薦者、反対理由、最初に潰す仮説、次の判断日を一枚にし、点数で拾えなかった理由まで後で検証します。

通過の基準を、起案する前に公開する

提出後に基準を示すと、起案者は審査員の好みを推測して資料を作ります。募集時に評価軸、必要な証拠、通過後に得られる資源、保留や不通過の扱いを公開すれば、案を出す前から検証の方向が揃います。

僕は募集要項に採点例を一つ添え、質問を全起案者へ同じ形で共有します。基準を公開すると似た案ばかりにならないか、という疑問には、例外枠を別に置いて答えます。

基準には3つの役割がある(選ぶ/揃える/文化をつくる)

基準は、案を選ぶだけでなく、評価者の言葉を揃え、組織が何を大切にするかを行動で示します。曖昧なままだと、起案者は役職者の好みを読み、評価者は後付けで理由を作り、似た案でも結論が変わります。

僕は各軸に「この基準が増やしたい行動」を一行足します。たとえば市場性なら、机上の推計ではなく顧客へ会いに行く行動を増やす、と明記します。

社内コンテストで使うとき(一次審査と最終審査を分ける)

一次審査は、目的との整合、顧客課題、検証可能性など、短い資料でも比べられる条件で漏れなく見ます。最終審査は、起案者との質疑や追加調査を通じ、実行体制、経済性、学習の速さを深く見ます。

同じ採点表を二度使うと、最初から資料の作り込み競争になります。僕は一次では提出負担を軽くし、通過後に全案へ同じ追加調査の時間を渡します。

事務局・評価者・起案者の三方から基準を直す

事務局は運用負荷と判定のばらつき、評価者は判断に足りなかった証拠、起案者は読みにくい表現や準備負担を知っています。どれか一方だけで直すと、採点しやすいが検証には使えない基準になりがちです。

僕は評価会の後に三者から「残す・変える・足す」を一つずつ集め、変更理由と適用開始日を版管理表へ残します。

撤退できなくなる(埋没費用と組織の力学)

埋没費用とは、すでに使って取り戻せない費用です。本来は今後の判断から切り離すべきですが、担当者の評価、役員の発言、部門の面子と結びつくと、「ここまで使ったから」で継続しやすくなります。

僕は継続会議で過去の投入額を判断欄から外し、「これから追加する資源で、何が分かるか」を先に読み上げます。撤退は失敗の認定ではなく、次に資源を移す判断として記録します。

新規事業の担当者を人事でどう評価するか

売上がまだ結果として現れない期間は、学習の質と判断の速さを評価します。具体的には、重要な仮説を置けたか、顧客の事実を取ったか、不都合な結果を早く共有したか、継続・変更・停止を根拠付きで提案したかです。

僕なら期初に「売上責任」と「不確実性を減らす責任」を分けます。終了した案件でも、再利用できる知見と妥当な停止判断が残れば評価対象にします。

7つの検証項目

独自フレームの項目名を借りるのではなく、顧客、課題、提供価値、届け方、収益、実行条件、リスクという七つの箱を並べ、未確認の場所を探します。目的は七つを同じ深さで埋めることではなく、次の判断を壊しうる空欄を見つけることです。

僕は各箱を「事実・仮説・未確認」に分け、未確認のうち影響が最大の一つを次の検証へ回します。

点数をレーダーチャートで見る

レーダーチャートは複数軸の点数を放射状に置く図です。合計点が同じでも、市場性だけ高い案と、全体が中程度の案の形の違いが見えます。

面積の大きさを優劣と誤読しないよう、僕はチャートの横に各点の根拠と未確認事項を置きます。異なるフェーズの案は重ねず、同じ案の前回との差を見るために使います。

定量と定性の使い分け

定量は件数や割合など数で比較できる情報、定性は顧客の言葉や利用場面など理由を説明する情報です。定量だけでは変化の理由が分からず、定性だけでは広がりや再現性を判断しにくくなります。

僕は各軸に数字を一つ、具体的な観察を一つ添えます。両者が食い違ったときは平均せず、「なぜ」を次の検証課題にします。

補助的に使う枠(BMC・アンゾフ・VRIO)

BMCは事業の仕組みを一枚で見るビジネスモデル・キャンバス、アンゾフは既存・新規の市場と製品の組み合わせ、VRIOは価値・希少性・模倣困難性・組織の観点です。評価表の代わりではなく、抜けを探す補助として列挙する程度で十分です。

僕は評価会の前に一つだけ選び、見つかった論点を6軸へ戻します。複数の枠を同時に埋めて資料量を増やしません。

既存プレイヤーと組む道(提携・M&A)を評価に入れる

自社で一から作る案だけを比べると、時間、顧客接点、許認可などを持つ既存プレイヤーとの提携やM&A(合併・買収)の道を落とします。内製、提携、買収の各案で、得られる資産、統合の難しさ、意思決定の速さを比べます。

僕は「自社単独である必要は何か」を評価票に一問足し、相手候補がいなければ探索自体を次の検証にします。

社会性(SDGs・ESG)・環境変化リスク・難易度

SDGsは持続可能な開発目標、ESGは環境・社会・企業統治の観点です。標語への合致を加点するのではなく、誰にどんな便益と負担が生じるか、規制・技術・気候などの変化で前提が崩れないか、実行難易度を上げる条件は何かを見ます。

僕は「社会に良い」で止めず、影響を受ける相手、望む変化、悪影響を避ける方法を一行ずつ書き、親和性と実現可能性の根拠へ戻します。

この進め方は、ちゃんと機能しました。比較の抜けが減り、会話が具体になります。事業アイデアの評価にも使えました。少なくとも、勘だけの選別ではありません。

② そのとおりに回して、詰まる

「② そのとおりに回して、詰まる」を図解したスライド|ところが、運用すると妙な停滞が出ました

上記の通りの運用で、新規事業室で評価会議を運用すると、妙な停滞が出ました。評価は通るのに、検証が進みません。会議では点数も根拠も揃い、次の稟議へ出せる資料も整っています。

それでも、「顧客から何を学ぶのか」への答えは薄いままでした。「何が分かれば、この案を捨てるのか」も決まっていません。点数は揃うのに、問いだけが空でした。

評価されやすい案には特徴があります。前例があり、説明しやすい案です。規模が大きく見える案でもあります。ただし、検証が進む案とは限りません。

検証が進む案は、問いが小さいものです。次に確かめる不確実性が見えています。失敗した際の扱いも決まっています。見栄えより、学び方が明瞭です。

この食品メーカーで見た「多産全死」も同じでした。新規事業室では、案を多く出す仕組みは動いていました。評価会も、選考も、止まっていません。しかし、学びが次の判断へ残りません。

全体像の仮説は必要です。ただし、マスを埋めても検証済みではありません。9マスと検証の違いはこちらで詳しく書いています。

③ どう気づいたか

「③ どう気づいたか」を図解したスライド|気づいたきっかけは、点数ではありません

気づいたきっかけは、点数ではありません。食品メーカーの評価会議で使われる問いの変化でした。

最初は「何を確かめたいか」と聞きます。ところが稟議が近づくと、問いが変わります。「前例をどう示すか」が増えます。「どこまで大きくなるか」も増えます。

どちらも、社内では必要な問いです。予算を使う以上、説明は欠かせません。問題は、問いが入れ替わることでした。

僕も新規事業室の評価表を丁寧に作っていました。しかし、表の精度を上げるほど困りました。高得点の理由は説明しやすくなる一方で、次に試すことがぼやけたのです。

自社プロダクトのOhbag——ホテル滞在者向けの荷物サービス——では、順番を変えました。見る数字と、撤退の線を先に決めました。僕は当日の声かけを強みだと想定していました。ところが、実際に効いた変数は客室の掲示でした。

決めておいた数字が、ズレを教えました。おかげで、想定した強みを守る必要が消えました。評価表の点数では拾いにくい変化です。

ここで、問いは評価の良し悪しではなくなりました。「評価中に何が上書きされるか」に変わったのです。見る場所を、採点から経路へ変えました。

④ 原因を1つに特定

「④ 原因を1つに特定」を図解したスライド|原因は、1つでした

原因は、1つでした。社内の評価軸と、事業の検証軸は別物です。稟議を通る間に、前者が後者を上書きします。

社内の評価軸は、承認に向いています。問いは「前例があるか」「規模を説明できるか」「稟議で誰が責任を持てるか」です。

事業の検証軸は、学習に向いています。問いは「今回、何を学べるか」「どの結果なら続けないか」「次の判断に何が残るか」です。

両方とも必要です。ただし、役割は同じではありません。承認の問いは、社内の不安を減らします。検証の問いは、事業の不確実性を減らします。

すり替わりは、稟議の経路で起きます。起案者は、最初は顧客を見ています。それが、説明を重ねるうちに承認者を見始めます。読者が顧客から承認者へ変わる瞬間です。

なお、見る数字(KPI)の設計は本記事の主語ではありません。数字のすり替わりは、別の記事で扱う予定です。

すると、前例のある案が強くなり、大きく見える案も有利になります。撤退の話は、弱気な材料に見えます。学習目標は、小さな話に見えます。

その結果、評価されやすい案が残ります。検証が進む案は落ち、成功する案が残るとは限りません。

心理バイアスだけでは説明できません。誰かの性格が悪い話でもありません。承認に最適化する経路が原因です。経路が、評価の目的を変えているのです。

⑤ 直してみる — 1箇所だけ直す

「⑤ 直してみる — 1箇所だけ直す」を図解したスライド|直したのは、評価項目ではありません

直したのは、評価項目ではありません。評価の前に、順番を1箇所変えました。

撤退条件と学習目標を先に固定し、その後で6軸の採点に入ります。稟議中も、固定した内容は残します。

撤退条件は、失敗の予言ではありません。「何が起きたら続けないか」の合意です。学習目標は、成果の言い換えではありません。「今回、何を確かめるか」の合意です。

見る数字も、同時に決めます。数字を後から選ぶと、説明に寄ります。都合のよい結果だけを拾えるからです。

先の実証でも、この順番で運用しました。見る数字が先に決まっていました。だから、声かけへの期待に固執せずに済みました。掲示が効く事実を、判断へ使えました。

重要なのは、撤退条件を採点しないことです。評価項目に入れると、また比較されます。だから、先に固定する「契約」として扱います。

実務での設計支援は、新規事業コンサルティングでも扱っています。撤退条件を採点対象から外して先に固定する方法です。

⑥ あとで知った — すでに名前があった

「⑥ あとで知った — すでに名前があった」を図解したスライド|あとで、近い考え方に名前を知りました

あとで、僕がやったことに名前があると知りました。「リアルオプション」という考え方です。不確実性が高いときは、全額を一度に決めずに、次の判断まで選択肢を残しておく。そういう捉え方です。

効いたのは、名前そのものではありませんでした。この考え方が、判断条件を先に決めることを前提にしている点です。

僕は採点表から撤退条件を外して固定しましたが、それは「採点で負けないため」でした。リアルオプションの側から見ると、同じ操作が「次の判断まで選択肢を開いておくため」になります。目的が違うのに、手が同じでした。

違いは1つだけありました。僕は「撤退の線」しか固定していませんでしたが、この考え方は「もう一度賭ける線」も同時に置きます。止める条件だけを決めて、増やす条件を決めていなかった。そこは後から足しました。

「段階的投資」や「ステージゲート」も、節目で継続と撤退を決めるという点で地続きです。ただ、僕の現場で実際に効いたのは、線を2本引くという一点でした。

つまり、珍しい方法ではありません。新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。

⑦ 何が変わったか

「⑦ 何が変わったか」を図解したスライド|変わったのは、会議の焦点です

変わったのは、食品メーカーの評価会議の焦点です。「何点だったか」だけで終わりません。「何を学べたか」が判断に残ります。

想定と違う結果も、失点ではありません。次の判断を変える材料になります。先の実証では、想定した声かけと実際に効いた掲示のズレが残りました。強みの仮説を、事実で更新できました。

また、撤退の会話も早くなります。結果が出てから基準を作らないためです。担当者の思い入れだけで延長しません。

ただし、代償はあります。着手前の合意に時間がかかります。先に撤退条件を決めるからです。学習目標と言葉を揃える手間も増えます。

僕は、この時間を削らないほうがよいと考えます。着手後の延命より、扱いやすいからです。ただし、会議が減る魔法ではありません。会議を前へ移す設計です。

⑧ 現場で使うなら、この評価シート

「⑧ 現場で使うなら、この評価シート」を図解したスライド|現場では、次の順で一枚にします

現場では、次の順で一枚にします。上段の3点は、採点前に固定します。下段の6軸は、フェーズ別に見ます。

先に固定する3点

固定する項目記入する問い記入欄
撤退条件何が起きたら続けないか____
学習目標今回は何を確かめるか____
見る数字判断に使う数字は何か____

6軸をフェーズで使い分ける

評価軸着想時検証時拡大時根拠
市場性課題の有無需要の反応市場の広がり事実/仮説
収益性収益の仮説支払いの反応継続できる利益事実/仮説
競争優位選ばれる仮説代替との差模倣への耐性事実/仮説
実現可能性試せる範囲実行上の壁安定した運用事実/仮説
親和性自社がやる意味資産の効き方既存事業との接続事実/仮説
意思責任者の意思続ける覚悟経営の継続意思事実/仮説

使い方にも順番があります。

1. 上段の3点を、関係者で固定します。

2. 各自が6軸を別々に採点します。

3. 点差の大きい軸だけを話します。

4. 事実と仮説を分けます。

5. 次の判断日まで、固定事項を守ります。

ウェイトは、事業ごとに決めます。着想、検証、拡大でも変えます。ただし、後から点数を整えません。根拠が変わった場合だけ更新します。

評価会は定例にし、シートと根拠を残します。担当が替わっても、同じ判断ができるようにするためです。1回の採点で終えず、仕組みとして回します。

このシートの目的は、順位付けだけではありません。承認の問いと検証の問いを分けます。採点表の上に、判断の約束を置く形です。

⑨ この考え方が効き続ける理由

「⑨ この考え方が効き続ける理由」を図解したスライド|新規事業では、仮説が変わります

新規事業では、仮説が変わります。市場の見方も、強みの見方も変わります。固定する対象は、最初の正解ではありません。

固定するのは、判断の仕方です。「何を学ぶか」「何の数字を見るか」「いつ止めるか」の3点です。この3点なら、仮説が変わっても使えます。

6軸も、捨てる必要はありません。比較と対話には、今も機能します。ただし、6軸だけでは順番を守れません。

社内の評価軸は、今後も必要です。稟議と説明責任はなくなりません。だからこそ、検証軸を先に固定します。上書きを、意志の強さに任せないためです。

評価されやすさは、成功の証拠ではありません。一方で、評価を避けても事業になりません。両者を混ぜず、順番で共存させます。

よくある質問

新規事業の評価軸とは何ですか。6軸を教えてください。

市場性、収益性、競争優位、実現可能性、親和性、意思の6つです。評価の目的は案の格付けではなく、次にどの案へ時間と資金を使うかを決めることです。単一の指標では一面しか見えないため軸は複数要りますが、既存事業の物差しをそのまま持ち込むと、まだ小さい芽を摘みます。

軸を並べる前に決めることはありますか?

今回の評価で何を良しとするかを一文にします。たとえば、既存顧客との接点を生かし、3年後の収益源になり得る案を優先する、のように事業目的と時間軸を明記します。この一文がなければ、同じ点数でも評価者ごとに良いの意味が変わります。

誰が何人で採点しますか?

僕は、事業責任者、顧客や市場を知る人、経営または新規事業の統括者の3人を基本にします。一人だけなら自分の案を高く見る我が子バイアスが出やすく、大人数なら役職者の意見へ寄りやすいためです。最初は別々に採点し、その後で点差の理由を話します。

点数は何段階にしますか?

僕は迷いを減らせる3段階を基本にします。1点は根拠がない、または条件を満たさない。2点は仮説はあるが未確認。3点は事実で確認できた、と定義します。5段階でも構いませんが、各点の判定文を先に書き、点数には根拠を一行添えて事実と仮説を分けます。

ウェイトはどう付けますか?

まず全軸を1倍にし、何を良しとするかの一文に直結する軸だけを2倍にします。3倍以上にすると一つの軸が他の弱点を覆いやすいため、僕は最大2倍までにします。フェーズでも重みは変わり、着想時は市場性と意思、検証時は実現可能性、拡大時は収益性と競争優位が増します。

合計点や通過ラインはどう扱いますか?

合計点は比較に使えますが、弱点を平均点に隠さない扱いが必要です。3点満点の6軸なら、僕は合計12点以上を次の検討へ進める目安にし、同時に市場性と実現可能性が1点の案は合計点にかかわらず保留にします。通過ラインは正解ではないので、評価会の前に決め、運用結果を見て調整します。

評価は通るのに検証が進まないのはなぜですか?

社内の評価軸と事業の検証軸は別物で、稟議を通る間に前者が後者を上書きするからです。前例があり、説明しやすく、規模が大きく見える案は評価されやすい一方、検証が進む案とは限りません。読者が顧客から承認者へ変わると、撤退の話は弱気な材料に、学習目標は小さな話に見えます。

何を直せばよいですか?

僕が直したのは評価項目ではなく、順番です。撤退条件、学習目標、見る数字の3点を採点前に固定し、その後で6軸の採点に入ります。稟議中も、固定した内容は残します。数字を後から選ぶと説明に寄り、都合のよい結果だけを拾えてしまいます。

撤退条件も評価軸に入れますか?

入れません。評価項目に入れると、また比較されてしまいます。撤退条件は採点せず、先に固定する契約として扱います。撤退条件は失敗の予言ではなく、何が起きたら続けないかの合意です。学習目標と見る数字も同じ扱いで、採点前に関係者で固定し、稟議中も内容を残します。

持続可能性や新規性など他社の軸はどう扱いますか?

名前を増やし続けると、同じ内容を二重に採点します。持続可能性は収益性と実現可能性へ、新規性は競争優位へ、事業上のリスクは実現可能性へ畳み込みます。理念との整合は親和性、責任者と経営のコミットメントは意思で見ます。独立軸にしたい場合も、6軸のどの問いでは拾えないのかを一行で説明します。

検証軸の固定から、ARCHECOでは設計に入ります。

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採点表に名前を書く欄があると、少し緊張します。名前を書いた時点では、まだ何も採点していません。それでも、少し仕事をした気になります。

以上です。

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