
家で「夕飯、何がいい?」と聞くと、返ってくる答えは決まって「なんでもいい」です。ところが聞き方を変えて「昨日までの1週間で、いちばん良かった夕飯はどれ?」と聞くと、「木曜の生姜焼き。あれは白米が進んだ」と、急に具体的な答えが返ってきます。
相手が変わったわけではありません。質問が、未来の希望を聞く形から、過去の事実を聞く形に変わっただけです。ユーザーインタビューの設計は、突き詰めるとこの1語の違いの積み重ねです。今日は、UXデザインの現場で実際に使っているインタビューの進め方の話をしていこうと思います。前置きはさておき、本題に入ります。
① ユーザーインタビューとは

ユーザーインタビューとは、プロダクトやサービスの利用者・見込み客に直接話を聞いて、行動と背景を理解する調査手法のことです。アンケートが「たくさんの人の浅い答え」を集めるのに対し、インタビューは「少数の人の深い事実」を掘ります。
種類は、実務で使う順に6つ挙げられます。
| 種類 | 中身 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 半構造化インタビュー | 質問の柱だけ決めて、流れで深掘る。 | 実務の標準。迷ったらこれ。 |
| 構造化インタビュー | 決めた質問を順番どおりに聞く。 | 複数人の答えを比較したいとき。 |
| デプスインタビュー | 柱も最小限にして、1人を深く掘る。 | 課題そのものがまだ見えないとき。 |
| グループインタビュー | 複数人で座談会形式。 | 話題の広がりを見たいとき。相互影響に注意。 |
| 評価グリッド法 | 比較の理由を段階的に掘り、価値観の構造を出す。 | 好みの理由を体系化したいとき。 |
| 文脈インタビュー | 実際の利用現場で、使いながら聞く。 | 言葉にならない行動を観たいとき。 |
このうち実務の主戦場は半構造化です。1人あたり45〜60分、柱の質問を5〜7個用意して、答えに応じて掘る。以下、この形を前提に書きます。
覚え方の豆知識をひとつ。この分野には『The Mom Test(母親テスト)』という有名な本があります。2013年にロブ・フィッツパトリックが書いたもので、題名の意味は「母親にすら嘘をつかせない質問だけをしろ」。あなたの母親は、あなたが作ったアプリを「いいわね、使うわ」と褒めてくれます。母親が優しいからではなく、未来の意見はいくらでも優しくできるからです。過去の事実は、母親でも盛れません。この1冊のタイトルを覚えておけば、次の②の規則は忘れなくなります。
② 「欲しいですか」と聞いてはいけない

インタビュー設計でいちばん大事な規則を先に書きます。未来の意見を聞かず、過去の事実を聞く、です。
「こんなアプリがあったら使いたいですか?」と聞けば、たいていの人は「あったら便利かも」と答えます。断る理由がないからです。でも、この「はい」は1円の価値もありません。実際に使うかどうかは、その場の善意の返事とは別の力学で決まるからです。
聞き方を1語変えるだけで、答えは事実に変わります。
| ✕ 未来の意見を聞く | ○ 過去の事実を聞く |
|---|---|
| このアプリ、使いたいですか? | 最後に似たことで困ったのは、いつですか? |
| いくらなら払いますか? | 同じ悩みに、これまでお金を払ったことはありますか? |
| この機能は便利だと思いますか? | 昨日、その作業をどうやってやりましたか? |
| 普段よく運動しますか? | 先週、体を動かしたのはいつといつですか? |
| 説明書は読むほうですか? | いま使っている製品で、説明書はどこにありますか? |
右の列の質問には、嘘をつく余地がほとんどありません。「先週」「昨日」「最後に」という時間の錨と、「どうやって」「どこに」という行動の錨が入っているからです。買わない理由は、聞いても出てきません。行動の記録の中にだけ残ります。この構造をさらに深掘りした実録は、デプスインタビューの記事に書いてあります。
③ 誰に聞くかを設計する

質問より先に迷うのが、対象者の選定です。実務では2つの線で絞ります。
1つ目は行動の実績で絞ること。「30代・都内在住」のような属性ではなく、「この3か月以内に、その行動を実際にした人」で選びます。ダイエットアプリなら、痩せたい人ではなく、直近で何かのダイエットを始めた人。行動した人にしか、行動の事実は語れません。
2つ目は人数を欲張らないこと。半構造化なら、まず5人前後で始めます。5人聞くと同じ話が繰り返され始めるので、そこで一度分析に入り、足りない属性が見えたら追加で募る。最初から20人を集めるより、5人×2巡のほうが設計を直せるぶん精度が上がります。
④ 柱の質問を組み立てる
45分の半構造化なら、柱は5〜7個で足ります。組み立ての順番には定石があります。
- ウォームアップ。昨日の1日の流れなど、答えやすい事実から。
- 行動の再現。「最後に◯◯したときのことを、最初から順番に教えてください」。ここが本体。
- 詰まりの特定。「その中で、いちばん面倒だったのはどこですか」。
- 代替手段。「いまは、それをどうやってしのいでいますか」。
- 過去の出費。「その悩みに、お金や時間を使ったことはありますか」。
大事なのは、この5つのどこにも「うちの製品どう思いますか」が無いことです。製品の評価を聞くのは、行動の事実が揃ったあとの最後の5分で十分です。
⑤ 実施のときの作法

実施側の作法は3つだけ覚えれば形になります。
- 沈黙を埋めない。答えに詰まった3秒後に出てくる言葉が、いちばん本音に近い。先回りして選択肢を出さない。
- 「なぜ」を「何が」に言い換える。「なぜやめたんですか」は詰問に聞こえて、正当化の答えを誘発します。「やめる直前、何がありましたか」なら事実が返ります。
- 録音して、その場でメモを取りすぎない。書くことに気を取られると、掘るべき一言を逃します。録音の同意は冒頭に一言で取ります。
⑥ 分析は「発言・事実・解釈」を分ける

聞きっぱなしのインタビューは、印象だけが残って終わります。分析の最小の型は、発言と事実と解釈を3列に分けることです。
| 発言(逐語) | 事実 | 解釈(仮説) |
|---|---|---|
| 「説明書は…どこだったかな」 | 説明書の置き場所を把握していない。 | 困ったとき説明書に戻る習慣が無い。 |
| 「結局、妻に聞きました」 | 解決手段は家族への質問だった。 | 検索より人に聞く経路が近い。 |
発言の列は、要約せず逐語のまま残します。要約した瞬間に解釈が混ざるからです。ここで作った事実の列が、そのままユーザーシナリオの材料になります。シナリオへの落とし込みはユーザーシナリオの記事と構造化シナリオ法の記事に続きます。
⑦ 実例|聞くだけでなく、演じて確かめた

自社の実例をひとつ。百貨店とアパレル事業者をつなぐ衣服のシェアリングサービスcarite(カリテ)を企画・設計したときの話です。
このサービスの核心は「所有するより、借りたほうがいい」という意思決定が、どんな文脈なら自然に起きるかでした。ところが、これはインタビューで「借りたいですか」と聞いても出てきません。②で書いたとおり、未来の意見だからです。
そこでうちが使ったのは、モックアップを作って関係者でロールプレイングする方法でした。接客する側・作る側・デザインする側・ビジネス側が、実際の売り場の文脈を演じながらモックアップを触り、意思決定が起きる瞬間と起きない瞬間を反復して確かめる。聞く調査で仮説を作り、演じる検証で確かめる、という二段構えです。インタビューは万能ではなく、言葉にならない意思決定は、行動の再現でしか捕まえられない——この実感は、いまも調査設計の基準になっています。
⑧ AIの使いどころと、使えないところ

生成AIは、インタビューの道具としてすでに実務に入っています。効くのは3か所です。
- 練習台。想定ユーザーの人物像をAIに演じさせて、柱の質問を試す。質問の穴が本番前に見つかります。
- 逐語起こし。録音の文字起こしと、発言・事実・解釈の3列への下ごしらえ。
- 反対尋問。作った解釈をAIに渡して「この解釈が間違っている可能性を挙げて」と聞く。
ただし、線を1本引いておきます。AIが演じるユーザーは、過去の行動を持っていません。練習台としては優秀でも、市場の答えはAIからは出ない。答えは、実在の人の行動の中にしかありません。AIへの壁打ちで設計を磨き、本番は人に聞く。この分担が現在地です。
⑨ 現場で使うなら、このチェックリスト

実施前に見直す7点です。
- 柱の質問に「〜したいですか」が混ざっていないか。
- すべての柱に時間の錨(昨日・先週・最後に)があるか。
- 対象者は属性ではなく行動の実績で選んだか。
- 人数を欲張らず、まず5人前後で回す設計か。
- 録音の同意を冒頭に取る段取りがあるか。
- 分析の3列(発言・事実・解釈)の器を先に作ったか。
- 製品の評価質問は最後の5分に隔離したか。
⑩ 一緒に覚えておきたい概念

ユーザーインタビューの前後に置く概念です。順路として並べておきます。
- デプスインタビュー — 1人を深く掘る形式。買わない理由は聞いても出ない
- ユーザーシナリオ — 聞いた事実を体験の流れに変換する道具。書き方・例・テンプレート
- ペルソナ — 対象者像の整理。機能しなくなる理由まで
- UXデザインのプロセス全体 — インタビューが工程のどこに座るか。UXデザインとは
よくある質問
Q. ユーザーインタビューとは何ですか? A. 利用者や見込み客に直接話を聞いて、行動と背景を理解する調査手法です。アンケートより深く、少人数の事実を掘るのに向きます。実務では質問の柱だけ決めて流れで深掘る、半構造化の形が標準です。
Q. 何人に聞けばよいですか? A. まず5人前後で始めるのが実務的です。同じ話が繰り返され始めたら一度分析に入り、足りない属性が見えたら追加します。最初から大人数を集めるより、少人数で2巡するほうが設計を直せます。
Q. アンケートとの使い分けは? A. 課題がまだ言葉になっていない段階はインタビュー、選択肢が固まって量で確かめたい段階はアンケートです。順番としてはインタビューで仮説を作り、アンケートで検証する流れが定石です。
Q. デプスインタビューとの違いは何ですか? A. デプスは1人をより深く掘る非構造寄りの形式で、課題そのものが見えていない探索段階に向きます。「買わない理由は聞いても出ない」という深掘りの実録は別記事に書いています。
Q. ユーザーインタビューの質問例にはどんなものがありますか? A. 「最後に◯◯したときのことを、最初から順番に教えてください」「その中でいちばん面倒だったのはどこですか」「いまはどうやってしのいでいますか」「その悩みにお金や時間を使ったことはありますか」の4本が柱の定番です。どれも過去の事実を聞く形になっています。
Q. やってはいけない質問はありますか? A. 「使いたいですか」「いくらなら払いますか」のような未来の意見を聞く質問と、はい・いいえで終わる質問です。前者は善意の嘘を、後者は情報量ゼロの答えを生みます。時間と行動の錨を入れた形に言い換えます。
Q. インタビューだけで検証は足りますか? A. 足りない場合があります。言葉にならない意思決定は、聞くだけでは出てきません。この記事の実例のように、モックアップを使ったロールプレイングやユーザビリティテストなど、行動を再現する検証と組み合わせるのが実務的です。
Q. グループインタビューと1対1はどちらがよいですか? A. 行動の事実を深く掘るなら1対1です。グループは話題の広がりを見るのに向きますが、他人の前では答えが同調に流れやすく、個人の行動の詳細は掘りにくくなります。目的で使い分けます。
この記事を書いた会社について
アルチェコ(ARCHECO)は、UXデザイン・AI開発・新規事業開発を組み合わせた事業共創スタジオです。この記事の進め方は、自社のプロダクト開発と受託のUX調査で実際に回している型をそのまま書いたものです。調査設計からの伴走は、UX/UIデザインのサービスページをご覧ください。
余談ですが、あの生姜焼きの質問法を覚えてから、我が家の夕飯会議は5分で終わるようになりました。「何がいい?」を捨てて「先週のベストは?」で聞く。家庭も現場も、聞き方が1語変わるだけで、ずいぶん遠くまで行けるものです。
以上です。