新規事業の企画書|9項目と書き方、通らない企画書の直し方

新規事業の企画書|9項目と書き方、通らない企画書の直し方

「新規事業の企画書|9項目と書き方、通らない企画書の直し方」の全体像をまとめた図解|分厚い企画書を作っていた夜のことを、ときどき思い出します

新規事業の企画書に必要な項目は、9つに整理できます。この記事では、9項目それぞれの書き方と記入例、通らない企画書に共通する形と直し方まで順に扱います。

ただ、項目の一覧より先に伝えたいことがあります。分厚い企画書を作っていた夜、ページを足すほど仕事をした感じが増え、机の上では事業がずいぶん前に進んで見えました。ところが、翌朝になっても顧客は増えていません。項目を埋めることと、事業が進むことは別物です。僕は大企業と組んで新規事業を作る仕事をしていて、企画書を書く側にも実装する側にも立ち、「企画が通る」と「顧客が動く」の距離を何度も見てきました。

舞台は、ホームセンターチェーンの店頭で実証した電動工具のレンタルサービスです。大手小売と組み、売場の一角で実証しました。※複数の実経験をもとに再構成した架空のプロジェクトです。起きている力学は実際のものです。僕は企画書を書くところから決裁後の実装までに参加し、この記事では企画書を稟議に載せ、決裁を経て現場で動かす工程を扱います。

前置きはさておき、本題に入ります。

① 教科書どおりに、書いてみる

「① 教科書どおりに、書いてみる」を図解したスライド|新規事業の企画書には、まず押さえる型があります
新規事業の企画書の基本をすでにご存じの方は、② そのとおりに書いて、詰まるから読み進められます。

新規事業の企画書に入れる9項目

新規事業の企画書には、まず押さえる型があります。僕が整理するなら、次の9項目です。

1. 背景

2. 課題

3. 顧客

4. コンセプト

5. 市場と競合

6. 収益構造

7. 体制

8. 計画とKPI

9. リスク

「背景」には、なぜ今取り組むのかを書きます。社内事情だけではなく、顧客を取り巻く変化まで置くと、企画の出発点が伝わります。

「課題」では、誰の何が不便なのかを絞ります。「市場に課題がある」では広すぎます。顧客がどこで止まり、何を諦めているかまでの具体化が必要です。

「顧客」は、買う人と使う人を意識して書きます。新規事業では両者が同じとは限りません。「最初に使ってもらう相手」まで見えると、検証に移りやすくなります。

「コンセプト」は、顧客の課題をどう変える案なのかを短く示す欄です。機能の一覧ではありません。「誰の状態を、どう変えるか」が中心です。

「市場と競合」では、市場の見立てと代替手段を並べます。競合は同業だけではありません。顧客が今使っている表計算や手作業も、企画と比べられる選択肢です。

「収益構造」には、誰から何の対価を受け取るかを書きます。売上の入口と、運営に必要な負担がつながっているかを確かめます。

数字の作り方——収益の分解と、見る指標

企画書では収支計画と数値根拠を示すのが定石です。ただ、売上の総額だけを置いても、どの仮説が外れたのかは分かりません。僕は売上を単価、客数、購入頻度に分け、それぞれの根拠を別に書きます。

さらに、顧客一人を獲得するための費用と、その顧客から取引期間を通じて得る価値を並べます。売上が増えても獲得費用や提供負担が上回るなら、収益構造は成立していません。

ただし、一つの予測を正解のように見せません。単価、客数、頻度、獲得費用が楽観、標準、悲観の場合にどう動くかを幅で置きます。幅が大きい項目は、数字を精密にするのではなく、次の顧客検証で先に確かめる仮説にします。

「体制」では、企画、実装、販売、運用の担当を置きます。人名が決まらなくても、「誰が判断を持つか」は曖昧にしません。

「計画とKPI」には、次の判断までに何を確かめるかを書きます。売上だけでなく、「顧客が使ったか」「次も使うか」も判断材料になります。

「リスク」は、起こりうる問題と対応を対で書きます。リスクを消したように見せるより、発生時の動きを示すほうが現実的です。

スケジュールとマイルストーン

スケジュールは作業日程ではなく、判断の順序として書きます。顧客課題の確認、試作品の提供、継続判断のように、証拠が増える節目をマイルストーンにします。各節目には日付、責任者、次へ進む条件を一行ずつ置き、開発完了だけを進捗にしません。

販売とマーケティングの計画

誰に売るかだけでなく、最初の顧客へどう接触し、誰が説明し、利用後に何を確認するかまで書きます。広告、営業、既存顧客への案内などの手段ごとに、接触数ではなく次の行動へ進んだ数を置きます。僕は、販売計画を検証計画とつなげ、売れなかった理由を対象、接点、提案内容に分けて残します。

撤退の線をどこに書くか

撤退条件はリスク欄の末尾へ隠さず、スケジュールの判断日と対にして書きます。「売上が伸びなければ」ではなく、「いつまでに、誰の、どの行動が確認できなければ見直すか」を示します。停止だけでなく、対象変更、提供方法の修正、追加検証のどれへ進むかも決めます。

書く前に決める2つ — 承認者は誰か、最初の顧客は誰か

書き始める前に決めておくことも、2つあります。承認者が誰で何を判断するのかと、最初の顧客が誰なのかです。ここを曖昧にしたまま書くと、どの項目も総論になります。

書く順番 — 市場規模からは書き始めない

書く順番は、課題と顧客からです。市場規模から書き始めると、誰のための企画かが薄まります。課題、顧客、コンセプトを固めてから、収益構造と計画へ進みます。サマリーは全体を書き切ってから、最後に作ります。

説得力を足すのは、形容詞ではなく一次情報

説得力を足すのは、形容詞ではなく一次情報です。「大きな市場です」と書くより、顧客が実際に口にした言葉を1つ置くほうが、会議は動きます。

企画書・提案書・事業計画書は何が違うか

なお、企画書、提案書、事業計画書は役割が違います。企画書は「何を、なぜ始めるか」を提起するものです。提案書は相手に特定の選択や行動を促します。

一方、事業計画書は、事業をどう成立させて運営するかを詳しく記します。事業計画書の話はこちらにまとめています。

この型が要る場面は、新規事業の起案だけではありません。既存事業の拡張や、社外との共創の入口でも、同じ9項目で論点を揃えられます。

用途で変わる——社内決裁・融資・補助金

社内決裁では、自社が取り組む理由、既存部門への影響、誰が責任を持つかを厚くします。融資向けでは、返済可能性を判断できる収支と前提、資金の使途を追える形にします。補助金向けでは、公募要件に対応する目的、対象経費、実施工程を読み手が照合できるようにします。

同じ企画でも、読み手が答えたい問いは違います。僕は本文の事実を変えず、冒頭の要約と根拠の並び順を用途ごとに変えます。制度名や金額を先に当てはめるのではなく、提出先の指定様式と審査項目を確認してから編集します。

パワポとワード、どちらで作るか

会議で説明し、その場で論点を決めるならパワーポイント、説明者なしで回覧し、条件や経緯を精読してもらうならワードが向きます。僕は媒体の見栄えではなく、誰がどの場で読むかで決め、収支や計算根拠はどちらの場合も別表へ分けます。

最初の企画書は7割の完成度でいい

最初の企画書は、7割の完成度でよいと僕は考えています。残りを想像で書き足すより、検証できる余白として残すためです。

僕も9項目をそろえて提出し、企画はちゃんと通りました。だから、型を否定するつもりはありません。型は論点の漏れを防ぎ、承認者が判断する順番を整えてくれます。

ただし、「通る企画書」と「進む企画書」は同じではありません。進めるには、9項目の横に顧客が触れられるものが要ります。

9項目の前に、サマリーを1枚置く

承認者が最初に読むサマリーを、9項目の前に置きます。「何を、誰に、いくらで届けるか」を一目で示すためです。「いつまでに進めるか」「誰が責任を持つか」も書きます。

サマリーは1枚に収め、詳細は2枚目以降へ移します。全体はサマリー版で5〜10ページ程度に絞り、詳しい根拠は別添にします。サマリーを最後に書けば、本文との食い違いも防げます。

「なぜ今か」だけでなく「なぜ自社か」を書く

背景には、外部の変化と、自社がすでに持つものを2つ以上並べます。たとえば、顧客の行動変化だけでなく、既存の顧客接点や運用の知見も根拠にします。「なぜ今か」と「なぜ自社か」がつながれば、取り組む必然性が伝わります。

既存事業と食い合うのか、既存事業に足すのかも先に書きます。関係を曖昧にすると、顧客や売上を奪う企画だと受け取られ、既存部門から止められます。食い合うなら対象の違いを、足すなら顧客や機能のつながりを示します。

落ちる企画書に共通する型

落ちる企画書には、3つの型があります。1つ目は、数字の出所を言えない推計です。2つ目は、「競合はいない」と書くことです。競合不在の主張は、需要もないのではと読まれます。3つ目は、リスク欄でリスクを消し、起きた時の動きを書かないことです。

数字に根拠がなければ、出所と計算の前提を添えます。競合が見つからなければ、顧客が今使う代替手段まで比較します。リスクへの対応がなければ、担当者と最初の動きを決めます。落ちた理由を次の修正箇所に変えると、企画書は判断できる形に近づきます。

市場規模をどう出すか(TAM/SAM/SOM)

TAMは理論上届きうる最大市場、SAMは自社の商品と営業範囲で対象にできる市場、SOMは現在の体制と競争条件で現実に獲得を狙う市場です。僕は日本語の意味を先に書き、三つの円を大きく見せるためではなく、対象を絞った理由を説明するために使います。

出し方は二通りあります。積み上げは対象顧客数、利用頻度、想定単価を下から掛けます。割り戻しは公開された大きな市場を地域、業種、用途などで絞ります。両方を突き合わせ、差が大きければ対象顧客か単価の仮説を聞き直します。

競合をどう調べるか

僕はまず顧客が今使う代替手段を聞き、次に上場企業の投資家向け広報(IR)資料、調査会社の業界情報、各社の公式サイトや利用規約を読みます。可能なら実際に申し込み、導入までの手間、使い方、解約までを体験します。

最後に、価格だけでなく、対象顧客、解く課題、届け方、継続理由を同じ軸で並べます。「競合はいない」ではなく、顧客が何から乗り換えるのかを一行で言える状態にします。

誰に売るかを具体にする(ペルソナ)

ペルソナは、想定顧客を具体的な一人として表した像です。年齢層、職種、地域などの属性だけでなく、どの場面で困り、今はどう対処し、何を大切にし、誰の意見で動くかという行動と価値観も書きます。

架空の人物紹介で終わらせないため、僕は各記述の横に情報源を付けます。買う人と使う人が違う場合は二人に分け、最初に会いに行く相手まで決めます。

実行体制——誰が何人で、何を外に出すか

企画、商品づくり、販売、運用、法務・経理について、必要な役割と人数の桁を置きます。氏名や精密な工数ではなく、専任か兼務か、いつ必要か、最終判断を誰が持つかを示します。

外へ出す仕事は、専門性が一時的に必要なものと、社内で学習を持つべきものに分けます。僕は顧客理解と事業判断を丸ごと外注せず、成果物、受入条件、社内の責任者を一行ずつ書きます。

既存事業との相乗りと食い合い

相乗りは既存の顧客接点、販売網、データ、運用を新事業でも使えることです。食い合いは既存商品の顧客や売上を新事業が奪うことです。どちらも「ある・ない」ではなく、誰のどの行動が移るかで示します。

僕は既存部門に、新事業が増やす仕事、減らす仕事、奪う可能性のある売上を聞きます。食い合いが起きても全社で価値が増えるなら、その判断主体と移行策まで企画書に置きます。

一次情報をどこで取るか(情報源を名指しする)

市場の基礎にはe-Statや各省庁の統計、企業情報には各社の有価証券報告書や帝国データバンクなどの信用調査会社、実務の確認にはビザスクのように実務家へ聞ける場があります。順位は付けず、必要な定義と更新日を満たす情報源を選びます。

僕は企画書の脚注に、資料名、発行主体、時点、参照箇所を残します。公開情報で分からない顧客の行動は、想定顧客への聞き取りや現場観察で補い、統計と発言を同じ種類の証拠として混ぜません。

公的な制度と様式

融資を検討するなら、日本政策金融公庫の「新事業活動促進資金」の公式ページで対象者、資金使途、提出時点の条件を確認します。補助金なら、中小企業基盤整備機構が公開する「中小企業新事業進出補助金」の資料などの公募要領、応募申請ガイド、指定様式を読みます。制度は更新されるため、金額や要件を企画書へ固定する前に最新版を確認します。

僕は公募要領の審査項目と企画書の見出しを対応表にし、該当ページを添えます。制度に合わせて事業を作るのではなく、既存の計画が制度趣旨と対象要件に合うかを先に判定します。

決裁者から必ず来る質問と、その答え方

決裁者は「なぜ今か」「なぜ自社か」「誰が買うのか」「代替手段より何が違うか」「いくらまで使い、何が分かれば次へ進むか」「うまくいかなければどうするか」を尋ねます。答えは結論、根拠、未確認事項、次の行動の順に短くします。

分からない質問へ数字を作って答えてはいけません。僕は想定問答の未確認欄に、誰がいつまでに何を調べるかを書き、その場で決めたい事項も明示します。

口頭で説明する(短く言い切る)

口頭では「誰の、どんな困りごとを、どう変え、次に何を確かめたいか」を短く言い切ります。資料の目次を読み上げず、決裁者に求める判断を最後に置きます。

僕は説明を録音して文字にし、専門用語、重複、根拠のない形容詞を削ります。短くすると説明不足にならないか、という疑問には、根拠を別紙に置き、質問された順に開くことで答えます。

書き始めてから共有するまでの手順

調べる、骨子を作る、下書きする、直す、関係者へ回す、の順です。調査では事実と仮説を分け、骨子では各見出しの結論を一行にし、下書き後は数字の出所と見出し間の矛盾を直します。

共有前に、顧客を知らない人と実行担当者へ別々に読んでもらいます。僕はコメントを「誤り・判断に不足・好み」に分け、前二つから直します。

どのくらいの期間で書くか

作成期間はページ数ではなく、顧客へ会える速さ、社内データの所在、制度や法務の確認、関係者レビューの回数で伸びます。既知の事実を整える時間と、新しい証拠を取りに行く時間を分けて見積もります。

僕は締切から逆算せず、最初のレビュー日、証拠を追加する日、決裁版を固定する日を置きます。調査が終わるまで書かないのではなく、未確認を明記した骨子を先に共有します。

1枚に収める形

一枚企画書は、上段に課題と対象顧客、中央に解決策と収益の流れ、下段に最小の検証と判断条件を置きます。右上には、今回決めてほしいことを一文で示します。

一枚は詳細を隠す道具ではありません。僕は根拠資料へ番号でつなぎ、一枚だけを読んでも仮説と事実の区別が分かるようにします。

企画書の段階で最小の検証を定義する

最小の検証とは、最も重要な仮説を、必要最小限の試作品や運用で確かめることです。完成品を小さく作るのではなく、顧客が課題を認めるか、申し込むか、使うかなど、判断を変える一点を選びます。

僕は企画書に、仮説、対象者、見せるもの、観察する行動、次の判断を一行ずつ置きます。検証結果がどちらでも次へ進める設計にします。

使われ方の流れ(知る→申し込む→使う→やめる)

顧客が知る、比較する、申し込む、使い始める、繰り返す、更新または解約する流れを描きます。各場面で顧客がすること、迷うこと、事業側が担うことを並べると、機能一覧では見えない運用負担が出ます。

僕は「やめる」まで必ず書きます。解約方法、データの扱い、問い合わせの行き先が曖昧なら、提供開始前の課題として体制欄へ戻します。

経営計画との整合

経営理念や中期経営計画の言葉を引用するだけでなく、新事業がどの顧客、能力、収益源を増やし、既存の重点施策とどこで資源を奪い合うかを書きます。整合しない案を隠すと、承認後に人員と予算で止まります。

僕は経営計画の該当方針、企画が寄与する変化、衝突する点、経営に求める選択を四行で示します。

時流をどう扱うか

流行語が企画の価値を作るわけではありません。規制、技術、顧客行動の変化が、対象顧客の課題、提供方法、開始時期のどれを具体的に変えるときだけ書きます。

僕は時流の名称ではなく「以前は何ができず、今は何が可能で、根拠は何か」を記します。企画からその言葉を削っても価値が伝わるなら、背景の補足に留めます。

② そのとおりに書いて、詰まる

「② そのとおりに書いて、詰まる」を図解したスライド|企画書が通っても、現場の顧客体験まで同時に変わるわけではありません

企画書が通っても、現場の顧客体験まで同時に変わるわけではありません。

僕が実装側として参加した、この工具レンタルの案件では、起案の枠は20分でした。その先の決裁は四者が集まる30分の会議です。すでにほかの予定が6つ入っている時間へ、企画の審議を「割り込み」で差し込む設定でした。

上申日を待ち、近づくと日付が動きました。18か月のあいだに4回あり、その理由に技術やプロダクトが挙がったことは一度もありません。僕の手元では実装を3日で動かせても、「導入してよい」と決める場に企画を載せるところで止まりました。

同じ組織で、障害の報告から復旧報告までは31分でした。一方、新しいものを始める判断は、会議へ入る順番が決まらない。この対比から、企画書の中身を足せば解ける詰まりではないと感じました。

会議では「この案は説明できるか」が問われます。現場では「今日から使えるか」が問われます。同じ企画でも、確かめられている対象が違いました。資料の完成度を上げる仕事が続くあいだ、顧客が触る機会は後ろへ延びます。僕には、そんな逆転が起きているように見えました。

③ どう気づいたか

「③ どう気づいたか」を図解したスライド|最初は、説明が足りないのだと思いました

最初は、説明が足りないのだと思いました。背景を詳しくし、リスクへの回答を増やせば、現場も動くと考えていました。

ところが、説明を足すほど会議で答えられる質問は増えても、顧客の反応は増えませんでした。「資料で確認できたこと」と「現場で確認できたこと」を分けると、後者が空欄だったのです。

そこで、会議の進行ではなく、レンタルを申し込む顧客との接点を見直しました。すると、企画書に書いた仮説の多くは、紙の上で整合しているだけだと分かりました。

この案件の現場で、僕は資料を作り直すのをやめて、顧客が申込方法に触れられる紙を作りました。依頼されてもいないA4のチラシと、A3のプラカードを3種類です。整った資料をもう一度作るのではなく、顧客が触れる入口を作りました。

さらに、機能はほぼ同じまま、置き場所を変えました。変えたのは、顧客との接点の位置です。そこで受注が動いたとき、気づきは確信に変わりました。

企画書の文章だけを磨いても、接点の良し悪しは測れません。「顧客が実際に触れる場所」まで作って初めて、企画の続きを判断できます。

④ 原因を1つに特定

「④ 原因を1つに特定」を図解したスライド|原因は1つでした

原因は1つでした。企画書の読者は承認者であって、顧客ではないことです。

承認者は、「説明責任を果たせるか」「リスクを把握しているか」「社内で進めてよいか」を見ます。顧客は、「自分の課題が軽くなるか」「使えるか」を体験で見ます。

したがって、承認者向けに最適化するほど、企画書は通りやすくなります。しかし、顧客が触れるものがなければ、顧客の判断は不在のままです。

失敗は、項目が足りないから起きるとは限りません。「承認者に通る条件」だけを満たし、「顧客と進む条件」を測っていない構造からも起きます。

僕が見た分厚い提案書は、承認には役立ちました。ただ、顧客が触れられるものではありませんでした。企画書が悪いのではなく、企画書に担わせた役割が大きすぎたのです。

社内承認で文書がどう扱われるかは、稟議書の名前を見直した話にも通じます。通る条件を知るほど、進む条件との区別が必要になります。

⑤ 直してみる — 1箇所だけ直す

「⑤ 直してみる — 1箇所だけ直す」を図解したスライド|僕が直したのは、企画書の項目ではありません

僕が直したのは、企画書の項目ではありません。「動くものを先に置く」という、仕事の順番だけです。

売場に置いたのは、先ほどのチラシとプラカードです。「完成してから見せる」のではなく、「反応を得られる状態で置く」と考えました。

ここでいう7割の完成度は、雑に終える意味ではありません。紙で作れるところまで整理し、残りは動くもので埋めます。

「顧客はどこで止まるか」「どの置き場所なら触れるか」という企画書上の予測を、現場の行動で更新します。

動くものは、完成品である必要もありません。顧客が価値を確かめられ、次の判断に必要な反応が返る範囲で作ります。

ARCHECOでのMVP・PoC支援も、企画書の次に何を動かすかを重視しています。動くもので検証する進め方も、その延長にあります。

⑥ あとで知った — すでに名前があった

「⑥ あとで知った — すでに名前があった」を図解したスライド|動くものを先に置くやり方には、あとで知った概念名がありました

動くものを先に置くやり方には、あとで知った概念名がありました。「プロトタイピング」や「MVP(実用最小限の製品)」です。

プロトタイピングは、完成前の形を使って考えを確かめる方法です。MVPは、顧客に価値を届けながら学べる最小限の製品を指します。

僕がこの案件で行ったことも、考え方として符合していました。「ログイン機能すらない」状態でも、確かめたい価値に触れられれば前へ進めます。

言葉を知ると、社内で方法を共有しやすくなります。ただ、概念名を企画書へ追加するだけでは足りません。現場へ置いて反応を受け取るところまでが仕事です。

新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。

⑦ 何が変わったか

「⑦ 何が変わったか」を図解したスライド|この案件では、アプリの中身をほとんど変えないまま、数字が動きました

この案件の申込導線では、アプリの中身をほとんど変えないまま、数字が動きました。レンタルの利用は売場での声かけでは決まらず、工具棚の正面に置いたプラカードとレジ横のチラシで事前に認知されて決まっていました。置き場所を変える施策を重ねたあと、申込みは2倍以上に増えています。

この変化から、「何を作るか」だけでなく「どこに置くか」も企画の一部だと分かりました。企画書の顧客欄が、現場の接点へつながった瞬間でした。

もちろん、良いことだけではありません。動くものを先に出す分、仕様の手戻りと現場対応は増えました。紙の中なら整えてから示せる部分も、使われながら直すことになります。

ただ、その手戻りは顧客の反応から生まれます。僕は、想像だけで完成度を上げるより、何を直すかが分かる手戻りを選ぶようになりました。

記入例|9項目を1つの企画で通す

「記入例|9項目を1つの企画で通す」を図解したスライド|オフィス街の飲食店で昼食を事前注文し、店頭で待たずに受け取るサービスを例にします

オフィス街の飲食店で昼食を事前注文し、店頭で待たずに受け取るサービスを例にします。完成見本ではなく、一つの企画を同じ顧客と課題でつなぎ、各欄が答える問いを見るための記入例です。

項目記入例
1. 背景答える問いは「なぜ今、この企画を扱うのか」で、昼休みが限られる勤務者と、注文集中で受け渡しが滞る飲食店がいる。現地で待ち時間を観察し、解くべき変化かを確かめる。
2. 課題答える問いは「誰が、どの場面で止まるのか」で、利用者は列を見て入店を諦め、店舗は調理より注文受付と会計で詰まる、という仮説を置く。単なる「昼食が不便」ではなく、離脱が起きる場面を対象にする。
3. 顧客答える問いは「誰が使い、誰が導入を決めるのか」で、使う人は勤務者、決める人は店舗の運営責任者とする。最初は一つの街区の協力店舗と周辺で働く人に絞る。
4. コンセプト答える問いは「顧客の状態をどう変えるのか」で、出発前に商品を選んで注文し、指定時刻に店頭で受け取れるようにする。機能を並べるのではなく、「列に並ぶ昼食」から「受け取る昼食」への変化を示す。
5. 市場と競合答える問いは「今の方法と比べる理由はあるか」で、店頭注文、電話予約、弁当の持参、配達と比べる。対象街区の店舗数や昼の利用状況から、最初に届く範囲を見積もる。
6. 収益構造答える問いは「誰が何の価値に対価を払うのか」で、店舗が、注文受付と会計の混雑を減らし、受け渡しを平準化する仕組みに利用料を払う案を置く。料金は決め打ちせず、店舗が感じる価値と運用負担を聞いて成立条件を探る。
7. 体制答える問いは「仕事と判断を誰が引き取るのか」で、企画、店舗開拓、実装、問い合わせ対応、継続判断の役割を分ける。個人名が未定でも、最終判断者を空欄にしない。
8. 計画とKPI答える問いは「次の判断までに何を確かめるのか」で、協力店舗で短期間試し、注文画面を開いた人が注文を完了できるか、指定時刻に受け取れるか、店舗が翌週も続けたいかを見る。数値目標は観察前に作らず、継続条件を店舗と合意する。
9. リスク答える問いは「何が起きたら、誰が最初にどう動くのか」で、売り切れ、受取時刻の遅れ、注文間違いを先に挙げる。販売停止の条件、利用者への連絡、返金判断、店舗側の在庫更新を誰が担うかまで対にしておく。

「勤務者」「昼の列」「事前注文」という線を、背景からリスクまでつなげます。根拠がない箇所は断定せず、誰に何を聞けば更新できるかを書きます。空欄は次に確かめる問いとして残せます。

同じ9項目を、記入欄だけにしたファイルにしています。XLSX版でダウンロードPDF版でダウンロード

⑧ 現場で使うなら、この9項目+1

「⑧ 現場で使うなら、この9項目+1」を図解したスライド|企画書を作るときは、次の表を使えます

企画書を作るときは、次の表を使えます。左側の9項目で承認に必要な論点を整え、最後の1項目で顧客との接点を作ります。

項目書く・用意する内容確認する問い通過ライン
1. 背景取り組む理由と変化「なぜ今なのか」外部の変化と自社が取り組む理由を、根拠とともに説明できる
2. 課題顧客の不便や停滞「どこで困っているか」顧客が止まる具体的な場面と、未解決である根拠がある
3. 顧客買う人、使う人、最初の相手「誰が最初に触るか」買う人、使う人、最初に検証する相手を区別できる
4. コンセプト顧客の状態を変える案「何がどう変わるか」誰のどんな状態をどう変える案かを一文で言える
5. 市場と競合市場の見立てと代替手段「今の選択肢より何が良いか」対象市場の範囲と、顧客が今使う代替手段を比較できる
6. 収益構造対価の相手、価値、負担「誰が何に払うか」支払う人、対価となる価値、提供に伴う主な負担がつながる
7. 体制実装、販売、運用、判断の担当「誰が判断を持つか」実装、販売、運用の担当と最終判断者に抜けがない
8. 計画とKPI次の判断までの行動と指標「何を見て続けるか」期限、検証行動、観測指標、継続か修正かの判断条件がある
9. リスク想定する問題と対応「起きたらどう動くか」主な問題ごとに、発生時の担当者と最初の対応が決まっている
10. 動くもの顧客が触れる最小限の形と置き場所「現場で何を確かめるか」誰にどこで触ってもらい、どの反応を記録するかが決まっている

表を埋める順番も大切です。9項目を書き切ってから10個目を考えると、動くものが後回しになります。顧客と課題が見えた段階で、「何を置けば反応が返るか」を並行して決めます。

競合欄も比較表で終えず、優位性を動くものでどう確かめるかまで書きます。

この「9項目+1」なら、通る企画書と進む企画書を一枚で扱えます。前半は承認のため、最後は顧客から学ぶためと、役割も混同しにくくなります。

ページ数と枚数をどう決めるか

僕は、ページ数を情報量ではなく、読む順番で決めます。最初に開く1枚はサマリーです。承認者がそこで知りたいのは、誰のどんな課題を、何によって変え、次に何を判断するのかです。9項目を縮小して詰め込むのではなく、企画の一本の線と、求める判断だけを置きます。

2枚目以降には、サマリーの判断を支える顧客の声、代替手段との比較、収益の前提、体制、計画、リスクを並べます。会議中に説明しなければ判断できないものを本文へ、質問が出たときに確かめるものを付録へ回します。調査票の全文、計算過程、画面の全遷移まで本文へ入れる必要はありません。

枚数の正解は企画ごとに変わります。削る基準は、「このページがなくても、次の判断は変わらないか」です。変わらないなら付録へ移し、判断に必要なら残します。こう分けると、最初の1枚は入口、本文は判断材料、付録は裏取りという役割になり、厚さを完成度と取り違えにくくなります。

⑨ この考え方が効き続ける理由

新規事業は、企画した時点では仮説の集まりです。紙の上で筋が通っても、顧客の行動までは確定しません。

だから、「企画書を書く」と「動くものを置く」を一組にします。承認者からは進める許可を得て、顧客からは続ける根拠を得ます。

環境や企画が変わっても、二つの読者は残ります。社内では説明が求められ、現場では価値が試されます。片方だけで事業を進めようとすると、どこかで止まります。

僕にとって企画書は、完成を宣言する書類ではなくなりました。「次に何を確かめるか」をそろえる書類です。その横に動くものがあれば、会議の結論を現場の学びへつなげられます。

企画書の次の「動くもの」から、ARCHECOでは一緒に作ります。

よくある質問

新規事業の企画書には何を書きますか?

僕が整理するなら9項目です。背景、課題、顧客、コンセプト、市場と競合、収益構造、体制、計画とKPI、リスクを並べます。型は論点の漏れを防ぎ、承認者が判断する順番を整えてくれます。ただし、項目を埋めることと事業が進むことは別物です。

書く順番はどうすればよいですか?

課題と顧客から書きます。市場規模から書き始めると、誰のための企画かが薄まります。課題、顧客、コンセプトを固めてから、収益構造と計画へ進みます。承認者が最初に読むサマリーは、本文との食い違いを防ぐため、全体を書き切ってから最後に作ります。

企画書と提案書、事業計画書は何が違いますか?

企画書は、何を、なぜ始めるかを提起するものです。提案書は、相手に特定の選択や行動を促します。事業計画書は、事業をどう成立させて運営するかを詳しく記します。役割が違うので、一つの資料に全部を担わせないほうが進みます。この型が要るのは新規事業の起案だけでなく、既存事業の拡張や社外との共創の入口でも同じです。

何ページくらいがよいですか?

サマリーは1枚に収め、詳細は2枚目以降へ移します。全体はサマリー版で5〜10ページ程度に絞り、詳しい根拠は別添にします。僕の経験では、ページを足すほど仕事をした感じは増えますが、翌朝になっても顧客が増えるわけではありません。

企画書が通らない原因は何ですか?

落ちる企画書には3つの型があります。数字の出所を言えない推計、競合はいないという主張、リスク欄でリスクを消して起きた時の動きを書かないことです。数字には出所と計算の前提を添え、競合が見つからなければ顧客が今使う代替手段まで比較し、リスクには担当者と最初の動きを決めます。

企画が通ったのに進まないのはなぜですか?

企画書の読者は承認者であって、顧客ではないからです。承認者は説明できるかやリスクを把握しているかを見ますが、顧客は自分の課題が軽くなるかを体験で見ます。承認者向けに最適化するほど通りやすくなり、顧客が触れるものがなければ顧客の判断は不在のままです。僕が見た企画も、論点は整っていたのに現場を1ミリも動かしませんでした。

説得力を出すにはどうすればよいですか?

説得力を足すのは、形容詞ではなく一次情報です。大きな市場ですと書くより、顧客が実際に口にした言葉を1つ置くほうが会議は動きます。背景には外部の変化と自社がすでに持つものを2つ以上並べ、なぜ今かとなぜ自社かをつなげます。数字を使うなら、出所と計算の前提まで添えます。

最初からどこまで作り込むべきですか?

僕は、最初の企画書は7割の完成度でよいと考えています。残りを想像で書き足すより、検証できる余白として残すためです。雑に終える意味ではなく、紙で作れるところまで整理し、残りは動くもので埋めます。顧客はどこで止まるか、どの置き場所なら触れるかという紙の上の予測を、現場の行動で更新します。

書く前に決めておくことはありますか?

2つあります。承認者が誰で何を判断するのかと、最初の顧客が誰なのかです。ここを曖昧にしたまま書くと、どの項目も総論になります。あわせて、既存事業と食い合うのか足すのかも先に書いておくと、既存部門から止められにくくなります。

企画書の次に何をすればよいですか?

9項目の横に、顧客が触れられる動くものを置きます。完成品である必要はなく、顧客が価値を確かめられ、次の判断に必要な反応が返る範囲で作ります。僕は先の工具レンタルの案件で、依頼されていないA4チラシとA3プラカードを作って売場に置きました。置き場所の施策のあと、申込みは2倍以上に増えました。

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今でも、ページ数の多い企画書を見ると少し安心します。紙には、人を安心させる不思議な重さがあります。

ただ、紙を現場に置いても注文は入りません。机の上で企画書を閉じたら、次は画面を開くことにしています。

以上です。

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