AIエージェントの導入|進め方6ステップと、業務・ツール・費用の選び方 の全体像をまとめた図解|部屋を片付けるとき、いつも床から始めます

AIエージェントの導入|進め方6ステップと、業務・ツール・費用の選び方

どの業務にAIエージェントを導入するかで、結果が変わります。入居者と直接話す画面にAIを導入したところ、半年のほとんどを画面づくりと、5つのシステムからデータを取る作業に使いました。AIを導入する場所を1箇所だけ動かして、作ったものを捨てた記録です。
「AIエージェントの導入|進め方6ステップと、業務・ツール・費用の選び方」の全体像をまとめた図解|部屋を片付けるとき、いつも床から始めます

部屋を片付けるとき、いつも床から始めます。床が目に見えて広くなるので、進んだ感じがするからです。

ところが、床に出ていたものには、たいてい戻す場所がありません。引き出しの中がもう埋まっているからです。行き場を失ったものは、とりあえず机の上に積み上がります。

半日かけて、床が机になっただけ、ということが何度かありました。(僕はADHD(注意欠如・多動症)なので、片付けるのが人よりとても苦手で頭の中が真っ白になります…。)

AIを導入する会社が増えてきました。僕の会社では、導入先の業務を選ぶときに、この片付けと同じ失敗をしました。ここでいうAIエージェントとは、人に代わって業務の一部を進めるAIの仕組みです。ただ、入れさえすれば効くわけではなく、どの業務にAIエージェントを導入するかで結果がはっきり分かれます。同じ予算をかけても、半年後に残っているものと、誰も使わなくなるものに割れます。

僕も、AIエージェントを導入する業務の選び方を間違えました。いちばん目立つ業務を選び、6か月かけて作ったものを、まるごと捨てています。

先に一行だけ置きます。AIエージェントは、いちばん目立つ業務に導入すると失敗します。 目立つ業務は、すでに人が回していて、例外が多いからです。

今回話すプロジェクトでは、入居者向けアプリの、問い合わせ対応にAIを入れた話です。

大企業と僕の会社の共創事業(企業同士で新しい事業を一緒に作る取り組み)として、単身者向けの賃貸物件を管理する会社の、入居者向けアプリを立ち上げました。この共創事業で、僕の会社は入居者向けアプリを開発する役割です。MVP(最小限の機能だけを先に作って現場に出す開発方法)で進めました。その管理会社が預かっている部屋は800戸ほど。住んでいるのは学生と単身赴任の方が中心です。

入居者からの連絡は、内容がばらけます。たとえば次のようなものです。「エアコンが効かないので見てほしい」「更新の書類はいつ届くのか」「上の階の足音が夜うるさい」。設備の話と、契約の話と、近隣の話が、1通の中に混ざって届きます。

この連絡を受けていたのは、管理会社の担当者2名です。届くのは1日に数十件、繁忙期はその倍。決まった文面で返せるものが多いのに、2名は毎回ゼロから返事を書いていました。

だから、この問い合わせ対応にAIを導入することにしました。作ったのは、入居者がアプリから送ってきた連絡に、AIがその場で返事を書く画面です。担当者を通さず、入居者の画面に直接答えが出ます。

この問い合わせ対応は、いちばん目立つ業務で、いちばん喜ばれるはずでした。

今日は、その選び方がなぜ外れたのか、という話をしていこうと思います。

前置きはさておき、本題に入ります。

① 教科書どおりに、入居者と話す画面にAIを導入した

「教科書どおりに、入居者と話す画面にAIを導入した」を図解したスライド|どの業務にAIを導入するかは、素直に教科書どおりに決めました

AIエージェントの導入の基本をすでにご存じの方は、② 半年後、書いていたのはAIではなく、画面とデータのつなぎ込みだったから読み進められます。

AIエージェントとは

AIエージェントとは、目的を伝えると、そこへ至る手順を自分で組み立てて、外部のツールを呼びながら実行するソフトウェアです。「調べる → 判断する → 操作する → 結果を確かめる」を、指示のたびに人が挟まらずに回します。

導入するときに押さえておきたいのは、AIエージェントは「答えを返す部品」ではなく「作業を終わらせる部品」だという点です。終わらせる以上、途中で触る対象——社内のデータ、既存の画面、承認の相手——が必ず出てきます。導入の作業量は、この「触る対象の数」で決まります。

生成AI・チャットボットとの違い

同じ言語モデルを使っていても、どこまでを本人にやらせるかが違います。

受け取るもの返すもの外部の操作
生成AI(チャット)質問文章しない
チャットボット質問決められた回答・遷移定義した範囲だけ
AIエージェント目的実行の結果自分で選んで呼ぶ

この違いは、導入の見積もりにそのまま出ます。生成AIは「渡す文章を決める」だけで動きますが、AIエージェントは「呼ばせるツールを1つずつ用意する」ところまでが導入の範囲です。

RPAとの違い

RPAは、人が決めた手順を、決めたとおりに繰り返します。AIエージェントは、手順そのものをその場で決めます。

手順想定外の入力向いている仕事
RPA人が事前に定義止まる毎回まったく同じ形で来る作業
AIエージェントその場で組み立てる解釈して進む(間違えたまま進むこともある形がばらつく作業

実務では、どちらか一方ではなく併用になります。形が決まっている部分はRPAや通常のプログラムに任せ、ばらつく部分だけAIエージェントに渡すのが、導入の失敗が少ない配り方です。

AIエージェントが動く仕組み(4つの部品)

製品によって呼び方は違いますが、中身はだいたい次の4つに分解できます。導入時に自社で用意するものが、この4つのどれに当たるかを先に見ます。

  • プランニング — 目的を、実行できる手順に割る。ほぼ製品側が持っている
  • メモリ — 途中経過と、過去のやり取りを覚える。保持期間の設定が要る
  • ツール(外部連携) — 検索・社内DB・メール・基幹システムを呼ぶ。ここが自社側の作業になる
  • 実行と検証 — 呼んだ結果を見て、次の手を決める。「何をもって成功とするか」を人が書く必要がある

4つのうち、買ってきて済むのは前の2つだけです。導入の期間と費用が読みにくくなるのは、ほぼ3つ目のツール連携が原因です。

AIエージェントの種類

用途で分けると、導入の入口はおおむね次の4つです。

  • タスク自動化型 — 申請・転記・スケジュール調整など、終わりがはっきりした作業を片付ける
  • 情報収集・要約型 — 調査、資料の下書き、商談前の企業調査
  • チャットボット・FAQ対応型 — 問い合わせの一次対応
  • コーディング支援型 — 実装、テスト、修正

学術的には、単純反射型・モデルベース反射型・目標志向型・効用志向型・学習型の5分類が使われます。導入の検討では、この5分類より上の4つの用途で見るほうが見積もりに直結します。用途が決まれば、つなぐ先が決まるからです。

AIエージェントの導入でできること

部署別に並べると、いま実際に置かれているのは次のあたりです。

  • 営業 — 見込み客の追客とスコアリング、商談準備と提案資料の下書き
  • カスタマーサポート — 一次対応の代行、応対品質の均一化、クレームの分類と蓄積
  • バックオフィス — 領収書の読み取りと経費精算、請求処理
  • 人事 — 応募者の一次スクリーニング、日程調整
  • マーケティング — 広告クリエイティブの量産、配信文面の作成
  • 社内問い合わせ — 規程・マニュアルの検索と回答
  • 経営企画 — 企業調査、競合のビジネスモデル整理

並べ方を1つ変えると、選びやすくなります。「どの部署か」ではなく「間違えたときに誰が気づくか」で並べてください。社内向けは同僚が気づきますが、顧客に直接返す用途は誰も気づきません。この差が、導入時に必要な作り込みの量を決めます。

導入のメリット1|時間帯に関係なく一次対応が返る

受付時間の外に届いた依頼にも、その場で反応が返ります。待たせないこと自体が、問い合わせの再送を減らします。

効果を測るなら、返した件数ではなく「翌営業日に持ち越した件数」で見てください。件数は導入直後に必ず増えますが、持ち越しが減っていなければ、人の作業は減っていません。

導入のメリット2|対応の品質がばらつかなくなる

担当者によって、返す内容も言い回しも変わっていたものが揃います。新しく入った人でも、同じ水準の一次回答を出せます。

そろえるためには、そろえる基準を文章にする作業が先に要ります。「うまい人の返し方」が誰の頭にも入っていない状態では、AIに渡す手本を作れません。ここは導入前の準備として見込んでおく項目です。

導入のメリット3|判断に使う材料が早く揃う

調査、集計、要約といった「決める前の準備」が短くなります。会議の前に材料が揃っている状態を作れます。

ただし早くなるのは材料集めであって、決めることではありません。決める人が決めない案件は、材料が10分で揃っても2週間止まります。導入の効果が出やすいのは、決める人が決まっている業務です。

導入のメリット4|定型作業から人の時間が空く

転記、仕分け、下書きといった作業が減り、そのぶんの時間が空きます。

空いた時間に何をしてもらうかを、導入前に決めておいてください。決めていないと、空いた時間は「AIの出力を確認する時間」に吸われます。確認は必要な仕事ですが、それだけで埋まると、導入前と工数が変わりません。

導入の注意点1|機密情報と個人情報の扱い

AIエージェントは、指示されればどこまででも取りに行きます。見せてよい範囲を、AI側の設定ではなく、アカウントの権限そのもので絞るのが確実です。

プロンプトに「見ないでください」と書く方式は、指示が長くなるほど守られなくなります。読めないものは読めない、という状態を先に作ってください。

導入の注意点2|間違いを、間違いの形で返さない

AIエージェントは、根拠が無いときも同じ調子で答えます。文面だけを見ても、合っているものと外れているものが区別できません。

対策は精度を上げることではなく、確かめられる形で返させることです。出典の提示、確信度の併記、判断がつかないときに人へ回す経路。この3つを導入時の要件に入れておくと、後から足すより安く済みます。

導入の注意点3|把握できない利用(シャドーAI)が増える

正式に配ったものが使いにくいと、各自が自分でツールを使い始めます。禁止を増やすほど、見えない利用が増えます。

先に、使ってよい経路を1つ用意して、そこを通れば速い状態を作るほうが効きます。禁止事項の整備は、その経路ができてからで間に合います。

導入の注意点4|上限に当たると業務が止まる

無料枠、実行回数、トークンの上限。止まったときに誰がどう気づくかを、導入前に決めておいてください。

一次対応をAIエージェントに寄せるほど、止まった影響は大きくなります。止まったら人の一覧に戻る、という退避先を最初から用意しておくのが実務的です。

導入の注意点5|人とAIの役割分担を文章にする

どこまでをAIが決めてよく、どこからが人の承認かを決めます。金額、社外への送信、契約に関わる回答。この3つは境目になりやすい項目です。

役割分担は、組織図ではなく画面の上で決めてください。「この画面のこのボタンから先は人」と書けていれば守られますが、規程に文章で書いただけでは、運用が始まると読まれません。

AIエージェントを導入する業務の選び方

候補が複数あるときは、次の5つで絞ります。

  • 入力の形がある程度そろっているか — そろっていないほど作り込みが要る
  • 間違えたときに誰かが気づくか — 気づける業務から始めるほうが安全
  • 正解が後から確認できるか — 確認できないと改善が回らない
  • つなぐ先のシステムが何本あるか — 本数がそのまま期間になる
  • その業務の担当者が、質問にその日のうちに答えられるか

いちばん目立つ業務から選ばないでください。目立つ業務はすでに人が回していて、例外の処理が積み上がっています。この記事の後半は、そこの話です。

AIエージェント(ツール)の選び方

製品を比べるときの観点は、次の5つに整理できます。

観点見るところ
解きたい業務との適合用途別の4型のどれに寄せた製品か
ノーコード対応と日本語現場が自分で直せるか。設定画面と資料が日本語か
外部ツール連携既存の基幹システムに繋がるか。ここが最も費用に効く
セキュリティとデータの扱い学習利用の有無、保存先の国、権限の粒度
上限と拡張性無料枠・実行回数の上限と、有料へ移したときの段差

比較表の機能欄はほとんど差が出ません。差が出るのは3つ目です。カタログに載っている連携先の数ではなく、自社がいま使っているシステムの名前が入っているかで見てください。

導入にかかる費用の考え方

料金は、次の4つの組み合わせで決まります。

  • 席数(ユーザー数) — 使う人が増えると増える
  • 実行回数 — 動かした回数で増える
  • トークン(処理量) — 扱う文章の量で増える
  • 構築費 — 連携とワークフローを作る一度きりの費用

見落とされるのは、ライセンス以外の継続費用です。連携先の維持、権限の棚卸し、出力を確認する人の時間、モデルを入れ替えたときの再調整。月額の比較だけで決めると、2年目に差が出ます。

投資対効果(ROI)の測り方

削減できた作業時間から、増えた作業時間を引いてください。増えた作業とは、出力の確認、例外の処理、AIに渡す前の下ごしらえです。

もう1つ、測る単位を先に決めます。「問い合わせ1件あたり何分」なのか「1日あたり何件処理できたか」なのか。単位が決まっていないと、導入前と導入後を比べられません。導入前の数字を取っていないと、比較そのものが成立しなくなります。

AIエージェントの導入の進め方(6ステップ)

やること終わったと言える状態
1. 目的を1つに決めるコスト削減か、対応速度か、品質の均一化か優先順位が1つに絞れている
2. 業務を1つ選ぶ上の5つの基準で絞る対象の業務が名指しできる
3. データと権限を整える参照させる資料、見せない資料、アカウントの権限読めるものと読めないものが、権限で分かれている
4. 小さく作って現場に出す一部の担当者・一部の種類だけで動かす実際の入力で動いている
5. 役割分担と例外の経路を決める人へ回す条件、止まったときの退避先画面の上で境目が引けている
6. 広げる対象の種類と人数を増やす増やしても確認の量が線形に増えない

3を飛ばして4に行くと、あとで全部やり直しになります。権限を後から絞ると、動いていた処理が動かなくなり、「なぜ動かないか」の調査からやり直すことになるためです。

導入にかかる期間の目安と、社内に定着させるコツ

期間を左右するのは、モデルの選定ではなくつなぐ先の本数と、社内で決裁が回る速さです。1本のシステムに繋いで一部門で使う形なら数週間、複数の基幹システムをまたぐ形なら、その何倍かを見ます。

定着させるコツは2つです。現場が「いま困っていること」に直接当てることと、使う場所を、いまの業務の導線から外さないこと。新しい画面を1つ増やすより、すでに毎日開いている画面の中に置くほうが使われます。

AIエージェントの導入に関するよくある質問

Q. AIエージェントの導入は、どの業務から始めるのが良いですか。
入力の形がそろっていて、間違いに誰かが気づける業務からです。社内向けの業務が最初の候補になりやすいのは、この2つを満たしやすいからです。

Q. AIエージェントとRPAは、どちらを選べばよいですか。
毎回同じ形で来る作業はRPA、形がばらつく作業はAIエージェントです。1つの業務の中で両方が混ざっているのが普通なので、工程ごとに分けて考えてください。

Q. プログラミングの知識がなくても導入できますか。
設定だけで動く製品は増えています。ただし既存の社内システムに繋ぐ工程は、ノーコードの製品でも技術者の手が要ります。

Q. 導入にはどのくらいの期間がかかりますか。
つなぐ先の本数で決まります。「AIの精度を上げる期間」より「連携と権限を整える期間」のほうが長くなるのが普通です。

Q. AIエージェントを入れると、人の仕事は無くなりますか。
無くなるのは作業の一部で、代わりに「AIが出したものを確かめる仕事」と「例外を処理する仕事」が増えます。この増えるぶんを誰が持つかを決めておかないと、効果が出ません。

Q. 複数のAIエージェントを組み合わせて使えますか。
使えます。ただし組み合わせるほど、どこで間違えたかが追いにくくなります。1本ずつ動くことを確かめてから繋いでください。

どの業務にAIを導入するかは、素直に教科書どおりに決めました。

教科書に載っている、AIを導入する先の選び方は3つあります。手間が減ったと数字で言えるところ。お客さんが直接触るところ。毎日必ず発生していて、止まると誰かが困るところ。この3つで絞ると、候補は入居者アプリのやり取り画面しか残りませんでした。管理会社の担当者2名に聞いても同じで、「まず問い合わせですよね」と即答されています。

その画面が最初に動いたのは、作りはじめてから3週間後です。

試しに「エアコンが効かない」と打ってみます。返ってきたのは、「設置から8年経っているので、まずフィルターの状態を確認させてください。修理の手配を依頼しますか」という文面と、その下に押せるボタンが1つ。押すと、管理会社の担当者が見る一覧に、修理の申請が1件並びます。

動いた画面を担当者2名に見せたときの反応は、いま思うと少し出来すぎでした。1人は「これ、いつから使えますか」と聞いてきています。もう1人は、自分の受け持ちの物件でよく来る質問を、その場で3件打ち込んで試していました。3件とも、それらしい答えが返っています。

この段階では、失敗した感覚はまったくありませんでした。

ここまでが、AIエージェントを導入するときの教科書どおりの整理です。目的を1つに決め、業務を選び、権限を整え、小さく出す。手順としては、これで間違っていません。

この記事の後半で扱うのは、この手順どおりに選んで導入した1件で、半年のあいだ時間がどこへ流れたかです。選び方の基準そのものに、書かれていない項目がありました。

② 半年後、書いていたのはAIではなく、画面とデータのつなぎ込みだった

「半年後、書いていたのはAIではなく、画面とデータのつなぎ込みだった」を図解したスライド|ところが、入居者と話す画面を作り込んでいるうちに、様子がおかしくなってきました

ところが、入居者と話す画面を作り込んでいるうちに、様子がおかしくなってきました。

画面が動きはじめてからの数か月、僕がやっていたのは2種類の作業だけでした。AIの答えを画面にどう並べるかの調整と、入居者との過去のやり取りをどう保存するかの検討です。AIに情報を送る処理そのものは、最初の数日で書き終わっていました。

ここでいうデータのつなぎ込みとは、別々のシステムから必要な情報を取り込めるようにする作業です。画面の調整とデータのつなぎ込みに作業が集中する理由は、入居者に答えるために何が要るかを並べると分かります。「エアコンが効かない」に答えるには、その部屋の設備がいつ入ったか、前回いつ直したか、いま業者がどこまで空いているかが要ります。「更新の書類は」に答えるには、契約の更新日と、その物件のオーナーの意向が要ります。

AIは、賢いだけでは一言も答えられません。 手元にデータが無いからです。

半年で書いたプログラムを、コード(プログラムを動かすために書いた命令文)の行数で数え直しました。

何を書いていたか
入居者と話す画面603行
外のシステムへデータを取りに行く処理(全部ぶん)173行

入居者と話す画面のコードは、外のシステムへデータを取りに行く処理のコードの3倍以上あります。その173行がつなぎに行く先は5つあって、AIはそのうちの1つでした。残りの4つは、空室と契約の状況、修繕の履歴、更新日、退去時の精算規定を持っているシステムです。

つまり、半年のほとんどを、AIではなく、画面づくりとデータのつなぎ込みに使っていたことになります。

③ 気づいたのは、画面に残った後始末の処理を見たときでした

「気づいたのは、画面に残った後始末の処理を見たときでした」を図解したスライド|行数の差だけなら、まだ「そういうものか」で済んだかもしれません

行数の差だけなら、まだ「そういうものか」で済んだかもしれません。

引っかかったのは、画面のコードに残っていた後始末の処理です。画面が最初に出すあいさつ文まで、入居者とのやり取りとして保存してしまい、表示のときにだけ除外する、という処理が入っていました。保存してしまったぶんは、もう取り除けません。だから、表示のたびに除外し続けるしかありませんでした。

後始末の処理は、もう1件ありました。古いやり取りから続きを始めようとすると、AIが以前の状況を思い出せません。仕方がないので、古いやり取りを開いたときは「新しく始めてください」と案内する分岐(条件に応じて処理を変える仕組み)を足していました。

この2つの後始末は、どちらもAIの賢さとは関係のない話です。データの持ち方を先に決めなかったために生じた不具合でした。

この2件を直している時間のほうが、AIの答えを良くする時間より長くなっていました。ここで初めて、AIを導入する業務の選び方が悪かったのではないか、と思いはじめました。

④ 原因を1件に絞る

「原因を1件に絞る」を図解したスライド|AIを導入する業務の選び方を間違えた理由として、思い当たることはいくつもあります

AIを導入する業務の選び方を間違えた理由として、思い当たることはいくつもあります。設計が甘かったこと、作る順番を間違えたこと、担当者を巻き込むのが遅かったこと。

ただ、原因を絞ると1件でした。

いちばん目立つ業務にAIを導入したこと。

目立つ業務は、すでに人が回している業務です。回っているなら、例外の処理は人の頭の中に溜まっています。たとえば次のようなものです。「この物件のオーナーのときだけ言い方を変える」「長く住んでいる方には、対応できる日を先に書く」。そういうものが、明文化されないまま動いています。

その業務にAIを導入すると、AIを賢くする前に、溜まった例外を全部コードに書き出す作業が発生します。画面のほうに603行も要ったのは、そのぶんでした。

なお、公表されている他社事例には、問い合わせ対応への導入が成功しているものもあります。分かれ目は例外の在りかです。例外の少ない定型ヘルプの範囲を線引きし、人の承認を残して任せる形は成立します。失敗するのは、例外が担当者の頭の中に溜まったまま回っている業務へ、いきなり入れたときです。

⑤ 直したのは1箇所だけ

「直したのは1箇所だけ」を図解したスライド|やったことは、AIを導入する業務を管理会社の担当者向けの仕分けに変えることだけです

やったことは、AIを導入する業務を管理会社の担当者向けの仕分けに変えることだけです。

入居者に答えるのをやめて、届いた連絡を仕分けて、担当者向けに要点を3行にまとめる(要約)ところに移しました。設備の話か、契約の話か、近隣の話か。混ざっている場合はどれが主か。それだけです。

入居者に答えるのは、これまでどおり人がやります。

問い合わせの仕分けで書いたコードは、192行で収まりました。画面はありません。担当者は、いつも見ている受信箱を開くだけです。

⑥ あとで知った ── 呼び分けに名前がありました

「あとで知った ── 呼び分けに名前がありました」を図解したスライド|しばらくして、対話AI(文章でやり取りできるAI)のClaudeを作っている Anthropic が…

しばらくして、対話AI(文章でやり取りできるAI)のClaudeを作っている Anthropic が出した、エージェント設計の文書を読み、手が止まりました。

そこでは、AIに仕事をさせる作りが、2つに呼び分けられていました。手順があらかじめ決まっていて、その道筋をコードで並べたものは「ワークフロー」AIが自分で次の一手を決め、道具の使い方まで自分で選ぶものが「エージェント」

エージェントが向くのは、何手かかるか読めない問題だと書かれています。原文は「open-ended problems where it’s difficult or impossible to predict the required number of steps」です。

問い合わせの仕分けは、何手かかるか読めない問題ではありませんでした。読んで、分けて、まとめる。手数は最初から決まっています。

さらに、いちばん簡単なやり方をまず探し、必要になったときだけ複雑にしていく、とも書いてありました。原文は「finding the simplest solution possible, and only increasing complexity when needed」です。その文書には、エージェントを作らないという結論もありうる、とはっきり書いてあります。原文は「This might mean not building agentic systems at all」。

Anthropicの文書を読みながら、最初に選んだ入居者と話す画面のことを考えていました。入居者への問い合わせ対応も、返事を書くまでの手数は決まっています。それなのに、AIが自分で考えて答える形で作っていました。AIを導入する業務の選定を誤ると、その業務に合わない作り方まで選んでしまいます。

新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。

⑦ 変えてみて、何が良くなって、何を失ったか

「変えてみて、何が良くなって、何を失ったか」を図解したスライド|問い合わせの仕分けにAIを導入してから、担当者の手元で変わったことがあります

問い合わせの仕分けにAIを導入してから、担当者の手元で変わったことがあります。

1件あたりの返信にかかる時間が、短くなりました。読む前に要点が3行ある状態と、ゼロから読む状態は、別物です。担当者2名のうち1名は、まとめた3行だけを見て、返信は最初から自分の言葉で書いています。 それでも、その担当者が1件に使う時間は減っています。

ただ、代償があります。3件書いておきます。

1件目。「AIを導入した」と言いづらくなりました。 画面がないので、見せられるものがありません。役員に説明するときに、実物を出せないのは地味に効きます。

2件目。間違いに気づきにくくなりました。 入居者に直接出していれば、変な答えはすぐ苦情になります。裏で仕分けているだけだと、間違った分類が静かに混ざります。だから月に一度、分類の結果を人が抜き取って見る手順を足しました。

3件目。元の画面を捨てました。 画面の603行はほぼ捨て、使い回せたのは、別に数えていた通信処理の173行だけです。半年ぶんの手を、ほぼそのまま捨てています。先に、入居者に答える業務ではなく、届いた連絡を仕分ける業務から始めていれば、払わずに済んだ代償でした。

⑧ 現場で選ぶなら、この3つの問い

「現場で選ぶなら、この3つの問い」を図解したスライド|どの業務にAIを導入するかを決めるとき、この共創事業で使っている問いはこれだけです

どの業務にAIを導入するかを決めるとき、この共創事業で使っている問いはこれだけです。

1. 手数が読めるか。何段階で終わるか言えるなら、AIに任せず、手順をコードで並べます。読めないときが、エージェントの出番です。

2. 人が既に回しているか。回しているなら、後回しにします。例外が人の頭の中に溜まっているからです。誰もやっていない業務なら、先にAIを導入してかまいません。

3. 間違えたら誰かに届くか。届かないなら、人の確認を残します。届くなら、任せてよい。

3つのうち、いちばん効くのは真ん中です。人が既に回している業務にAIを導入すると、例外を書き出す作業が必ず先に来ます。 その作業量は、AIを導入する前には見えません。

逆に、誰もやっていない業務は狙い目です。届いた連絡の仕分けは、それまで誰もやっていませんでした。担当者は全部読んでから判断していたので、「読む前に分ける」という工程はそもそも存在しませんでした。存在しない工程には、溜まった例外もありません。

この見方は、扱っているものには依存しません。部屋でも、部品でも、予約でも同じです。

⑨ この選び方が効き続ける理由

「この選び方が効き続ける理由」を図解したスライド|AIモデル(回答や判断の土台となる仕組み)が賢くなっても、まだ誰もやっていない工程から先にAIを導入…

AIモデル(回答や判断の土台となる仕組み)が賢くなっても、まだ誰もやっていない工程から先にAIを導入する順番は変わらないと考えています。

賢さで解けるのは、判断の部分だけだからです。例外がどこにあるかを聞き出す作業も、データの持ち方を決める作業も、賢さでは短くなりません。担当者2名の頭の中にあったものは、人から出すしかありませんでした。

一方で、誰もやっていなかった工程には、頭の中に例外を溜めている人がいません。だから、AIが賢くなるほど、「まだ誰もやっていない工程」で先に導入効果が出ます

AIを導入する業務と作り方の設計を、実際の業務に当てはめる話は、AIエージェント開発のページに整理しています。どこからAIを導入するか決めかねている工程があれば、こちらからご相談ください。

部屋のほうは、いまも床から始めています。引き出しを先にやるべきだとは分かっているのですが、床のほうが、進んだ感じがするので。

以上です。

▶ この記事のテーマを実務で相談する: AIエージェント開発

AIエージェントの導入 よくある質問

AIエージェントの導入は、どの業務から始めるのがよいですか?

入力の形がある程度そろっていて、間違えたときに誰かが気づける業務からです。あわせて、正解が後から確認できるか、つなぐ先のシステムが何本あるか、担当者が質問にその日のうちに答えられるかを見ます。社内向けの業務が最初の候補になりやすいのは、この条件を満たしやすいためです。いちばん目立つ業務は、すでに人が回していて例外が積み上がっているぶん、後回しにするほうが安全です。

AIエージェントとRPAは、どちらを選べばよいですか?

毎回まったく同じ形で来る作業はRPA、形がばらつく作業はAIエージェントです。RPAは人が定義した手順どおりに動き、想定外の入力が来ると止まります。AIエージェントは手順をその場で組み立てるので進みますが、間違えたまま進むこともあります。実務では1つの業務の中に両方が混ざっているので、工程ごとに分けて割り当ててください。

AIエージェントの導入には、どのくらいの期間がかかりますか?

期間を決めるのは、モデルの選定ではなく、つなぐ先のシステムの本数と社内で決裁が回る速さです。1本に繋いで一部門で使う形なら数週間、複数の基幹システムをまたぐならその何倍かを見ます。実務では「AIの精度を上げる期間」より「連携と権限を整える期間」のほうが長くなるのが普通です。

AIエージェントの導入費用は、どのように決まりますか?

席数(ユーザー数)、実行回数、処理量(トークン)、そして構築費の4つの組み合わせで決まります。見落とされやすいのはライセンス以外の継続費用で、連携先の維持、権限の棚卸し、出力を確認する人の時間、モデルを入れ替えたときの再調整が乗ります。月額だけで比較すると2年目に差が出ます。

プログラミングの知識がなくてもAIエージェントを導入できますか?

設定だけで動く製品は増えており、ワークフローを組むところまでは現場でも扱えます。ただし既存の社内システムに繋ぐ工程は、ノーコードの製品でも技術者の手が要ります。導入の作業量は「触る対象の数」で決まるので、繋ぐ先が何本あるかを先に数えてください。

AIエージェントはどの業務に導入すべきですか?

人が既に回している業務は後回しにし、まだ誰もやっていない工程から検討します。既存業務には、担当者の頭の中に明文化されていない例外が溜まっているためです。誰もやっていない工程には、そのような例外の蓄積がありません。あわせて、手数が読めるか、間違えた結果が誰かに届くかを確認します。

入居者向けの問い合わせ対応へのAI導入は、なぜ失敗したのですか?

いちばん目立つ、既に人が回している業務を選んだからです。物件ごとの言い方や入居者への対応など、担当者の頭の中にある例外をコードへ書き出す必要が生じました。AIに投げる処理自体は最初の数日で書き終わり、その後の作業は画面とデータ側に寄りました。AIの答えを良くするより、データの持ち方から生じた後始末に長い時間を使う状態になりました。

AIエージェント導入では、AI以外にどのような開発が必要ですか?

この事例では、入居者と話す画面が603行、外部システムからデータを取る処理が173行になりました。接続先は5つあり、AIはそのうちの1つだけでした。残りは空室と契約の状況、修繕履歴、更新日、退去時の精算規定を持つシステムです。半年のほとんどを、画面づくりとデータのつなぎ込みに使いました。

AIエージェントとワークフローはどう違いますか?

手順があらかじめ決まり、その道筋をコードで並べたものがワークフローです。AIが自分で次の一手を決め、道具の使い方まで選ぶものがエージェントです。エージェントは、必要な手数を予測するのが難しい問題に向きます。問い合わせの仕分けのように、読んで、分けて、まとめると手数が決まっている仕事では、まず簡単な方法を選びます。

問い合わせ対応のAIを裏側へ移して、何が変わりましたか?

AIが入居者へ直接答えるのをやめ、届いた連絡を仕分けて担当者向けに要点を3行でまとめる形に変えました。コードは192行に収まり、新しい画面も不要で、担当者は普段の受信箱を使えました。入居者への返信は人が担当し続けました。要点を読んでから返信できるため、1件あたりにかかる時間も短くなりました。

AIを利用者から見えない場所へ移すデメリットは何ですか?

画面がないため、役員へ実物を見せにくくなり、「AIを導入した」と説明しづらくなります。また、裏側の仕分けでは誤分類が静かに混ざり、間違いに気づきにくくなります。この事例では、月に一度、人が分類結果を抜き取って確認する手順を加えました。さらに、元の画面603行のうち使い回せたのは通信まわりだけで、半年分の作業の大半を捨てることになりました。

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