
学生のころ、友人と旅行のしおりを作ったことがあります。分刻みで組みました。
8時12分の電車に乗り、9時40分に着いて、10時から美術館。A4で3枚ありました。 作っているあいだが、いちばん楽しかったのを覚えています。
初日の朝、その8時12分に乗り遅れました。
そこから先の3枚は、全部使えなくなりました。乗り換えも、入館時刻も、昼食の店も、すべてが最初の1本に乗っている前提で組まれていたからです。
しおりは完璧でした。確かめていなかっただけです。
先に一行だけ置きます。ビジネスモデルキャンバスとは、事業の構造を9つのブロックで1枚に描くツールのことです。顧客、価値、チャネル、収益、コストなどを並べて、全体を一望できるようにします。
題材は、大企業の中で立ち上げる新規事業です。起案して、社内の承認を取り、進めていく。よくある形です。
前置きはさておき、本題に入ります。
今日は、この9マスをきれいに埋めて承認まで通したのに、事業が動かなかった話をしていこうと思います。
① 教科書どおりに、9マスを埋める


ビジネスモデルキャンバスの書き方をすでにご存じの方は、② そのとおりに進めて、承認は通るのに動かないから読み進められます。
ビジネスモデルキャンバスとは
ビジネスモデルキャンバス(BMC)とは、事業の仕組みを9つのマスに分けて、1枚の紙に描き出すフレームワークです。アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールが『ビジネスモデル・ジェネレーション』で示しました。
「誰に、何を、どうやって届けて、どこで儲けるか」を同じ紙の上に並べるのが特徴です。事業計画書のように文章で書くと、読む人ごとに解釈が分かれます。9マスに切ると、埋まっていない箇所が誰の目にも同じように見えます。
ビジネスモデルキャンバスを作る目的
現場で使われる目的は、大きく5つです。
- 全体像を把握する — 部分ではなく事業の仕組み全体を1枚で見る
- 関係者の認識を合わせる — 同じ絵を見て議論する
- 改善点と新しい可能性を見つける — 空欄と矛盾が目で分かる
- アイデアを速くテストする — 描き替えて別案と比べる
- 競合を分析する — 他社の仕組みを同じ9マスで描いて並べる
5つ目は見落とされがちですが、いちばん手軽に効きます。自社と競合を同じ様式で描くと、違いが「マスの位置」として出ます。
ビジネスモデルキャンバスのメリット
- 共通理解を持てる — 職種が違う人同士でも、同じ語彙で話せる
- 顧客起点で考えられる — 顧客セグメントと価値提案が中央に来る構造になっている
- 可視化できる — 議事録ではなく1枚の絵として残る
- 競合分析に使える — 他社を同じ様式で描いて重ねられる
いちばん実務的な効用は「空欄が見えること」です。文章の企画書では、書かなかった論点は存在しないことになります。9マスなら、書かなかった箇所が空白として残ります。
9つの要素1|顧客セグメント(CS:Customer Segments)
誰に価値を届けるかを書きます。複数あるなら、分けて書きます。
「30代女性」では粗すぎます。その人が困っている場面まで書くと、あとの価値提案が具体的になります。「保育園の送りのあと、始業までの30分で買い物を済ませたい人」まで下ろします。
9つの要素2|価値提案(VP:Value Propositions)
その顧客の、どの困りごとを、どう解決するかを書きます。9マスの中心です。
機能を書く欄ではありません。「AIで自動分類」は機能で、「仕分けに毎朝40分かかっていたのが5分になる」が価値です。顧客の側の変化で書けているかを確かめてください。
9つの要素3|チャネル(CH:Channels)
価値をどうやって届けるかの経路です。認知・評価・購入・提供・アフターの各段階で経路が変わることがあります。
「知ってもらう経路」と「買ってもらう経路」を分けて書くと、抜けている段階が見つかります。
9つの要素4|顧客との関係(CR:Customer Relationships)
顧客とどう付き合うかです。個別対応か、セルフサービスか、コミュニティか、自動化か。
獲得・維持・拡大の3つで、関係の作り方が変わります。獲得は手厚く、維持は自動で、と分けて書けると設計になります。
9つの要素5|収益の流れ(RS:Revenue Streams)
どこから、どういう形でお金が入るかです。売り切り、月額、従量、手数料、広告、ライセンス。
誰が払うのかを、顧客セグメントと突き合わせてください。使う人と払う人が違う事業では、この2マスがずれます。
9つの要素6|リソース(KR:Key Resources)
その事業を成り立たせるために必要な資産です。人、設備、技術、データ、ブランド、資金。
いま持っているものではなく、必要なものを書きます。持っていないものが並んだら、それが調達計画になります。
9つの要素7|主要活動(KA:Key Activities)
価値を届けるために、自社が必ずやらなければならない活動です。製造、開発、問題解決、プラットフォーム運営。
「全部」と書きたくなりますが、絞ってください。絞れないと、次のパートナーの欄が埋まりません。
9つの要素8|パートナー(KP:Key Partners)
自社でやらないことを、誰に任せるかです。仕入先、提携先、共同開発先、外注先。
主要活動の裏返しとして書くと矛盾が出ません。主要活動に入れなかったものが、ここに来ます。
9つの要素9|コスト構造(CS:Cost Structure)
リソースと主要活動とパートナーから、どんな費用が発生するかを書きます。固定費と変動費に分けます。
コスト構造は左3マス(KP・KA・KR)から自動的に決まります。別々に考えると、必ず食い違います。
9マスを書く順番
左上から順に埋めるものではありません。標準的な順は次のとおりです。
- 右側から — 顧客セグメント → 価値提案 → チャネル → 顧客との関係 → 収益の流れ
- 次に左側 — 主要活動 → リソース → パートナー
- 最後に下 — コスト構造
顧客から始めるのが要点です。自社のリソースから始めると、「いま持っているものでできること」に発想が縛られます。
作成のポイント1|まず全部のマスを埋める
考えすぎて1マスで止まるより、粗くても9マス埋めてから直すほうが速く進みます。
埋まらないマスがあったら、それは「まだ決めていない」という情報です。空欄のまま次へ行かず、空欄であることを付箋で残してください。
作成のポイント2|内容はシンプルに、完璧を目指さない
1マスにつき数語から1行が目安です。文章で埋めると、9マスにした意味がなくなります。
作成のポイント3|手を動かす前に調べる
顧客セグメントと収益の流れは、想像で書くとそのまま願望になります。先に数件でも話を聞いてから書くと、精度がまるで違います。
作成のポイント4|多様な視点を入れて、一人で書かない
営業・開発・経理で、同じ事業の絵が違って見えます。ずれた箇所こそが議論すべき論点です。
作成のポイント5|全体の関係性を確認する
9マスは独立していません。顧客セグメントを変えたらチャネルも収益も変わります。
1マスを書き替えて、他の8マスが無傷なら、それは繋がっていない証拠です。
作成のポイント6|定期的に更新する
一度描いて壁に貼って終わりにすると、実態と離れます。月に一度、いまの実態で描き直すのが目安です。
活用のしかた|ズームインとズームアウト
| やること | 見えるもの | |
|---|---|---|
| ズームイン | 1つのマスを取り出して細かく分解する | そのマスの中の抜けと具体策 |
| ズームアウト | 事業単位・会社単位で描き直す | 事業同士の重なりと、全社での位置づけ |
行き詰まったときは、たいていズームの倍率が合っていません。細部で止まっているなら1段引く、抽象論で止まっているなら1段寄ります。
作ったあと、どう使うか
- 比べる — 別案や競合を同じ様式で描き、並べる
- 確かめる — 各マスの前提が本当かを、顧客と数字に当てる
- 直す — 確かめた結果でマスを書き替え、影響する他のマスも直す
2つ目に時間をかけられるかどうかで、価値が変わります。この記事の後半は、そこを数えてみた記録です。
リーンキャンバスとの違い
| 向いている場面 | 9マスの中身 | |
|---|---|---|
| ビジネスモデルキャンバス | 仕組みが見えている事業。既存事業の整理 | パートナー・主要活動・リソース・顧客との関係を持つ |
| リーンキャンバス | まだ何も決まっていない新規事業 | その4つの代わりに課題・解決策・主要指標・圧倒的な優位性を持つ |
差は「課題」のマスがあるかどうかです。ビジネスモデルキャンバスには課題を書く欄がありません。0→1の段階では、リーンキャンバスのほうが向いていることが多いのはこのためです。
併用されるフレームワーク
- バリュープロポジションキャンバス — 顧客セグメントと価値提案の2マスだけを拡大して詰める
- アンゾフの成長マトリクス — 既存/新規 × 市場/製品で、どこへ伸ばすかを決める
- 事業環境マップ — 市場・業界・トレンド・マクロ環境を外側から描く
1つ目は、価値提案が抽象的なまま止まったときの定番の次手です。
テンプレートと作成ツール
紙とふせんで足ります。オンラインで共同編集するなら、MiroやLucidchartにテンプレートがあります。
道具より、ふせんで書けるかどうかのほうが効きます。ふせんに収まらない文は、まだ絞れていない文です。
「ビジネスモデルキャンバスは使えない」といわれる理由
批判としてよく挙がるのは、次の2つです。
- 汎用性が高すぎて、業種特有の論点が落ちる — 規制、在庫、季節性などが9マスのどこにも書けない
- 埋めても革新的な案になるとは限らない — 既存事業を整理する道具であって、発想を生む道具ではない
どちらも「使い方」への批判であって、道具への批判ではありません。足りないマスは足せますし、発想は別の工程で作ってから9マスに入れれば済みます。
教科書どおりに埋めました。
→ 顧客セグメント — 誰に売るか
→ 価値提案 — 何を提供するか
→ チャネル — どう届けるか
→ 顧客との関係 — どう付き合うか
→ 収益の流れ — どう稼ぐか
→ 主要リソース/主要活動/パートナー — 何が要るか
→ コスト構造 — 何にかかるか
埋まりました。 そして、埋まったキャンバスは資料として非常に強いです。1枚で全体が見える。矛盾も無い。抜けも無い。
社内の承認も、通りました。
ここまでは、教科書どおりです。
この記事の後半で扱うのは、その先です。9マスは埋まっていて、矛盾も無く、承認も下りました。それでも動かなかったときに、この紙の何を数えたのかを見ていきます。
② そのとおりに進めて、承認は通るのに動かない

ところが、承認が通ったあと、事業は動きませんでした。
止まった理由を聞くと、毎回答えが違います。人が足りない、時期が悪い、他の案件が優先。どれも本当のことです。
ただ、共通していたことがあります。誰も、その事業の何かを疑っていませんでした。
キャンバスに書いてあることは、全部そのとおりだと思われていました。
③ そして、確かめたマスを数えてみる

あるとき、9マスを1つずつ指して「これは確かめましたか」と聞いてみました。
確かめたマスは、0でした。
顧客セグメントは、そう思った人がいた。価値提案は、そう書いた人がいた。収益の流れは、そう計算した人がいた。誰も、外に出て確かめていません。
それでも承認は通っています。
ここに、大企業で新規事業をやるときの最大の壁があります。
「大企業で新規事業をやる上で、最も大きな壁は、説明責任を果たす相手が新規事業の素人ということが多々ある」
素人に対しては、9マスが埋まっていること自体が、根拠として通ります。 埋まっていれば考え抜いたように見える。空欄があると詰められるが、埋まっていると誰も止めない。
④ 原因は「埋まると、決まったように見える」こと

原因を一つに絞ると、これでした。
ビジネスモデルキャンバスは仮説の一覧です。ところが、どれが確かめられているかを持ちません。
9マスのどこにも、「これは確かめた」「これはまだ思っているだけ」を書く場所がありません。
だから、確かめたマスと、思いついただけのマスが、同じ見た目で並びます。
そして人は、並んでいるものを同じ重さで読みます。 私が旅行のしおりで、8時12分だけが実は未確認だったと気づかなかったのと同じです。
外部のコンサルを入れても、ここは変わりませんでした。
「コンサルをアサインするということは、外部の客観的視点を入れる行為です。しかし、スタートアップを突き動かすのは主観です。」
客観を足しても、確かめたことにはなりません。
もう一つ、身も蓋もないことを書きます。
「もしコンサルが事業の勝ち方の虎の巻のようなものを持っているのなら、なぜ私が事業をやらないのかというと、理由はこうです。コンサルの単価がどれだけ高かろうと、事業をIPOできるレベルまでスケールする能力があるのなら、間違いなく自分でやったほうが儲かる」
持ち込まれるのは、合理的なロジックです。それは9マスを埋めるのには最適ですが、確かめる作業とは別物でした。
⑤ 直してみる — 9マスに、2列足す

やったことは3つです。
1. 各マスに「外れたら全部が壊れるか」を書いた。
顧客セグメントが外れたら、他の8マスは全部書き直しになります。コスト構造が外れても、組み替えが効きます。壊れ方の大きさが違うのに、同じ大きさの箱に入っていたのが問題でした。
2. 各マスに「確かめたか」を書いた。
思っているだけなのか、聞いたのか、売ってみたのか。3段階で十分でした。
3. 壊れやすくて確かめていないマスから、順に潰した。
9マス全部を確かめる時間はありません。全部が壊れるマスで、まだ確かめていないもの。 そこだけを見にいきます。
そして、この2列を足した時点で、承認の会議が変わりました。 「埋まっていますね」ではなく、「この行が空いていますね」という会話になったからです。
⑥ あとで知った — 著者自身が、続きを書いていた

素朴な対処のつもりでしたが、調べると同じことは、作った本人が書いていました。
ビジネスモデルキャンバスは、アレックス・オスターワルダーがイヴ・ピニュールの指導のもとで進めた博士研究が土台になっています。ビジネスモデルのオントロジー、つまり事業の構造を要素に分解して記述する方法の研究でした。
そこから2010年に整理されたのが、9つの構成要素です。顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、主要リソース、主要活動、パートナー、コスト構造。
面白いのは、書籍化にあたって博士論文をそのまま広げなかったことです。二人は一から研究をやり直し、あらゆる事業に当てはまる9要素の一覧に辿り着くまで素材を集め直しています。
そして、その先があります。
オスターワルダーは後年、デイヴィッド・ブランドと 『Testing Business Ideas』 という本を出しています。副題は「高速に実験するための実務ガイド」です。
そこにこう書かれています。事業のアイデアを検証するには小さな実験を数多くこなす必要があり、その中心には、最も重要な仮説の深い理解と、なぜそれを検証するのかがなければならない。
キャンバスは、検証と対で使う設計でした。
埋めることは、目的ではありません。どこから壊しにいくかを決めるための作業でした。私は9マスを埋めて、対になる半分をまるごと飛ばしていたことになります。
新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。
あとで知った — 足りない列が、もう1つあった
2列を足して運用していました。海外の実務書を読むと、抜けている列がもう1つありました。
まず前提の数字です。典型的なビジネスモデルキャンバスには、15件から30件の仮説が入っていると整理されています。全部を試すのは不可能です。だから優先順位が要る、という話になります。
ここまでは足した2列で足ります。問題は、その先でした。
指摘されているのはこれです。多くのチームが、始める前に「失敗とは何か」を決めていない。
決めないまま試すとどうなるか。結果が曖昧なまま出てきて、閾値を誰も先に置いていないので、それを成功と呼びます。 外れたことにならないので、仮説は生き残ります。確かめたことになっているのに、何も確かめていない状態が、ここで生まれます。
つまり、確認欄に日付を書けるようにするだけでは足りません。その日付の横に、何が出たら外れとするかを、試す前に書いておく必要があります。
キャンバスへの批判として整理されているものも、同じ方向を向いています。「記録することを、実験することより重く扱わせてしまう」。 埋める作業が主役になり、壊しにいく作業が従になる。9マスという形式そのものが、そう仕向けます。
そして危険な仮説の定義も、はっきり書かれていました。外れたときに事業全体が崩れるものです。重要なのに試されていない仮説が、案件を殺します。 足した1列目が見ようとしていたのは、まさにこれでした。
⑦ 何が変わったか

会議で見るものが変わりました。
“`
前:埋まっているか → 埋まっていれば通す
後:壊れやすいマスが確かめられているか → 空いていれば止める
“`
止められるようになったのが、いちばん大きい変化です。 埋まった9マスは、止める理由を1つも提供しません。
2列を足したあと、承認前に差し戻した企画が3件出ました。差し戻した理由は全部、太字の3行のどれかが「思っているだけ」だったことです。
⑧ 現場で使うなら、この2枚

表1:9マスに足す2列
| ブロック | 外れたら | 確かめ方 | 状態 |
|---|---|---|---|
| 顧客セグメント | 全部壊れる | その人に会って聞く | 思っているだけ/聞いた/売れた |
| 価値提案 | 全部壊れる | 金を払うか試す | 同上 |
| チャネル | 組み替えられる | 1本試す | 同上 |
| 顧客との関係 | 組み替えられる | 運用してみる | 同上 |
| 収益の流れ | 全部壊れる | 請求してみる | 同上 |
| 主要リソース/活動/パートナー | 代替がある | 見積もる | 同上 |
| コスト構造 | 組み替えられる | 実測する | 同上 |
太字の3行が「思っているだけ」なら、その企画はまだ承認してはいけません。
表2:確かめる順番
| 順 | 選び方 |
|---|---|
| 1 | 外れたら全部壊れる × まだ確かめていない |
| 2 | 外れたら全部壊れる × 聞いただけ |
| 3 | 組み替えられる × 確かめていない |
| — | 全部を確かめようとしない。時間が足りない |
運用では、次の5件に名前を付けて配りました。名前が付くと、会議の中で指差せるようになります。
1件目、「埋まったマスは、まだ何も言っていない」。 埋めた9マスは仮説の一覧です。1件も確かめていない状態と、9件すべて確かめた状態が、紙の上では同じ見た目になります。
2件目、「壊れやすい順に、上から潰す」。 外れたときの被害が大きい順に並べ替えます。2列を足したあと、最初の30日で上から3件だけ潰すと決めました。
3件目、「確かめたとは、外れうる形で試したということ」。 話を聞いて納得された、は確認ではありません。外れる可能性が残る形で試して初めて1件と数えます。
4件目、「9マスの外に、確認日を書く欄を作る」。 日付が空欄のマスは未確認です。会議では、埋まっている文字量ではなく、日付の入っている件数だけを見ます。
5件目、「承認は、埋まった枚数ではなく、潰した本数で出す」。 この1行を入れてから、承認前に差し戻した企画が3件出ました。
この5件は、1枚に印刷して配れる分量に収めています。増やすと、誰も覚えません。
⑨ この考え方が効き続ける理由

フレームワークは、これからも増えます。そして、増えるほどこの問題は強くなります。 どのフレームワークも、埋めると完成したように見えるからです。
→ 枠がある → 埋めたくなる
→ 埋まる → 考え抜いたように見える
→ 承認者が素人 → 見た目で通る
→ 通る → 誰も確かめない
フレームワークは、思考の助けにはなりますが、検証の代わりにはなりません。
そして、ここは正直に書いておきます。私はIPO経験もなく、年商7〜8億円程度の会社しか経営したことがありません。 大きな成功の作法を語れる立場ではない。
ただ、埋まったキャンバスが承認され、そのまま動かずに消えていく光景は、何度も見ました。 そのとき毎回、9マスは完璧に埋まっていました。
2列を足したあとの実測です。承認前に差し戻した企画が3件出ました。差し戻しの理由は全部、太字の3行のどれかが「思っているだけ」だったことです。9マスのうち、確かめられていたのは平均で2件でした。
関連して、PMFが1→10で死ぬ話と、デザイン思考は聞くのではなく観察する話を別に書いています。事業計画が投資ではなく費用に見える話はすでに公開しています。あわせて読むと、同じ判断が別の場所でも効いていることが分かると思います。
この判断を実際の案件で使う場面については、新規事業コンサルとMVP・PoCのページに整理しています。
9マスを埋めるといえば、僕はビジネスモデルキャンバスよりも○×ゲーム派です。…決着がついた試しがないんですが。
今日はちょうど、9マスに○と×をつける話でした。紙の上では決着がつかないところまで、同じでした。
以上です。
ビジネスモデルキャンバスのよくある質問
ビジネスモデルキャンバスとは何ですか?
事業の構造を9つのブロックで1枚に描くツールです。顧客セグメント、価値提案、チャネル、顧客との関係、収益の流れ、主要リソース、主要活動、パートナー、コスト構造の9つで構成されます。アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールが2010年に整理しました。文章の企画書と違い、書かなかった論点が空欄として残るのが利点です。
ビジネスモデルキャンバスの9つの要素を教えてください。
顧客セグメント(誰に)、価値提案(何を)、チャネル(どう届けるか)、顧客との関係(どう付き合うか)、収益の流れ(どこから稼ぐか)、リソース(何が必要か)、主要活動(自社が必ずやること)、パートナー(自社でやらないこと)、コスト構造(何にかかるか)の9つです。コスト構造は、パートナー・主要活動・リソースの3マスから自動的に決まります。
ビジネスモデルキャンバスはどの順番で書きますか?
左上から順ではありません。まず右側を顧客セグメント→価値提案→チャネル→顧客との関係→収益の流れの順に埋め、次に左側を主要活動→リソース→パートナー、最後に下のコスト構造を書きます。顧客から始めるのが要点です。自社のリソースから始めると、いま持っているものでできることに発想が縛られます。
ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスの違いは何ですか?
差は「課題」のマスがあるかどうかです。リーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスのパートナー・主要活動・リソース・顧客との関係の4マスを、課題・解決策・主要指標・圧倒的な優位性に置き換えています。ビジネスモデルキャンバスには課題を書く欄がないため、まだ何も決まっていない0→1の段階ではリーンキャンバスのほうが向いていることが多くなります。
ビジネスモデルキャンバスを書くときのポイントは何ですか?
6つです。考えすぎずまず全部のマスを埋める、1マスは数語から1行でシンプルに書く、顧客セグメントと収益の流れは想像で書かず先に数件でも話を聞く、一人で書かず職種の違う人を入れる、1マス書き替えたときに他のマスが動くかで繋がりを確認する、月に一度いまの実態で描き直す。ふせんに収まらない文は、まだ絞れていない文です。
「ビジネスモデルキャンバスは使えない」といわれるのはなぜですか?
よく挙がる批判は2つで、汎用性が高すぎて規制・在庫・季節性のような業種特有の論点が9マスのどこにも書けないこと、埋めても必ずしも革新的な案になるわけではないことです。どちらも使い方への批判であって、道具への批判ではありません。足りないマスは足せますし、発想は別の工程で作ってから9マスに入れれば済みます。
9マスを埋めれば事業計画になりますか?
なりません。9マスは仮説の一覧であって、どれが確かめられているかを持ちません。埋まると決まったように見えますが、実際には検証の順序が入っていないため、そのままでは動かせません。埋めたあとに、どのマスが外れたら全部が壊れるかを判定する作業が必要です。
社内で承認が通ったのに、事業が動かないのはなぜですか?
承認の基準と、事業が動く条件が別だからです。大企業で新規事業をやるときの最大の壁は、説明責任を果たす相手が新規事業の素人であることです。素人に対しては、9マスが埋まっていること自体が根拠として通ってしまいます。通ったことと、確かめたことは違います。
外部のコンサルを入れれば、精度は上がりますか?
上がる部分と上がらない部分があります。コンサルを入れるのは外部の客観的視点を入れる行為ですが、新規事業を突き動かすのは主観です。また、事業を成功させる方法を本当に持っているなら、自分で事業をやったほうが儲かります。持ち込まれるのは合理的なロジックであって、勝ち方そのものではありません。
どのマスから確かめればいいですか?
外れたときに全部が壊れるマスからです。多くの場合、顧客セグメントと価値提案がそれにあたります。チャネルやコスト構造は、外れても組み替えが効きます。ビジネスモデルキャンバスの著者自身が後年、最も重要な仮説から検証を始めるべきだと書いています。
- ① 教科書どおりに、9マスを埋める
- ビジネスモデルキャンバスとは
- ビジネスモデルキャンバスを作る目的
- ビジネスモデルキャンバスのメリット
- 9つの要素1|顧客セグメント(CS:Customer Segments)
- 9つの要素2|価値提案(VP:Value Propositions)
- 9つの要素3|チャネル(CH:Channels)
- 9つの要素4|顧客との関係(CR:Customer Relationships)
- 9つの要素5|収益の流れ(RS:Revenue Streams)
- 9つの要素6|リソース(KR:Key Resources)
- 9つの要素7|主要活動(KA:Key Activities)
- 9つの要素8|パートナー(KP:Key Partners)
- 9つの要素9|コスト構造(CS:Cost Structure)
- 9マスを書く順番
- 作成のポイント1|まず全部のマスを埋める
- 作成のポイント2|内容はシンプルに、完璧を目指さない
- 作成のポイント3|手を動かす前に調べる
- 作成のポイント4|多様な視点を入れて、一人で書かない
- 作成のポイント5|全体の関係性を確認する
- 作成のポイント6|定期的に更新する
- 活用のしかた|ズームインとズームアウト
- 作ったあと、どう使うか
- リーンキャンバスとの違い
- 併用されるフレームワーク
- テンプレートと作成ツール
- 「ビジネスモデルキャンバスは使えない」といわれる理由
- ② そのとおりに進めて、承認は通るのに動かない
- ③ そして、確かめたマスを数えてみる
- ④ 原因は「埋まると、決まったように見える」こと
- ⑤ 直してみる — 9マスに、2列足す
- ⑥ あとで知った — 著者自身が、続きを書いていた
- ⑦ 何が変わったか
- ⑧ 現場で使うなら、この2枚
- ⑨ この考え方が効き続ける理由
- ビジネスモデルキャンバスのよくある質問