両利きの経営とは?出島を作っても、既存事業の資産は渡ってこない

両利きの経営とは|知の深化と探索・3つの型・成功の4要件と事例

両利きの経営とは、既存事業の深化と新規事業の探索を、同じ会社が同時にやる経営です。住宅設備メーカーが社長直轄の探索組織を切り出して、半年で検証が1本も終わらなかったところから話を始めます。止めていたのは既存部門の抵抗ではなく、協力しても自部門の数字が1ミリも上がらない目標設計でした。組織図を変えずに動き出すまでを、切るものとつなぐものの仕分け表まで含めて置きます。
両利きの経営とは?出島を作っても、既存事業の資産は渡ってこない

題材は、社員2,400名の住宅設備メーカーが、設備を売る事業とは別に、住まいのメンテナンスを月額で請け負う事業を立ち上げるという企画です。

主力は給湯器と水回りの設備。全国の工務店を通じて売っています。この事業は、いま順調です。 需要は住宅着工に連動して読めるし、チャネルは数十年かけて作った。利益も出ています。

新しい事業はこうです。設置済みの設備から稼働データを取り、壊れる前に部品を替える月額サービスを売る。 売り切りをやめて、継続して課金する形にする。設置台数が積み上がっている会社ほど有利な事業です。

問題は、この2つが同じ会社の中で共存しないことでした。既存事業の物差しで新事業を測ると、初年度の売上も、投資回収の年数も、品質の検証期間も、全部が不合格になる。逆に新事業の物差しを全社に持ち込むと、主力事業の管理が緩みます。

両利きの経営とは、既存事業を深めること(深化)と、新しい事業を探すこと(探索)を、同じ会社が同時にやる経営です。英語では ambidexterity。片方に寄るとどうなるかも、はっきりしています。探索に寄れば稼ぎ頭が痩せ、深化に寄れば次の柱が無くなる。

そして「では両方やろう」と決めた会社が最初にやることは、だいたい決まっています。探索の専門部隊を作って、既存事業から切り離す。 出島、新規事業開発室、イノベーションラボ。呼び方は違っても、やっていることは同じです。

前置きはさておき、本題に入ります。

今日は、その出島が半年動かず、組織図を一切変えずに動き出すまでの話をしていこうと思います。

① 教科書どおりに、探索組織を切り出す

教科書どおりに、探索組織を切り出す

両利きの経営の基本をすでにご存じの方は、② 半年経っても、検証が1本も終わらないから読み進められます。

両利きの経営とは

両利きの経営とは、既存事業を磨き込むことと、新しい事業を探すことを、同じ会社の中で同時に進める経営のあり方です。前者を「知の深化」、後者を「知の探索」と呼びます。

「両方やる」と言うのは簡単ですが、2つは求める行動が正反対です。深化は失敗を減らすことを求め、探索は失敗の数を増やすことを求めます。同じ会社で両立させるのが難しいのは、この矛盾のためです。

提唱者と、言葉の出どころ

経営学者のチャールズ・オライリー氏とマイケル・タッシュマン氏が1990年代から提唱してきた考え方で、日本では2019年に翻訳書『両利きの経営』が出て一気に広まりました。

もとをたどると、組織が探索(exploration)と深化(exploitation)のどちらに資源を割くかという、組織学習の議論に行き着きます。新しい概念というより、古くからある問題に名前が付いたものです。

知の深化(Exploitation)とは

いま持っている強みを、より深く・より効率よくすることです。品質を上げる、原価を下げる、手順を標準化する、既存顧客への提供量を増やす。

効果が読めるので、投資の判断がしやすいのが特徴です。そして、読めるからこそ、資源はこちらへ流れます。

知の探索(Exploration)とは

いまの延長線上にない領域を試すことです。新しい顧客、新しい技術、新しい売り方。

ほとんどが外れる前提の活動です。そのため、既存事業と同じ「成功率」や「投資対効果」で測ると、必ず見劣りします。測り方を分けることが、実務上の出発点になります。

なぜ、両方が要るのか

深化だけでは、いまの市場が縮んだときに一緒に縮みます。探索だけでは、稼ぎ頭が育つ前に資金が尽きます。

要点は「バランスを取る」ことではありません。深化で稼いだ資源を、探索へ回す経路を作れているかです。経路が無いまま両方やろうとすると、片方が痩せます。

サクセストラップ(コンピテンシー・トラップ)

うまくいっている事業ほど、そこへ資源が集中し、探索が細っていく現象を指します。「成功の罠」とも呼ばれます。

これは怠慢ではなく、合理的な判断の積み重ねで起きます。確実に回収できるほうへ投じるのは、各部門にとって正しい判断だからです。個々が正しく判断した結果として、会社全体が偏ります。

なぜ今、両利きの経営が注目されるのか

理由は2つです。

  • 環境の変化が速くなった — 既存事業が通用する期間が短くなり、次を探す時間の余裕が減った
  • 成熟企業から新規事業が生まれにくい — 規模が大きいほど、既存事業の物差しが強く働く

2つ目は、いわゆるイノベーションのジレンマと同じ構造です。既存の顧客の声を丁寧に聞くほど、新しい領域への投資が後回しになります。

実現の型1|構造的(組織を分ける)

探索を担う組織を、既存事業とは別に立てる形です。評価制度、決裁の範囲、予算、会議体、採用の基準を別立てにします。

いちばん採用されている型で、いわゆる「出島」もこれに当たります。短期で立ち上がる代わりに、分けたものと、分けてはいけないものの線引きが難しくなります。(この線引きが、この記事の後半の主題です)

実現の型2|連続的(時期で切り替える)

組織は分けず、時期によって深化と探索の比重を変える形です。環境の変化が緩やかな業界では成立します。

切り替えの号令を出すのは経営です。現場に任せると、締め切りのある深化側が常に勝ちます。

実現の型3|文脈的(個人の中で両立させる)

組織も時期も分けず、一人ひとりが状況に応じて深化と探索を使い分ける形です。

自由度は高いのですが、評価制度が深化寄りのままだと、探索は行われません。「時間の一部を新しいことに使ってよい」と言うだけでは、動きません。

成功の要件1|経営トップが、自分で関与する

探索と深化は、必ず資源を取り合います。その調停は、両方の上にいる人にしかできません。

「担当役員に任せた」で済ませると、探索側は社内で常に弱い立場のままになります。関与とは、会議に出ることではなく、取り合いになったときに配分を決めることです。

成功の要件2|2つをつなぐ、共通のビジョン

探索と深化を分けると、「あちらは何をしている部署なのか」という距離が生まれます。

同じ会社として何を目指すのかが共有されていれば、協力を頼む理由が説明できます。ビジョンは、飾りではなく、部門をまたいだ依頼を通すための道具として効きます。

成功の要件3|探索と深化で、評価制度を分ける

既存事業と同じ売上目標を新規事業に課すと、短期で数字になる案しか出なくなります。

探索側で評価するのは、売上ではなく「何を確かめたか」です。検証した仮説の数、外れたことが分かった数、次に活かせる形で残した記録。

成功の要件4|既存事業の資源を、探索側が使えるようにする

ここが4つの中でいちばん難しく、いちばん飛ばされます。

探索組織が新しくても、顧客基盤、販路、業務データ、生産設備、ブランドは既存事業側にあります。これらを使えるかどうかで、探索の速度は何倍も変わります。

制度として「使える」と書いてあっても、実際に貸す側にその手間を引き受ける理由が無ければ、動きません。(この記事の後半は、ここで起きたことの記録です)

メリット1|長期的な競争力が保たれる

いまの事業が縮む前に、次の柱を用意できます。効いてくるのは、既存事業が好調なうちに始めた場合だけです。苦しくなってから探索を始めると、資金と時間の両方が足りません。

メリット2|既存事業と新規事業が、互いに効く

探索で得た技術や顧客の知見が、既存事業の改善に戻ることがあります。逆に、既存事業の顧客が新規事業の最初の利用者になることもあります。

この往復が起きるかどうかは、組織の分け方に依存します。完全に切り離すと、往復の経路も一緒に切れます。

メリット3|働く人の納得感が上がる

挑戦の場があること自体が、既存事業側の人にとっても「この会社は先があるのか」の答えになります。

つまずくところ1|深化に偏っていく

前述のサクセストラップです。放っておくと必ずこちらに寄ります。探索側の予算と人員を、期のはじめに固定して切り出しておくのが実務上の対策です。

つまずくところ2|2つの組織文化が対立する

深化側から見ると、探索側は「成果を出さずに好き勝手にやっている」ように見えます。探索側から見ると、深化側は「変わろうとしない」ように見えます。

どちらの見方も、それぞれの評価制度から見れば正しいものです。対立は人格の問題ではなく、測り方の違いから出ます。解くなら、制度の側から解きます。

人事・組織が担う4つの役割

両利きの経営は、人事制度の設計とほぼ同義になります。

  • 評価制度と目標管理の再設計 — 探索側の物差しを別に作る
  • 人材の配置と育成 — 探索を担える人を、どこから連れてくるか
  • 組織文化と心理的安全性 — 失敗を報告できる場を作る
  • リーダーシップの開発 — 深化と探索の両方を扱える管理職を育てる

3つ目が無いと、探索は「うまくいっている報告」しか上がってこなくなります。外れたことが共有されない探索は、数を打っても学習が溜まりません。

両利きの経営の企業事例

よく引かれるのは次の3社です。

企業何をしたか
富士フイルム写真フィルム事業が縮小する中で、蓄積した化学技術をヘルスケアなど別の領域へ展開した
AGCコア事業(ガラス)と戦略事業を分けて管理し、素材メーカーとして領域を広げた
AmazonEC事業で作った社内向けの仕組みを、クラウドサービスとして外部に提供する事業に育てた

3社に共通するのは、「既存事業で持っていたものを、新しい領域で使い直した」点です。まったく新しい領域へゼロから出ていった例ではありません。

型に沿ってやります。社長直轄の新規事業開発室を作り、10名を配置しました。

切り離した項目は、こうです。

“`
評価制度:既存の売上目標から外す(期の売上ノルマを持たない)
決裁  :室長決裁で進められる範囲を広く取る
予算  :主力事業とは別枠で確保する
会議体 :既存の週次営業会議には出席しない
採用  :中途を独自基準で採れる枠を持つ
“`

切り離す理由も、きちんと説明されています。既存事業の物差しで測れば、新規事業は必ず落ちる。 だから別の物差しで測れる場所に置く。ここまでは、どの教科書にも書いてあるとおりです。

社内報にも載りました。発足時点では、誰もこの設計に反対していません。

ここまでが、両利きの経営の教科書どおりの整理です。探索と深化を分け、評価を分け、トップが配分を決め、共通のビジョンでつなぐ。設計としては、これで合っています。

この記事の後半で扱うのは、その設計のうち4つ目の要件——既存事業の資源を使えるようにする——が、実際にどう動いたかです。制度上は、使えることになっていました。

② 半年経っても、検証が1本も終わらない

半年経っても、検証が1本も終わらない

半年後、進捗を確認しました。

有償の検証まで進んだ工務店は、出てきませんでした。 企画書は何本も上がっています。プロトタイプも動いています。ただし、試してくれる相手が現れない。

この事業に必要な材料は、3つでした。

全国のおよそ9,000社の工務店チャネルへの案内
出荷済み設備の設置データ(どこに、いつ、何が入っているか)
修理を担当する技術者の網(現地に行ける人)

3つとも、既存事業の中にあります。そして3つとも、渡ってきませんでした。

返ってきた答えは、どれも「No」ではありません。「今期は人が出せません」「個別に申請してください」「次の期に検討します」。 拒否ではなく、順番が後ろになっているだけです。

そして順番は、半年経っても回ってきませんでした。

③ 既存部門に聞いたら、断る理由が合理的だった

既存部門に聞いたら、断る理由が合理的だった

行き詰まったところで、チャネル営業部に理由を確認します。なぜ動いてもらえないのかというと、返ってくる答えは制度の側にありました。

協力しない理由は無い。ただ、「今期の部の目標に載っていない」ので、「優先順位はいちばん最後になる」。載せてもらえれば動く。探索組織を切り出した会社で既存部門に理由を聞くと、だいたいこの形に落ち着くという話をよく聞きます。

その部の目標は2つでした。設備の販売台数と、工務店1社あたりの取引額。 どちらにも、新サービスは1ミリも関係しません。

それどころか、協力すると数字が下がります。

→ 工務店に新サービスを説明すると、担当者の訪問時間が減る
→ 説明の結果として契約が取れても、売上は新規事業室に計上される
→ 新サービスの不具合が出れば、苦情は工務店との関係を持つ営業部に来る

協力すればするほど、自部門の評価は下がる設計になっていました。

サボタージュではありません。制度に忠実なだけです。 そして忠実な人ほど、優先順位を正しく最後に置きます。

④ 分離が切っていたのは、しがらみではなく資産だった

分離が切っていたのは、しがらみではなく資産だった

この一件で、出島の設計を見直しました。

切ったつもりだったものは、こうです。既存の評価指標、稟議の速度、品質検証の重さ、社内の力学。どれも「制度」の側にあります。

実際に一緒に切れていたものは、こうでした。工務店チャネル、設置ベースのデータ、サービス網、ブランド、法務と品質保証の知見。こちらは「資産」の側です。

そして、この2つは同じ線の上に乗っています。組織の線を1本引くと、制度と資産が同時に切れます。

制度を切る → 探索が既存の物差しで潰されなくなる → 狙いどおり
資産も切れる → 探索が顧客にもデータにも人にも届かなくなる → 想定外

資産を失った探索ユニットが何になるかというと、資本の薄いスタートアップです。自由はある。顧客もデータも人手もない。

そして、その勝負では社外のスタートアップに勝てません。資金調達の手段も、意思決定の速度も、向こうの方が上だからです。

大企業が新規参入者に対して持っている優位は、資産だけです。 それを自分で切ったら、社内でやる理由が残りません。

⑤ 直してみる — 切るものと、つなぐものを分ける

直してみる — 切るものと、つなぐものを分ける

やり直しは、3ステップでした。

1. 切る項目を、制度だけに限定する。
評価指標、意思決定の速度、人事の枠、予算の科目。ここは切ったままにします。 元の設計で正しかった部分です。

2. つなぐ項目を、名指しで決める。
チャネル、設置データ、サービス網、ブランド、法務・品質。「必要なときに相談する」ではなく、どの資産を、誰から、どれだけ引くかを事前に列挙します。

3. つなぎ方を、目標の行として書く。
これが本丸でした。「協力してください」ではなく、「あなたの部の今期の目標に、この案件が載っている」状態を作る。

そして3つ目は、新規事業室からは絶対に書けません。 他部門の目標を書き換える権限が無いからです。

→ 探索側が頼む → お願い → 優先順位は最後
→ 経営が目標に載せる → 業務 → 優先順位が付く

「両利きの経営には経営トップの関与が必要」と言われるのは、精神論ではありません。 目標の行を書き換える権限が、そこにしか無いからです。

⑥ あとで知った — 元の理論に、最初からそう書いてあった

あとで知った — 元の理論に、最初からそう書いてあった

素朴な反省のつもりでしたが、調べると元の理論に、そのまま書いてありました。

まず、探索と深化という対の概念は、1991年の研究に遡ります。「探索(exploration)とは、探索・変異・リスクテイク・実験・遊び・柔軟性・発見・革新といった言葉で捉えられるものを含む」「深化(exploitation)とは、洗練・選択・生産・効率・選抜・実装・遂行といったものを含む」。

そして、放っておくと組織は深化に寄ります。深化の成果は早く、確実で、測りやすい。探索の成果は遅く、不確実で、測りにくい。 だから資源配分は自然に深化へ流れます。これが成功の罠と呼ばれるものです。

ここまでは、既存部門が動かなかった理由の説明として、そのまま当てはまります。

問題は次でした。両利きの経営を提唱した研究では、成立の条件が複数挙げられていて、そこには「分離」だけでなく「統合」が入っています。

→ 探索と深化の両方を正当化する、共通の戦略的な意図
→ 経営陣が共有する、アイデンティティと価値観
→ 探索ユニットの構造的な分離と、経営トップのレベルでの統合
→ 矛盾する2つの組織を、同時に抱え続ける経営陣の能力

3つ目が、一組の要件として書かれています。 分離と統合は別々の選択肢ではなく、セットで1つ。分離だけを実行したものは、両利きではなく、ただの切り離しです。

さらに、資産についても明記されています。探索ユニットが、既存組織の資産と能力 — ブランド、顧客基盤、製造能力、販売網 — にアクセスできることが、成立の条件として挙げられている。

「出島に自由を与えた」という判断は、要件の半分しか実行していませんでした。

ただし正直に書いておくと、これは経営陣が矛盾を抱え続けられる会社の話です。深化側の部長からは「なぜうちの目標に他部門の案件が載るのか」という反論が必ず出ます。それを引き受ける人が上にいないなら、社内に置かない方が速い。 出資や共創の形で社外に置いた方が、双方にとって健全です。

新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。

⑦ 何が変わったか

何が変わったか

組織図は変えていません。新規事業開発室は、10名のままです。

変えたのは3点でした。

チャネル営業部の期の目標に1行入れた(新サービスの検証先を、月5社紹介する)
探索側の評価指標を、売上から検証を終えた仮説の本数に変えた
経営会議に、深化と探索を並べて置く枠を月1回作った

目標に行が入った次の期から、有償の検証に入る工務店が続けて出てきます。企画書もプロトタイプも、半年前のものをそのまま使っています。 止めていたのは中身ではなかった、ということです。

既存チャネルは、新規事業室が自力で作ろうとすれば数年かかるものです。それが、目標の1行で開きます。

ただし、この直し方には代償があります。

1つ目。目標の行は、無限に足せません。 新サービスの紹介を1行入れれば、その部が元から持っていた目標のどれかが軽くなる。足すのではなく、入れ替えているのだと理解しておかないと、翌期に静かに消えます。

2つ目。紹介される検証先の質は、探索側では選べません。 紹介の本数を目標にした瞬間、本数は満たされます。当たり外れの多い検証先を捌く工数が、そのぶん探索側に乗ります。

3つ目。経営会議に月1回の枠を取れば、深化側の議題が押し出されます。 主力事業の管理に使っていた時間を削っている、という自覚が要ります。

出島は必要でした。切り方が違っただけです。

⑧ 現場で使うなら、この3枚

現場で使うなら、この3枚

探索組織を作る前に、この3枚を埋めてください。組織図を描くより先です。

表1:分離の設計(切るもの/つなぐもの)

項目切るつなぐ判断の理由
売上・利益の目標既存の物差しで測ると探索が潰れる
意思決定の速度既存の決裁段数では検証が回らない
人事・採用の枠求める人材の要件が違う
予算の科目単年度評価だと初年度で止まる
顧客チャネルこれが社内でやる理由そのもの
顧客・設置データ新規参入者が持てない資産
サービス・保守網自前で作ると数年かかる
ブランド初回接触の成約率が変わる
法務・品質の知見事故を1回起こすと本体に返る

上4行と下5行を、同じ線で切らないでください。 ここを1本の線で処理した瞬間に、出島は資本の薄いスタートアップになります。

表2:接続の実装(誰の目標に、何を書くか)

つなぐ資産持っている部門その部門の目標に書く一行誰が書けるか
顧客チャネル営業検証先を月○社紹介する経営
顧客データ情報システム○月までに参照権限を開放する経営
サービス網保守・サービス検証案件に月○人日を割く経営
ブランド利用広報・宣伝新事業の告知を年○回出す経営

右端の列が、全部「経営」になります。 これが、両利きの経営に経営トップの関与が要ると言われる理由の実体です。探索側が埋められる欄は、この表にひとつもありません。

そして数字を必ず入れてください。 「協力する」と書いた目標は、達成の判定ができないので、期末に消えます。

表3:そもそも社内に置くべきかの判定

確認項目該当する該当しない
既存資産が、この事業の勝ち筋の中心にあるか社内に置く社外と組む
経営が、既存部門の目標を書き換える意思があるか社内に置く社外と組む
探索を、既存と別の物差しで3年見る合意があるか社内に置く見送る
止める基準を、始める前に決めてあるか社内に置く先に決める

上2行が該当しないなら、社内に出島を作らないでください。 資産も渡らず、経営の後ろ盾も無い探索組織は、優秀な人を10名拘束したうえで、2年後に静かに解散します。

⑨ この考え方が効き続ける理由

この考え方が効き続ける理由

新規事業がうまくいかないとき、社内で最初に出てくる仮説は、だいたい2つです。

1つは、人が悪いという話。 起業家人材がいない、既存部門が保守的だ、経営の理解が無い。

もう1つは、テーマが悪いという話。 市場が小さい、時期が早い、技術が足りない。

どちらも、目標の行を1行も動かしません。 そして翌年、また同じ場所で止まります。

一方、資産の接続を目標として書いておけば、テーマが変わっても表がそのまま使えます。 つなぐ資産の名前が入れ替わるだけで、構造は同じだからです。

そして、この構造は事業の内容にも技術にも依存しません。設備のサブスクでも、AIを使ったサービスでも、海外展開でも、同じです。 大企業が持っている優位が資産の側にある、という事実は、テーマが変わっても変わりません。

だから両利きの経営の最初の一手は、探索組織の設置ではありません。既存事業が持っている資産を棚卸しして、そのうちどれを、誰の目標に書いて渡すかを決めることです。

組織図は、そのあとで描けば間に合います。


ちなみに、既存部門に理由を聞きに行く動きは、たいてい後回しになります。

最初の月に聞いていれば、空いた数ヶ月は要らなかったはずです。

なぜ後回しになるのかというと、切り離した相手に頼みに行くのが、格好悪く感じられるからです。独立した組織として立ち上げた以上、自力で立ち上げるべきだ、という気分になる。

独立させたのは制度からであって、会社からではないはずなのですが。

以上です。

両利きの経営のよくある質問

両利きの経営とは何ですか?

既存事業を磨き込むことと、新しい事業を探すことを、同じ会社の中で同時に進める経営のあり方です。前者を知の深化、後者を知の探索と呼びます。両方やると言うのは簡単ですが、深化は失敗を減らすことを求め、探索は失敗の数を増やすことを求めるため、行動が正反対になります。同じ会社で両立させるのが難しいのは、この矛盾のためです。

知の探索と知の深化は、何が違うのですか?

知の深化は、いま持っている強みをより深く効率よくすることです。品質を上げる、原価を下げる、手順を標準化する。効果が読めるので投資の判断がしやすく、だからこそ資源はこちらへ流れます。知の探索は、いまの延長線上にない領域を試すことです。ほとんどが外れる前提の活動なので、既存事業と同じ成功率や投資対効果で測ると必ず見劣りします。

サクセストラップ(コンピテンシー・トラップ)とは何ですか?

うまくいっている事業ほどそこへ資源が集中し、探索が細っていく現象のことです。成功の罠とも呼ばれます。これは怠慢ではなく、合理的な判断の積み重ねで起きます。確実に回収できるほうへ投じるのは、各部門にとって正しい判断だからです。個々が正しく判断した結果として、会社全体が偏ります。

両利きの経営には、どんな実現の型がありますか?

3つあります。構造的(探索を担う組織を既存事業とは別に立てる。いわゆる出島)、連続的(組織は分けず、時期によって深化と探索の比重を変える)、文脈的(組織も時期も分けず、一人ひとりが状況に応じて使い分ける)です。もっとも採用されているのは構造的ですが、分けたものと分けてはいけないものの線引きが難しくなります。

両利きの経営を成功させるには、何が必要ですか?

4つです。経営トップが自分で関与すること(資源の取り合いの調停は両方の上にいる人にしかできません)、2つをつなぐ共通のビジョン、探索と深化で評価制度を分けること、そして既存事業の資源を探索側が使えるようにすることです。4つ目がいちばん難しく、いちばん飛ばされます。制度として使えると書いてあっても、貸す側にその手間を引き受ける理由が無ければ動きません。

両利きの経営とは何ですか?

既存事業を深めること(深化)と、新しい事業を探すこと(探索)を、同じ会社が同時に行う経営のことです。英語では ambidexterity と呼ばれます。片方に寄ると、探索に寄れば稼ぎ頭が痩せ、深化に寄れば次の柱が無くなる。両方を同時に成立させる組織能力を指す言葉です。

探索組織は既存事業から分離すべきですか?

分離は必要ですが、分離だけでは足りません。元の理論でも、構造的な分離と経営トップのレベルでの統合が、切り離せない一組の要件として書かれています。分離だけを実行すると、探索ユニットは自由と引き換えに既存資産へのアクセスを失い、資本の薄いスタートアップと同じ状態になります。

既存部門が新規事業に協力してくれないのはなぜですか?

たいていはサボタージュではなく、目標設計の問題です。既存部門の期の目標に新規事業への貢献が一行も入っていなければ、協力しても自部門の数字は上がらず、担当者の時間だけが減ります。制度に忠実な人ほど、優先順位を最後に置きます。直すべきは態度ではなく目標の行です。

探索組織の評価指標は何にすべきですか?

売上や利益ではなく、学習の量です。検証を終えた仮説の本数、会えた見込み顧客の数、捨てられた案の数。立ち上げ期の売上で測ると、探索は最も確実に売れそうな案、つまり既存事業の延長線上の案しか出さなくなります。それは深化の別名です。

出島を作るべきか、社外と組むべきかはどう判断しますか?

既存資産がその事業の勝ち筋の中心にあるかどうかで分かれます。顧客チャネル、設置ベース、サービス網、ブランドが勝因なら社内に置く意味があります。そうでないなら、資金調達の手段も意思決定の速度も社外のスタートアップの方が上なので、出資や共創の形で外に置いた方が速く進みます。

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