新規事業の課題|フェーズ別の一覧・原因・乗り越え方

新規事業の課題|フェーズ別の一覧・原因・乗り越え方

「新規事業の課題|フェーズ別の一覧・原因・乗り越え方」の全体像をまとめた図解|新規事業の課題をフェーズ別に一覧にし、原因を解き方で3つの層に分け、乗り越え方をまとめます

# 新規事業の課題|フェーズ別の一覧・原因・乗り越え方

新規事業の課題をフェーズ別に一覧にし、原因を解き方で3つの層に分け、乗り越え方をまとめます。本題は、技術ではなく、予算と熱が先に尽きる理由です。

新規事業が止まるとき、止まった理由として挙がるのはたいてい「市場が思ったより小さかった」「技術的に難しかった」のどちらかです。ただ、社内の会議室で実際に何が起きているかを追いかけると、その2つが決定打になっている例は多くありません。多くの場合、先に尽きるのは予算と、担当者の熱量です。

この記事では、新規事業の課題をフェーズごとに一度すべて並べたうえで、フレームワークで片づく課題と、片づかない課題を分けます。片づかないほうが本題です。

① 新規事業の課題は、5つのフェーズに分かれる

「① 新規事業の課題は、5つのフェーズに分かれる」を図解したスライド|課題は、どのフェーズにいるかで種類が変わります

新規事業の課題の基本をすでにご存じの方は、③ 課題は3つの層に分かれるから読み進められます。

課題は、どのフェーズにいるかで種類が変わります。上位の解説記事が扱っている項目を、フェーズ順に整理します。

フェーズ主な課題
アイデア創出アイデアが出てこない/既存事業の延長から離れられない/自社価値を把握できていない
事業計画市場ニーズをつかみきれない/競合とポジショニングが決まらない/仮説にこだわり過ぎる/チームの統率がとれない
社内リソース必要な人材が不足する/予算を確保できない/社内にノウハウと経験がない
市場投入参入タイミングが分からない/スケジュール通りに進まない/市場反応が悪い理由が分からない
収益化利益計画を作れない/収益を上げる方法が定まらない/資金調達が続かない

このうち「人材が足りない」「予算がない」「ノウハウがない」の3つは、社内リソースの課題としてどのフェーズにも顔を出します。フェーズの表に収まらないのは、これが状態ではなく制約だからです。

新規事業とは何か、なぜ必要か——課題の話の前に

課題を並べる前に、何を新規事業と呼ぶかを置いておきます。この記事では、顧客か提供するものか、少なくとも一方が自社にとって新しい取り組みを新規事業と呼びます。既存の顧客に既存の製品を売る工夫は改善で、新規事業ではありません。線を引く理由は、課題の性質が変わるからです。改善の課題は社内に答えがあり、新規事業の課題は社外にしか答えがありません。

必要になる理由は、会社ごとに違って見えますが、構造は同じです。既存事業の顧客が減るか、利益率が下がるか、顧客の行動が変わって今の製品が選ばれなくなるか。どれも「いま困っていない」時期に始めないと間に合いません。困り始めてから始めると、予算も人も既存事業の立て直しに回り、新規事業の制約が最初から厳しくなります。

どの領域に進出するか——4つの方向と、制約との相性

領域の決め方は、顧客と提供物の2軸で4つに分けると整理できます(成長の方向を示す古典的な整理で、アンゾフの成長マトリクスと呼ばれます)。既存の顧客に新しい製品を出す、新しい顧客に既存の製品を売る、新しい顧客に新しい製品を出す、既存の顧客に既存の製品をもっと売る。新規事業に当たるのは前の3つです。

この記事の観点で言うと、4つの方向は決め直しの回数が違います。既存の顧客に新しい製品を出す方向は、顧客を知っているぶん、決め直しが製品の側に集中します。新しい顧客に既存の製品を売る方向は、売り方の決め直しが中心です。新しい顧客に新しい製品を出す方向は、両方が同時に動くので決め直しが最も多くなります。予算と人の制約が厳しいなら、両方が動く方向は最初の案件に選ばない、という判断ができます。

フェーズ別にやること——課題の表を、進め方に読み替える

上の表は課題の一覧ですが、進め方として読み替えると次の順になります。

1. アイデア創出——観察から困りごとを集め、制約(予算・工数・決裁)を先に書き出す

2. 事業計画——顧客と課題を絞り、仮説を1枚にまとめ、撤退の線を決める

3. 社内リソース——人・金・技術の不足を、採用か外部活用かで埋める順番を決める

4. 市場投入——小さく出し、顧客の反応から決め直す

5. 収益化——価格と販路を決め直し、拡大の前に1回あたりの決め直しを軽くする

競合の記事はこの順を「ステップ」として示しますが、この記事は各フェーズの最後に「決め直す」を入れています。フェーズは一直線に進まず、4番で分かったことが2番に戻ります。戻ることを計画に入れていないと、戻りが遅れとして扱われます。

アイデアをどう出すか——発想法より、制約の置き場

アイデア創出の課題に、競合の記事は発想法(ブレインストーミング、デザイン思考、他業界からの転用)を挙げます。これらは機能します。ただ、アイデアが出ない会社の多くは、発想法を知らないのではなく、出したアイデアが制約に合わずに消えています。予算も人も決まっていない状態で出したアイデアは、評価の段階で「それは無理」と消され、出す側の熱が先に尽きます。

順番を変えます。制約(使える予算、月に使える時間、決裁者)を先に置き、その枠で始められる形に削れるかで評価します。削れないアイデアは保留に回し、消しません。アイデアの型と見極め方は、新規事業のアイデア|例を型で読む10選と筋の見極め方に整理しています。

成功事例・失敗事例は、どう読むか

事例を集めても課題は解けませんが、読み方を変えると材料になります。成功事例で見るのは、結果ではなく「何を決め直したか」です。最初の計画どおりに成功した事例はほぼ無く、書かれていないだけです。失敗事例で見るのは、第1層(決めるための課題)で止まったのか、第2層(人・金・技術)で止まったのか、第3層(決め直しが続かなかった)で止まったのかです。

有名企業の失敗事例とその原因は、新規事業の失敗事例|有名企業8社と失敗の原因・回避策に整理しています。この記事では個別の事例を挙げず、どの層で止まったかを見る読み方だけを置きます。

課題の抽出方法は3つ

課題を並べる前に、そもそも何が課題かを見つける工程があります。一般に挙げられるのは次の3つです。

1. 顧客インサイトから見つける — ターゲットの理解を深め、実際の行動から詰まりを拾う

2. 社内リソースと組織体制の棚卸しから見つける — 誰が何時間使えるのか、決裁は誰が持つのかを書き出す

3. マクロ環境と競合の整理から見つける — 外部環境の変化と、競合の動きから逆算する

3つのうち、社内で最も飛ばされやすいのは2番目です。顧客の話と市場の話は会議で扱われますが、「この事業に月何時間使えるのか」は議題になりません。

② 「課題」と「制約」は分けて扱う

「② 「課題」と「制約」は分けて扱う」を図解したスライド|上の表を眺めると、性質の違うものが混ざっていることに気づきます

上の表を眺めると、性質の違うものが混ざっていることに気づきます。

課題は、調べれば答えが出るものです。市場規模、競合のポジション、想定顧客の行動。時間と手間をかければ、精度は上がります。

制約は、調べても答えが出ないものです。使える予算、決裁が下りるまでの日数、担当者が他業務と兼務している事実。これらは調査で解けません。設計の前提として先に置くものです。

新規事業が止まる場面の多くは、制約を課題として扱ったときに起きます。「予算が足りない」を課題だと思うと、より説得力のある事業計画を作ろうという動きになります。制約だと分かっていれば、予算の中で回る形に事業のほうを削る動きになります。前者は資料が厚くなり、後者は事業が動きます。

③ 課題は3つの層に分かれる

「③ 課題は3つの層に分かれる」を図解したスライド|フェーズで分けると課題は5種類ですが、解き方で分けると3つになります

フェーズで分けると課題は5種類ですが、解き方で分けると3つになります。ここが本題の入口です。

層中身効く道具
第1層:決めるための課題市場・競合・顧客・自社価値がわからない分析フレームワーク
第2層:作るための課題人・金・技術が足りない調達・外部活用
第3層:決め直すための課題決めたことが、作っている最中に変わる—

第1層に効く道具は、すでに揃っている

決めるための課題には、確立された道具があります。上位記事が挙げているものを目的別に並べます。

目的道具
外部環境を見るPEST分析
内部と外部を突き合わせるSWOT分析
自社資源の競争力を測るVRIO分析
誰にどう届けるかを決めるSTP/ポジショニングマップ
顧客側から価値を見る4C分析/ペルソナ・ジョブ理論/バリュープロポジションキャンバス
事業の全体像を1枚にするビジネスモデルキャンバス

これらは機能します。埋めれば、抜けが見えます。第1層の課題は、道具の問題としては解決済みです。

道具の選び方そのものは、新規事業のフレームワーク|埋める道具ではなく「失敗の検出器」として12種を選び直すに整理しています。この記事では、道具で片づく範囲の外側を扱います。

第2層は、調達の問題として扱える

人材が足りない、ノウハウがない、という課題には、外部人材の活用という選択肢があります。社内に経験者がいない状態で経験者を採用するのは時間がかかるため、先に外から入れて、走りながら社内に移すという順序が現実的です。これも道具立ての問題です。

外部と組む——協業・外部専門家・外注の使い分け

外部の力を借りる形は3つあります。他社と組む協業(相手の顧客や技術を使う)、専門家に助言をもらう顧問や伴走支援、作る作業を任せる外注。どれも第2層を埋めますが、第3層への影響が違います。協業は、決め直すたびに相手との合意が要るので、決め直しが遅くなります。外注は、契約の形によって決め直しが有料になります。専門家の助言は、決め直しの判断を速くできる反面、判断そのものを外に出すとノウハウが残りません。

使い分けの基準は「判断を社内に残せるか」です。作業は外に出してよく、判断は社内に残します。協業や外注の契約を結ぶときは、決め直しが起きたときに誰が判断し、どれだけの期間で反映されるかを先に決めます。

資金の確保と追加投資——制約として先に置く

資金の課題は、調達の方法(自己資金、借入、出資、補助金)を並べるだけでは解けません。この記事の立場では、資金は課題ではなく制約です。「いくら使えるか」を先に確定し、その中で回る形に事業を削ります。追加投資は、決め直しの結果が出てから、何が分かったかを材料にして判断します。「もう少し資金があれば」で追加した資金は、同じ決め直しの不足で再び尽きます。

補助金や公的支援を使う場合は、公募の日程と採択後の実施期間が事業の日程を縛る点に注意します。制度の選び方と、通ったあとに起きることは、新規事業進出補助金はどれを選ぶか|6制度の比較と、通る事業計画・通っても死ぬ事業計画に整理しています。

第3層には、道具がない

問題は3つ目です。決めたことが、作っている最中に変わる。 ここに効くフレームワークは、上位の解説記事のどれにも出てきません。

④ この記事では、第3層を扱う

「④ この記事では、第3層を扱う」を図解したスライド|第1層と第2層は、調べれば答えの形が見えます

第1層と第2層は、調べれば答えの形が見えます。第3層だけは、どれくらい起きるのかを知らないと備えられない種類のものです。そして、その回数を公開している例がほとんどありません。

以降は、決め直しが実際にどれだけ起きるのかを、開発の記録から出します。

⑤ フレームワークは効く。ただし、埋めた時点では何も決まっていない

「⑤ フレームワークは効く。ただし、埋めた時点では何も決まっていない」を図解したスライド|先に立場をはっきりさせておくと、フレームワークは有効です

先に立場をはっきりさせておくと、フレームワークは有効です。ビジネスモデルキャンバスの9マスを埋めると、収益の流れが空欄のまま議論していたことに気づきます。SWOTを書くと、強みだと思っていたものが競合も持っていると分かります。埋める作業には、抜けを見つける効果が確実にあります。

ただ、埋め終わった時点で決まっているのは「今の理解」だけです。そこから作り始めると、埋めた内容のかなりの部分が書き換わります。

この「書き換わる量」が、事業計画の段階では見積もられていません。計画は一度決めるものとして作られ、決め直しの工数は計画に含まれない。だから予算が尽きます。

環境分析の道具——PEST・SWOT・VRIOは、何を決めるために使うか

第1層の表に挙げた道具は、使う順番で効き方が変わります。外部環境(PEST分析。政治・経済・社会・技術の変化を並べる)は、どの領域に進出するかを決めるための材料です。自社資源(VRIO分析。資源の価値・希少性・模倣の難しさ・組織での活用を見る)は、何を武器にするかを決めるための材料です。SWOTは両者を突き合わせる表で、単独では何も決まりません。

道具を使う目的は、埋めることではなく、決める前に抜けを見つけることです。「分析はしたが何も決まらない」が起きるのは、決めたい問いを置かずに表を埋めたときです。先に「進出する領域を決めたい」「最初の顧客を決めたい」と問いを置き、その問いに要る道具だけを使います。

ビジネスモデルの整理——キャンバスは仮説の置き場

ビジネスモデルキャンバスやリーンキャンバスは、事業の全体像を1枚にします。この記事の観点では、キャンバスは完成した計画ではなく、仮説の置き場です。各マスに「いまの仮説」と「確かめる方法」を書き、作りながら書き換えます。書き換えの履歴が残ると、決め直しが「計画の失敗」ではなく「学んだこと」として報告できます。

書き方と記入の順番は、リーンキャンバスとは?9ブロックの書き方と記入の順番に整理しています。

収益モデルの型——どの型でも、決め直しの対象になる

収益モデル(売り切り、月額、成果報酬、手数料、広告など)は、事業計画の段階で1つに決めるものと思われがちです。実務では、顧客が払う形は作ってから変わります。月額で始めて売り切りに戻す、手数料から月額に変える、といった決め直しは珍しくありません。計画では「有力な型と、次の候補」を2つ置き、最初の顧客の反応で選ぶ形にしておくと、変更が計画の範囲に収まります。型の一覧と選び方は、マネタイズモデルとは?8つの種類と選び方に整理しています。

⑥ 決め直しは、どれくらい起きるのか

「⑥ 決め直しは、どれくらい起きるのか」を図解したスライド|発信元(ARCHECO)が2026年2月から7月にかけて開発したホテル向けゲストサービス基盤の記録か

発信元(ARCHECO)が2026年2月から7月にかけて開発したホテル向けゲストサービス基盤の記録から、実数を出します。iOS/Androidアプリ、管理Webアプリ、バックエンド、決済、物流連携を含む構成です。

指標実測値
コミット総数2,126(2026-02-16〜07-21)
うち機能追加(feat)808
うち修正(fix)728
DBスキーマの変更(マイグレーション)188本
サーバレス関数45本

読むべきはfeatとfixの比です。機能を808件足すあいだに、728件直しています。 足した数とほぼ同じだけ、直している。

そしてDBスキーマの変更が188本。データベースの構造は、事業が「何を扱うか」を決めたものです。それを5ヶ月で188回変えている。これは設計が甘かったという話ではなく、作りながらでないと分からないことが188回あった、という記録です。

数字はすべて再現できます。コミット数は git rev-list --count HEAD、マイグレーション本数は ls supabase/migrations/*.sql | wc -l で出ます。

撤退・方向転換の基準は、いつ決めるか

決め直しが工程の半分だとすると、「どこまで決め直しを続けるか」の線が要ります。撤退や方向転換の基準は、始める前に決めます。始めてから決めようとすると、投じた予算と時間が判断を鈍らせ、基準が後ろにずれ続けます。基準は、数字(最初の顧客が何社、月の売上がいくら、継続率が何割)と期限(いつまでに)の組み合わせで置きます。

方向転換と撤退は分けます。方向転換は、顧客か提供物のどちらかを変えて続けること。撤退は、両方とも止めること。基準を決めるときは、「この数字に届かなければ方向転換の検討に入る」「この期限までに方向転換しても届かなければ撤退」のように、2段で置きます。決め直しの回数そのものは基準にしません。回数は多くてよく、見るのは1回あたりにかかる時間と、数字が基準に近づいているかです。

⑦ 本番は、出してから始まる

「⑦ 本番は、出してから始まる」を図解したスライド|もう1つ、時系列で見るべき記録があります

もう1つ、時系列で見るべき記録があります。

  • 2026-07-05 — 一般ユーザーからの商用注文を初めて受注
  • 2026-07-06 — 本番の決済障害を検知し、同日中に修正を適用

初めてお金を受け取った翌日に、決済が止まっています。5ヶ月かけて作り、ストア審査を通し、公開した後の話です。

事業計画上、この日は「収益化フェーズの開始」に当たります。実際にはここが、決め直しの密度が最も高くなる地点でした。計画では終わりに置かれている場所が、実務では始まりになる。 予算の配分が計画通りだと、ここで尽きます。

0→1にしか予算が付かず、1→10で事業が止まる現場の記録は、PMFの手前で新規事業が死ぬ理由|0→1と1→10の予算の壁に実録として書いています。この記事の第3層が、どこで顔を出すかの実例です。

小さく検証する——MVP・PoC・テスト販売で、何を確かめるか

本番を小さく始める方法として、競合の記事はMVP(必要最小限の製品)、PoC(概念実証。技術が成立するかを小さく確かめる工程)、テスト販売を挙げます。どれも「作る前に確かめる」ための方法ですが、確かめる対象が違います。PoCは技術が動くか、MVPは顧客が使って対価を払うか、テスト販売は売り方と価格が通るか。この記事の観点では、どれも「決め直しを安い段階で起こす」ための方法です。本番で起きる決め直しを、小さい版で先に起こしておくと、1回あたりが軽くなります。

小さく始めるときに決めておくのは、何が起きたら次に進み、何が起きたら戻るかです。これを決めずに始めると、小さい版の結果を見ても判断できず、「もう少し続ける」が繰り返されます。MVPの作り方は、MVPとはに整理しています。

顧客インタビューと顧客理解——決め直しの材料をどこから取るか

決め直しの材料は、社内の会議ではなく顧客から取ります。顧客インタビューは、意見を聞く場ではなく、行動を聞く場です。「使いますか」ではなく「いま、その困りごとをどう処理していますか」「最後にそれで困ったのはいつですか」と聞きます。意見は変わりますが、行動は変わりにくく、決め直しの根拠になります。

聞く人数より、聞く順番が効きます。最初の数人で仮説が崩れたら、人数を増やす前に仮説を書き換えて聞き直します。崩れない仮説が出てから人数を増やします。インタビューの結果は、キャンバスの該当するマスに日付つきで書き戻し、何が変わったかを残します。

マーケティングと販路——投資しすぎない順番

市場投入の課題として、競合の記事は販売チャネルの選び方とマーケティングの進め方を挙げます。この記事が足すのは順番です。最初の顧客は、広告ではなく、既にいる接点(既存の顧客、紹介、業界の集まり)から取ります。理由は、広告は決め直しの材料をくれないからです。広告で来た顧客が買わなかったとき、価格か、訴求か、相手が違うのか、分かりません。顔の見える顧客なら、聞けます。

販路への投資は、最初の数社が繰り返し使うことを確かめてから増やします。獲得を続ける仕組み(広告、代理店、営業の増員)は、1回あたりの決め直しが軽くなった後に入れます。先に入れると、決め直しのたびに販路側のやり直しが発生します。

調査のしすぎで動きが遅れる——いつ出すか

出すのが遅れる原因は、準備不足より完璧主義です。調査を重ねれば不確かさは減りますが、ゼロにはなりません。この記事の立場では、調べて分かることと、出さないと分からないことを分け、前者が済んだら出します。市場規模や競合の位置は調べて分かります。顧客が実際に払うか、どこで詰まるかは、出さないと分かりません。後者を調査で埋めようとした時間が、遅れの正体です。

出す時期の目安は、「出して分かったことで、何を決め直すかが言える状態」になったときです。言えないなら、まだ仮説が無く、出しても材料が取れません。言えるなら、調査を続けるより出したほうが速く分かります。

拡大期の課題——増やす前に、決め直しを軽くする

最初の顧客がつき、拡大に入る時期の課題は、人の増員と組織の作り方、仕組みの拡張性です。この記事の観点では、拡大期に入る条件は売上の額ではなく、決め直しの1回あたりが軽くなっていることです。重いまま人を増やすと、決め直しのたびに巻き込む人が増え、さらに重くなります。

拡大の前に確かめるのは3つです。変更が起きたときに何日で反映されるか、変更の判断が特定の人に集中していないか、変更の理由が記録に残っているか。この3つが揃っていれば、人を増やしても判断の速度が落ちにくくなります。

⑧ 現場でぶつかる壁

「⑧ 現場でぶつかる壁」を図解したスライド|第3層を前提に置くと、社内でいくつかの摩擦が起きます

第3層を前提に置くと、社内でいくつかの摩擦が起きます。

壁1:決め直しが「計画の失敗」に見える

188回の変更は、報告の場では「当初計画から188回ぶれた」と読まれます。ここを説明するには、変更の回数ではなく、変更にかかった時間を報告するほうが実態に合います。回数は多くて構わない。1回あたりが重いことが問題です。

壁2:評価の物差しが売上しかない

立ち上げ期の事業を売上で測ると、決め直しの多い時期がそのまま低評価になります。この時期に見るべきは、決め直しが1回あたりどれだけ速くなったかです。

壁3:外部に頼むと、決め直しが有料になる

決め直しのたびに追加見積もりが出る契約形態だと、担当者は決め直しを避けるようになります。避けた結果、間違ったまま完成します。契約の形が、事業の質を決めてしまう構図です。

壁4:ノウハウが社内に残らない

外部人材で第2層を埋めた場合、決め直しの判断ごと外に出ていることがあります。契約終了後に何も残らないのは、作業ではなく判断を外に出したときです。

壁5:経営層のゴールが曖昧で、関与が続かない

「新規事業をやれ」の一言で始まった事業は、何ができたら成功かが決まっていません。決め直しが起きるたびに「それは当初の目的と違う」と言われ、担当者の熱が尽きます。経営層に求めるのは細かな関与ではなく、2つの決定です。何を成功とするか(数字と期限)、そして決め直しの判断を誰に委ねるか。この2つが決まれば、報告は「計画からのずれ」ではなく「決め直しの結果」として受け取られます。

壁6:社内の合意が取れない・部門をまたげない・反対がある

新規事業は、既存の部門の協力なしには動きません。反対が出るのは、新規事業が既存部門の時間と人を使うのに、見返りが既存部門に無いからです。合意を取る順番は、まず制約(相手の部門からどれだけの時間を借りるか)を具体的な数字で示し、次に相手の評価にどう結びつけるかを決め、最後に事業の意義を話します。意義から話し始めると、総論は賛成、各論は反対、で止まります。

壁7:既存事業との関係——衝突するか、離れすぎるか

既存事業と近すぎると、顧客や販路を取り合い、社内で衝突します。離れすぎると、社内の資源が使えず、ノウハウも人も外から集めることになります。近さの判断は、顧客・提供物・販路のうち、既存と共有できるものが1つ以上あるかで見ます。1つも無い事業は、第2層の制約が最初から厳しいと分かったうえで始めます。

壁8:担う人材がいない・異動で途切れる・ノウハウが残らない

新規事業の担当者は、既存事業の評価の仕組みから外れた場所に置かれがちです。異動で途切れると、決め直しの理由ごと消えます。残す工夫は、人ではなく記録に置きます。何を、なぜ決め直したかを、キャンバスか計画書に日付つきで書き続ける。担当者が替わっても、記録を読めば同じ議論をやり直さずに済みます。人材の課題は、採用で解く前に、記録で軽くできます。

壁9:ターゲットと差別化が決まらない・後発で入る

誰に売るかと、競合とどう違うかは、事業計画の段階で決めきれないのが普通です。ターゲットは、最初に強い困りごとを持つ小さな層に絞り、検証後に広げます。差別化は、競合の機能一覧との違いではなく、「その層が今の代替手段で何に困っているか」から決めます。後発で入る場合、先行者の顧客が困っていることが差別化の材料になり、先行者の弱い層から入ります。どれも、最初の顧客に聞いてから書き換わる項目です。

壁10:価格が決まらない——高すぎるか、安すぎるか

価格は、原価からでも競合からでも決まりません。顧客がいま、その困りごとにいくら払っているか(代替手段の費用と手間)から決めます。最初の価格は仮で置き、最初の数社の反応で決め直します。安く始めて上げるのは難しく、高めに置いて条件で下げるほうが決め直しが軽い、というのが実務の経験則です。価格の決め直しも、第3層の一部として計画に入れます。

なぜ失敗するのか——失敗の型を3層に当てる

競合の記事が挙げる失敗の型(市場が無かった、資金が尽きた、人が続かなかった、経営層が降りた、作りすぎた)は、3層に当てると整理できます。市場が無かったのは第1層で決めきれなかった失敗、資金と人が尽きたのは第2層の制約を課題として扱った失敗、作りすぎたと経営層が降りたのは第3層の決め直しが計画に無かった失敗です。この記事が本題にしているのは3つ目で、予算と熱が先に尽きるのは、決め直しの工程が半分あることを計画に入れていないからです。

⑨ まとめ

「⑨ まとめ」を図解したスライド|新規事業の課題は、フェーズで並べると5種類、解き方で分けると3層になります

新規事業の課題は、フェーズで並べると5種類、解き方で分けると3層になります。

第1層(決めるための課題)にはフレームワークが揃っています。第2層(作るための課題)は調達の問題として扱えます。第3層——決めたことが作っている最中に変わる——にだけ、道具がありません。

そして実測では、機能追加808件に対して修正728件、データベース構造の変更188回。決め直しは例外ではなく、工程の半分です。冒頭に書いた「予算と熱が先に尽きる」は、この半分が計画に入っていないことの結果です。

新規事業の計画に入れるべきなのは、より精密な市場予測ではなく、決め直しの回数と、1回あたりの所要時間です。

⑩ この先——AIは、この課題をどう変えるか

「⑩ この先——AIは、この課題をどう変えるか」を図解したスライド|生成AIによって、作る速度は上がりました

生成AIによって、作る速度は上がりました。ただ、上がったのは第2層(作るための課題)の速度です。第3層は変わっていません。決め直すかどうかの判断は、依然として人が担っています。

作る速度だけが上がると、決め直しの回数はむしろ増えます。速く作れるぶん、早く間違いに気づくからです。AI導入後に「開発は速くなったのに事業が進まない」という状態が起きるのは、判断の速度が変わっていないためです。

次に足りなくなるのは、実装力ではなく決裁の速度になります。

よくある質問

新規事業の課題を洗い出す最初の一歩は何ですか

社内リソースの棚卸しです。市場調査より先に、「この事業に月何時間使えるか」「決裁は誰が持つか」を書き出します。これは調べても変わらない制約なので、先に確定させたほうが後の設計が速くなります。

フレームワークは何から使えばよいですか

決めたい対象で選びます。外部環境ならPEST、自社資源ならVRIO、顧客価値ならバリュープロポジションキャンバス、全体像ならビジネスモデルキャンバスです。ただし埋めた時点で決まるのは「今の理解」までで、作り始めると書き換わります。

決め直しの回数は、どれくらいが正常ですか

自社プロダクトの記録では、5ヶ月でデータベース構造の変更が188回、機能追加808件に対して修正728件でした。事業や規模で変わるため基準値にはなりませんが、「機能を足す作業と同じ量だけ直す作業がある」という比率は、計画の目安として使えます。

外部に頼むと、この課題は解決しますか

第2層(人・金・技術)は解決します。第3層は、契約の形によって悪化することがあります。決め直しのたびに追加費用が発生する形だと、決め直しを避ける力が働くためです。

課題が多すぎて優先順位がつきません

3層で分けると順序が決まります。第2層の制約(予算・工数・決裁)を先に確定し、その枠内で第1層(市場・顧客)を調べ、第3層の回数を計画に織り込む、という順です。

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新規事業の立ち上げについては、MVP/PoC開発の支援内容にも整理しています。

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