ユーザのニーズ(インサイト)を探る【後編】

顧客インサイトとは?見つけ方5ステップ・分析の視点と事例【後編】

顧客インサイトとは、購買行動の裏にある、顧客自身も無自覚な本音への洞察のことです。この記事では、顧客インサイトの意味とニーズ・ウォンツとの違い、重要視される理由、見つけ方の5ステップ、収集方法6つ、分析の視点、注意点、有名事例までをまとめて解説します。後半では、インサイトに到達するための調査を設計する実務(根源的アプローチ)へ踏み込みます。

顧客インサイトとは

顧客インサイトとは、購買行動を実際に動かしているのに、顧客自身が自覚も言語化もしていない心理への洞察です。「洞察」という訳語のとおり、データや発言そのものではなく、それらを貫いて「だからこの行動になるのか」と説明できる気づきを指します。

ニーズとの違い

ニーズは「満たしたい状態」であり、顕在ニーズなら顧客自身が言葉にできます。インサイトはその欲求を生んでいる無自覚の深層心理で、顧客に聞いても直接は返ってきません。潜在ニーズを掘り続けた先に見つかるのがインサイトです(潜在ニーズの基礎は前編で解説しています)。

ウォンツとの違い

ウォンツは「具体的な手段への欲求」(あの商品が欲しい)です。ウォンツ→ニーズ→インサイトの順に深くなり、深い層ほど安定していて、競合に真似されにくい打ち手の源泉になります。

探索の具体例

動画配信サービスで考えてみます。表面の行動は「毎晩ドラマを観る」。ニーズは「面白い作品を観たい」。しかし観察すると、作品を選ばずに「とりあえず再生して寝落ちする」利用が多いと分かる。ここから「観たいのではなく、一日の緊張を解いて眠りに入る儀式が欲しい」というインサイト仮説が立ちます。仮説が正しければ、打ち手は「作品数の訴求」ではなく「睡眠導入に最適化された再生体験」に変わります。

顧客インサイトが重要視される理由・メリット

第一に、差別化です。機能や価格で競合と差をつけることが難しい成熟市場では、顧客理解の深さだけが競争優位性になります。第二に、新しい需要の創出です。誰も言葉にしていない欲求に応える商品は、既存市場の奪い合いではなくイノベーションの起点になります。第三に、プロダクトの質と顧客満足度の向上。第四に、ターゲットを深く理解することでマーケティング施策の精度が上がり、届く言葉を選べるようになることです。

顧客インサイトの見つけ方5ステップ

Step1. データを収集する

定性データ(インタビュー、観察記録、SNSの声)と定量データ(アンケート、行動ログ、購買履歴)の両方を揃えます。どちらか一方では、発見か検証のどちらかが欠けます。

Step2. データを分析する

定量で「何が起きているか」を特定し、定性で「なぜ起きるか」を掘ります。定量的データと定性的データを相互に行き来する分析が基本です。

Step3. インサイトを発掘する

分析結果から、行動を説明する仮説を言語化します。後述する「分析の視点」を使うと、データの羅列から洞察へ進みやすくなります。

Step4. インサイトを検証する

見つけたインサイトは、この時点ではまだ仮説です。コピーやコンセプト、プロトタイプに落として顧客の反応を見るまで、投資判断の根拠にはしません。

Step5. 企業活動に活用する

検証済みのインサイトを、商品・サービスの改善、セグメント別の顧客アプローチ、コミュニケーション設計に展開します。

顧客インサイトの収集方法6つ

①インタビュー・アンケート:1対1のデプスインタビューが発掘の主力。アンケートは検証用。②行動観察調査:本人が説明できない行動のクセを現場で見る。③ソーシャルリスニング:SNSや口コミ・レビューの、誰にも聞かれていない本音を分析する。④投影法:絵や比喩に託して、直接は語られない感情を引き出す。⑤MROC:オンライン上の調査専用コミュニティで、時間をかけて生活文脈ごと理解する。⑥問い合わせ内容・VoC:サポートへの問い合わせやFAQの検索ログは、既に手元にあるインサイトの鉱脈です。

インサイトを発掘する分析の視点

データを眺めるだけでは洞察は生まれません。使える視点は5つあります。①普遍的な人間欲求から探る(承認、安心、所属など、行動の根にある欲求は何か)。②目的と手段から探る(顧客が手段を目的のように語っていないか)。③原因と現象から探る(見えている行動は何の結果か)。④ポジティブとネガティブから探る(好意と不満の裏に共通する期待は何か)。⑤矛盾から探る(言っていることとやっていることのズレこそ、インサイトの在り処)。
補助線として、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、共感マップといったフレームワークで「どの場面の、誰の感情か」を特定してから掘ると、視点が定まります。

見つける際の注意点

①インサイトは一見わかりにくいものです。すぐに「それらしい結論」が出たときほど疑い、根気強く掘ります。②リサーチの目的からズレていないか、一貫性を吟味します。面白い発見が、意思決定に使えるとは限りません。③思い込みで解釈しないこと。分析者の仮説に都合のよいデータだけを拾う罠は、定量データとの突き合わせで防ぎます。④言語化するときは顧客が受ける印象に配慮します。インサイトは本人が認めたくない心理を含むため、そのまま広告コピーにすると反発を招きます。⑤インサイトは劣化します。市場と生活が変われば心理も変わるため、定期的なアップデートが必要です。

顧客インサイトの有名事例

AppleのiPodは「1,000曲をポケットに」という、スペックではなく欲求の言語化で市場を作りました。日清食品のカップヌードルリッチは「シニアはカップ麺を卒業する」という思い込みの逆、「年を重ねても好きなものを食べたい」という心理を捉えた例です。大戸屋が女性客の「定食屋に一人で入るのは恥ずかしいが、健康的な食事はしたい」という葛藤を店舗設計で解いた話も、矛盾からインサイトを掘った好例としてよく引かれます。いずれも共通するのは、顧客の発言ではなく行動と葛藤の観察から出発している点です。


ここまでが、顧客インサイトの教科書的な整理です。ここから先は連載の後編として、インサイトに到達するための調査そのものをどう設計するか——想定顧客に内存する共通の価値観を探る「根源的アプローチ」の手順と2つの課題を扱います。

「ユーザのニーズを探るアプローチ」として前回は、
①統計的アプローチ|アンケート等を用いて多数の意見を収集し、統計することで市場の動向を探る方法についてお話ししました。今回はもう一つの方法、
②根源的アプローチ|想定顧客を調査/理解/分析することにより、想定顧客に内存する共通の価値観を探るについてのお話しです。

②根源的アプローチ
 想定顧客を調査/理解/分析することにより、想定顧客に内存する共通の価値観を探る

この方法でユーザのニーズを探るために用いられる代表的手法は「フィールド調査」「ワークショプ」「デプスインタビュー」等があります。

手法は様々ありますが、習慣、文化的背景により共通の価値観が形成されるという前提のもと、その共通の価値観を調査し、分析することで市場の動向を探るといったプロセスとなります。
共通の価値観を抽出するにあたり、必要な試験対象者数は経験的に8〜12人とされています。
(心脳マーケティングの分野で知られるジェラルド・ザルトマン氏を始め、多くの専門家は、デプスインタビューを行う場合、対象者は経験的に10名程度いれば十分であると述べている。このような経験的数値、及び数式は、統計的アプローチ、経験的アプローチの両アプローチに含まれます。)

よって①の統計的アプローチの方法に対して少数の標本数に対する調査を実施する事となり、実施時の調査対象者の確保という課題が軽減されます。
また調査対象に対する理解度が深く、顕在化されていない要求事項を抽出する機会を広げる事ができ、さらにアンケート調査には現れない、言語化しづらい小さな感情の変化を観察する機会があります。
そして、対話/問答を通じて行動のきっかけとなる詳細な思考の経緯をたどることができるといった特徴も有ります。

②の根源的アプローチにおける詳細な手法は次回以降の記事で紹介し 、ここでは調査を計画(設計)する際の私達が実施しているプロセスを説明します。

  1. 調査対象、調査により得たい内容を定義する
    (誰をどのような条件下で調査するか/調査した結果、調査対象に共通の価値観を得たい)
  2. 調査により得たい項目までの過程をモデル化する
  3. 調査の実施
    (フィールド調査、ワークショプ、デプスインタビュー等を用いて調査を実施する)
  4. 解析/分析

このアプローチに対しては課題が2つ存在します。

課題1 調査対象の定義に対する正確さ

①の統計的アプローチでは予め標本の中に誤差が含まれる事を前提とし、また、標本数が多数であるため、調査対象者に対する許容性が確保されています。しかし、②の根源的アプローチにおいては調査対象者一人の調査結果が、全調査結果において占める割合が大きくなるため、慎重に調査対象者を定義しなくてはなりません。
対象者の基本属性(年齢、職業、生活様式、家族構成等)だけでなく、質的要因(趣味/嗜好、考え方、性格)も結果に影響を与えるために考慮に入れる必要があります。

調査対象者が想定顧客と違う共通の価値観を持っていた(誤差要因を含んだ)場合、調査/分析におきな矛盾を含む危険性があります。

課題2 汎用的なアプリケーションを想定し調査対象者をあまり限定しない場合、抽出される共通の価値観は顕在化したものが多い。

例えば、「OLのランチに対するニーズ」の調査を実施した場合、OLの〝性別、(年齢)、職業、生活様式〟がある程度限定された条件で、調査対象者を設定し調査を行った結果、「同僚とおしゃべりをしながら片手間で、且つオシャレな姿勢で美味しく食べたい」という共通の価値観を抽出したと仮定します。

ここでOLだけではなく、会社員全体を想定顧客とし同様の調査を実施した場合、会社員に共通して内存する共通の価値観はOLという限定条件をなくすために一般化し、抽出される共通の価値観自体も、これに伴い一般化されます。

「同僚とおしゃべりをしながら片手間でかつおしゃれな姿勢で美味しく食べたい」という価値観の中で、例えば「おしゃれな姿勢」や、「同僚とのおしゃべり」に魅力を感じないセグメントに対しても共通する価値観へと一般化していくため、「美味しいものを食べたい」といったごく当たり前の価値観へと一般化されやすい可能性があるのです。

これは調査結果として正しい結果を得たとしても、自明なため無意味な調査です。

顕在的なニーズの抽出が目的であれば、詳細な調査を実施する必要性がありません。 また統計的アプローチに対して調査で生じる誤差の影響度が高いという危険性を含みます。

このように調査対象を限定せずに調査を実施する場合、より深く緻密な調査が求められるため観測者/調査者の熟練度、理解/判断力に対する依存度が高くなると考えられます。

①、②のどちらの方法を用いるにしても、確実な手法はありません。

私達はプロジェクトの前提条件により下記の図に従いアプローチを行っております。

img

重要なことは 「調査における十分な計画」と、「各調査工程で目的に対して適切な手法を設計/選択する」こと、「調査方法に潜む危険性を把握し分析する」ことではないかと私は思います。

よくある質問

顧客インサイトとは何ですか?

購買行動を実際に動かしているのに、顧客自身が自覚も言語化もしていない心理への洞察です。データや発言そのものではなく、それらを貫いて「だからこの行動になるのか」と説明できる気づきを指します。

顧客インサイトとニーズの違いは何ですか?

ニーズは満たしたい状態で、顕在ニーズなら顧客自身が言葉にできます。インサイトはその欲求を生んでいる無自覚の深層心理で、顧客に聞いても直接は返ってきません。潜在ニーズを掘り続けた先に見つかります。

顧客インサイトはどうやって見つけますか?

データ収集、分析、発掘、検証、活用の5ステップで進めます。収集はデプスインタビュー・行動観察・ソーシャルリスニング・投影法・MROC・問い合わせ内容の6つが代表的で、定量と定性を相互に行き来して分析します。

インサイト分析にはどんな視点がありますか?

普遍的な人間欲求、目的と手段、原因と現象、ポジティブとネガティブ、矛盾の5つの視点が使えます。特に、言っていることとやっていることのズレ(矛盾)はインサイトの在り処になりやすい箇所です。

顧客インサイトの有名な事例はありますか?

AppleのiPod(1,000曲をポケットに)、日清食品のカップヌードルリッチ(年を重ねても好きなものを食べたい)、大戸屋の店舗設計(一人で入るのは恥ずかしいが健康的な食事はしたい)などが知られています。

見つけたインサイトはすぐ施策に使えますか?

使えません。見つけた時点のインサイトは仮説です。コピーやコンセプト、プロトタイプに落として顧客の反応を確かめてから、商品改善やセグメント別アプローチなどの施策に展開します。

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