先日、僕の会社に建築設計の相談が来ました。僕らはソフトウェアの会社で、建物を設計したことは一度もありません。少し前にはパッケージデザインの相談も来ました。これもやったことがありません。なぜそうなるのかを辿っていくと、他社の「UI/UXデザイン会社まとめ」記事での紹介のされ方に行き着きました。紹介されるのはありがたいのですが、書いてある内容が、こちらの実態と噛み合っていませんでした。
そこで思ったわけです。人の紹介文が当てにならないなら、各社が自分で書いた言葉を機械で読めばいいのではないかと。
前置きはさておき、本題に入ります。今日は、UI/UXデザイン会社と呼ばれる18社のサイトから、サービス紹介・ソリューション・作品/事例・記事あわせて約44万字を集めて語彙を解析し、この業界を3つに分けます。UXデザイン専業、開発・技術系、事業・戦略。同じ「UI/UXデザイン会社」の看板の下に、実際には3つの別の商売があります。どの棚を見るべきかが分かれば、会社選びの失敗は大きく減ります。
母集団はまとめ記事の掲載20社から取りましたが、主業がデザインの提供ではない会社が2社混ざっていたため、最初から外しました。UXデザイン会社の括りに入れることに無理があるからです(除外の考え方は方法の節に書きます)。残る18社のうち、機械で読めるテキストが取れた15社を解析しました。
15社は、3つの業界に分かれる
各社の言葉を5つの方向——UX・UIデザイン系、事業・戦略系、開発・技術系、AI・データ系、ブランド・表現系——に分類して構成比にし、構成比の最大値で機械的に仕分けたのがこの図です。
| 分類 | 社数 | 会社 |
|---|---|---|
| UXデザイン専業 | 8社 | ポップインサイト、THE GUILD、アジケ、日本テレビアート、フォーデジット、セブンデックス、グッドパッチ、コンセント |
| 開発・技術系 | 6社 | フェンリル、ジークス、LIG、アイスリーデザイン、メンバーズ、ニジボックス |
| 事業・戦略 | 1社 | ARCHECO |
まとめ記事では横一列に並ぶ会社が、自分の言葉では3つの別の商売を語っています。冒頭で僕が「紹介文が当てにならない」と書いたのは、悪意の話ではなく、この構造の話です。「UI/UXデザイン会社」という棚札の下に、実際は3つの棚があります。
この3分類は、僕が線を引いたものではありません。クラスタ解析に任せても、同じ3つに分かれます。階層クラスタリング(平均連結法・コサイン距離)で樹形図を描いて3群で切ると、構成比の機械分類と1社もずれずに一致しました。ARCHECOは単独の枝です。
主成分分析で2次元に落としたマップでも、3つの領域がはっきり分かれます。ARCHECOの周りには、誰もいません。
どう解析したか(誰でも再現できます)
比較記事でいちばん怪しまれるのは「なぜその会社を選んだのか」と「なぜその分け方なのか」です。そこで、両方から人間の判断を抜きました。
- 母集団:「UIUXデザイン会社 おすすめ」「ui/uxデザイン会社 評判」で検索上位に出る主要まとめ記事の掲載社から取りました。僕が足した会社はありません(自社が最初から入っていたのは偶然です)
- 母集団の補正:まとめ記事には、主業がデザインの提供ではない会社も2社混ざっていました。「UI/UXデザイン会社の比較」という趣旨に合わないため、母集団から除きました。全社で解析した際の機械判定でも、この2社の主方向はデザイン以外で、判断と一致しています
- 集めた言葉:各社サイトのトップページに加えて、サービス紹介・ソリューション・作品/事例・記事の一覧にあたる同一ドメイン内のページを最大8枚、合計約44万字。採用ページとIRは方向性のノイズになるので外しました。Fixel、ルート、MEGANE DESIGNの3社は機械で読めるテキストがほとんど取れず、対象外です
- 分類:語彙を5方向のバケットで数え、1000語あたりの出現数と構成比に。「構成比の最大値」で3つの業界に仕分けました。判定は機械が行い、僕は結果に手を入れていません
- 感度検証:この仕分けが手法の選び方に依存していないかも確かめました。①5つのバケットを1つずつ外して再分類しても、残った軸に主方向を持つ会社の分類は1社も変わりません(ARCHECOはAIバケットを外しても主方向は事業・戦略のまま)。②クラスタ解析は、距離3種×連結法5種の標準的な15通りのうち9通りで、この3分類と完全一致します(本文の樹形図は平均連結法・コサイン距離。ward法のように群の大きさを揃えたがる方法では一致しません)。恣意で作れる一致ではありません
とはいえ、特別な道具は使っていません。ヘッドレスブラウザでの収集スクリプトと、統計処理のPythonだけです。同じ手順を踏めば、誰が測っても同じ仕分けになります。再現できない比較は、比較ではなく感想です。
ここから、3つの棚を順に見ていきます。各社の紹介に使うのは、解析のパラメータ構成と、各社が公式サイトに自分で書いているディスクリプション(自己紹介文)だけです。僕の感想文は書きません。
事業・戦略の棚:ARCHECO
まず、1社しか残らなかった棚から。僕の会社です。
- 公式サイト:archeco.co.jp
- 構成比:事業・戦略 32%|AI・データ 27%|UX・UIデザイン 21%|開発・技術 19%|ブランド 1%
- 公式サイトの自己紹介:「ARCHECOは新規事業コンサルティングと生成AI導入支援を軸に、AIエージェント開発・UX/UIデザインまで統合的に提供。戦略設計からプロダクト開発まで、ビジネス成果にコミットするデザインコンサルティングファーム」
事業・戦略の語彙は15社中央値の4.5倍、AI・データは4.4倍です。この構成には理由があります。ここ数年、僕らは受託開発を意図的に縮小してきました。決まった要件を受け取って作って納品する仕事を減らし、プロフィットシェア型の共創や、クライアントの中に入って事業そのものを代わりに産んで育てる仕事に寄せています。新規事業に特化すると、作る前に小さく確かめること(PoC)、最小の形で市場に出すこと(MVP)、AIで検証の速度を上げることが毎週の日常になるので、サイトの言葉も自然とこの構成になります。
冒頭の謎もここで解けます。建築やパッケージの相談が来たのは、他社まとめ記事の紹介文が、僕らが共創で立ち上げた事業会社の情報まで拾って書かれていたからでした。クライアントと一緒に産んだ事業の中には建築もパッケージもあったので、外から見ればARCHECOの棚札にそう写ります。実態は、その事業を隣で立ち上げた側です。同じことがいま起きるなら、次に来るのは飲食、物流、訪日あたりの相談でしょうか……。
実は今年の5月、僕らは「UXデザイン」という言葉を看板から下ろし、新規事業コンサルと生成AI導入支援の会社として自己紹介を作り直しました。そのときは半分感覚での判断でしたが、今回15社ぶんの物差しを作ってみて、あの判断が数字で裏付けられました。自分の立ち位置は、自分では見えません。同じ物差しで他人と並べたときだけ見えます。
だからこの棚の説明はこう書けます。「UXデザインを買う場所」ではなく「事業を一緒に立ち上げて、当たるまで並走する相手」を探しているなら、見るべきはこの棚です。 体験の設計は、事業を立ち上げる道具のひとつとして今も現役で使っています。
UXデザイン専業の棚:8社
「UXデザイン会社を探している」という言葉どおりのニーズなら、本命はこの棚です。ここでは、パラメータと、各社の自己紹介だけを並べます。ただ、順不同ではなくUX構成比の高い順です。
ポップインサイト|UX 75%|事業 16%|開発 8%|AI 2%
「UXリサーチを『継続的』『スピーディ』に実施。UXリサーチャーが多様な領域のUXリサーチ体制を構築します」
THE GUILD|UX 69%|ブランド 13%|AI 9%
「THE GUILD. Creative alliance.」
アジケ|UX 65%|開発 21%|事業 9%
「サービスデザイン・UXデザインで事業課題を解決。デザインシステム構築や金融領域にも対応」
日本テレビアート|UX 61%|AI 21%|ブランド 14%
「歴史ある日テレのビジュアル面をデザインで支え続けてきたクリエイティブ集団。美術セットや照明といったスペースデザインや、テロップやポスター、CGなどのグラフィックデザイン」
フォーデジット|UX 56%|事業 25%|AI 13%
「デジタルテクノロジーと人をつなぐ際に欠かせない『デザイン』を提供し、関わる人すべてが心地よい体験を作り上げるデザイン&テックカンパニー」
セブンデックス|UX 44%|事業 32%|ブランド 17%
「顧客体験からコミュニケーションまで一気通貫でデザインし、企業価値の向上と事業成長を支援するデザイン&マーケティングカンパニー」
グッドパッチ|UX 41%|事業 20%|開発 19%
「新規事業立ち上げやプロダクトのUI/UX改善など、戦略策定〜グロースフェーズまで一気通貫でパートナーとして並走します」
コンセント|UX 38%|開発 21%|事業 19%|ブランド 18%
「コンセントは企業と伴走し、活動を支えるデザイン会社です。事業開発やコーポレートコミュニケーション支援、クリエイティブ開発を、戦略から実行までお手伝いします」
※ ファーストビューの画像は、各社公式サイトの2026年8月時点のスクリーンショットです(出典: 各社公式サイト)。クリックで公式サイトが開きます。ただし、デザインの細部は縮小画像では潰れるので、候補に残す会社は必ず実物を開いて確かめてください。
同じ専業でも、パラメータの2番目で性格が割れます。ポップインサイトはUX75%の調査純度、セブンデックスとグッドパッチは事業の言葉が厚く、THE GUILDとコンセントはブランド・表現が乗る。業界の足場も言葉に出ていて、アジケは金融の語彙が1000語あたり32.7語と全社断トツでした。「金融のデザイン会社」と呼ぶほうが実態に近い密度です。
開発・技術系の棚:6社
「デザインだけでなく実装まで一社で」というニーズなら、専業8社よりこちらが本命です。
フェンリル|開発 64%|UX 17%|事業 7%
「ユーザーを幸せにするプロダクトをデザインしています。徹底したユーザー目線で……そのデザインと技術で最高の形へと導きます」
ジークス|開発 44%|UX 36%|AI 9%
「プロダクトデザインからエンジニアリング、AI・セキュリティ基盤まで一気通貫で伴走。大手企業と数年単位の長期パートナーシップ多数」
LIG|開発 42%|AI 21%|UX 17%
「DX with Global Team. システム開発・Web制作・マーケティング支援を中心に、グローバルリソースを活用したDX支援を行うプロフェッショナル集団」
アイスリーデザイン|開発 40%|UX 36%|AI 16%
「Design × AI × Engineering で、日本のITを再起動する。AI駆動のデジタルエンジニアリング企業」
メンバーズ|開発 40%|AI 19%|事業 18%
「顧客と共に社会変革をリードするデジタル実装パートナー」
ニジボックス|開発 37%|UX 31%|AI 24%
「『Grow all』を合言葉に、企業やサービスの成長に向き合い続けるリクルートグループの会社です。UI UXデザイン・開発・データエンジニアリングなど」
ところで、この棚には面白い共通点があります。自己紹介にデザインの言葉を使いながら、語彙の主成分は開発なのです。フェンリルの自己紹介は「デザイン」を2回使いますが、パラメータは開発64%。アイスリーデザインとジークスはUXも36%あって専業との境界に近く、ニジボックスはAI24%とデータの言葉が既に厚い。棚札と中身のずれは、どの会社にも大なり小なりあります。 だから紹介文ではなくパラメータを見る価値があります。
選び方:課題と棚を合わせる
| あなたの課題 | 見るべき棚 |
|---|---|
| 「ユーザーが何に困っているか分からない」「体験の質を上げたい」 | UXデザイン専業(調査ならポップインサイト型、事業寄りならグッドパッチ型) |
| 「デザインも実装も一社で」「作り切る力が欲しい」 | 開発・技術系 |
| 「事業そのものを立ち上げたい」「PoCから当たるまで並走してほしい」 | 事業・戦略 |
ただし、棚が合うだけでは決めきれません。実務的には、候補は2〜3社に絞って相見積もりを取るのが妥当です。10社に声をかけると、提案を読むだけであなたの工数が溶けます。パラメータと業界の密度で2〜3社まで絞り、あとは実際に会って「過去にどんな判断をしたか」を聞くのが早いです。作品集は綺麗に作れますが、判断の履歴は捏造しにくいので。
考察:「AI系UXデザイン会社」は、3方向に分かれて増える
最後に、この解析でいちばん先の話ができる図を置きます。横軸にUXデザイン語彙、縦軸にAI語彙を取った散布図です。
はっきりした傾きがあります。AIの言葉は、UX純度の高い会社ほど薄い。 ポップインサイトのAI語彙は構成比2%、アジケ3%、コンセント3%。一方、開発・技術系はニジボックス24%、LIG21%、メンバーズ19%と軒並み高く、事業・戦略のARCHECOは27%です。例外はAI21%の日本テレビアートくらいで、傾向は一目で分かります。
ここから先は予測なので、そう読んでください。生成AIの浸透で「AI系UXデザイン会社」を名乗る会社は、これから確実に増えると思います。でも、この図を見る限り、それは単一の新しい棚にはなりません。各社のAIは、いま向いている方向に沿って入っていくはずです。
- リサーチ純度の高い会社は、AIをリサーチの道具にする(インタビューの解析、行動データの読解)
- 開発・技術系は、AIを実装の道具にする(AI駆動開発、エージェントの組み込み)
- 事業・戦略型は、AIを事業検証の道具にする(PoCの高速化、MVPの自動化)
つまり2〜3年後に「AI系UXデザイン会社」を探すときも、結局問うべきことは今と同じです。その会社のAIは、何のためのAIか。 それは各社が今日サイトに書いている言葉に、もう出ています。この記事の物差しが古びたら、同じスクリプトで測り直して更新します。四半期に一度の予定です。
よくある質問
Q. なぜ順位をつけないのですか?
順位をつけた瞬間に、僕が信じられなかった「おすすめ◯選」と同じものになるからです。代わりに、機械の仕分けとパラメータと各社の自己紹介だけを置いています。判断材料としては、伝聞の紹介文より働くはずです。
Q. UIデザインとUXデザインは何が違うのですか?
UI(User Interface)は画面や操作部品そのもの、UX(User Experience)はそれを使ったときの体験全体です。ボタンの色や配置はUI、「迷わず買えた」「また使いたい」はUXの領域です。実務では不可分なので、発注時に分けて考える必要はあまりありません。定義と実務の全体像はUXデザインとは?何をデザインする仕事か【2026】にまとめています。
Q. 語彙の解析で、本当に会社の実態が分かるのですか?
分かるのは「その会社が何を語りたがっているか」までです。ただ、サービスの構成・事例の選び方・記事の主題は各社が意思を持って書いたものなので、紹介文の伝聞よりは実態に近い、というのがこの記事の立場です。少なくとも自社については、機械の仕分けと実態が一致していました。
最後に。冒頭の建築設計の相談には、丁重にお断りの返事をしました。建物の図面は、僕らには引けません。ただ、あの会社の新しい事業の絵なら、たぶん一緒に描けました。断ってから気づいて、少しだけ惜しいことをしたと思っています。
以上です。
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