
契約形態の話をする前に、そもそも何を外注しようとしているのかから始めます。作るものによって、選ぶべき形が変わるからです。
題材は、社内で使う業務システムの開発を、外部に頼むケースです。受発注の管理システムを想定します。画面は20ほど、既存の在庫システムと会計システムに連携する。期間は8ヶ月、開発は5人程度。
なぜ外に頼むのかというと、社内に作れる人がいないからです。 情報システム部門はありますが、既存システムの運用で手一杯で、新規開発の体制がない。
そして外に頼むとなると、必ず契約の形を選ぶことになります。
「準委任と請負、どちらにしますか」
ここで、なぜ選ばなければならないのかというと、支払いの条件と、うまくいかなかったときの責任の所在が変わるからです。 同じ8ヶ月、同じ5人でも、契約の形が違えば、途中で仕様が変わったときに起きることが変わります。
先に、その2つを一行で。
準委任契約とは、成果物の完成ではなく、業務を遂行すること自体を引き受ける契約です。対する請負契約は、成果物を完成させて引き渡す義務を負います。違いは「完成責任があるかどうか」の一点で、そこから支払いの条件も、途中でやめたときの扱いも分かれます。
なお、実務でよく聞く「業務委託契約」という呼び名がありますが、この契約類型は民法に存在しません。 中身が請負なのか準委任なのかは、契約書のタイトルではなく条文で決まります。ここは毎回もめるので、先に確認しておいたほうがいいです。
前置きはさておき、本題に入ります。
今日は、この二択を教科書どおりに選んで、途中で行き詰まるまでの話をしていこうと思います。
① 教科書どおりに、二択から選ぶ

まず、整理を正確に置いておきます。どちらも、民法に条文があります。
請負契約は、民法632条です。「仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払う」と書かれています。債務は完成することなので、完成しなければ報酬を請求できません。逆に言えば、どれだけ時間がかかっても、約束したものが出来上がれば金額は変わらない。
準委任契約は、民法656条です。条文自体は短く、法律行為でない事務の委託に委任の規定を準用する、とだけ定めています。その準用先の644条が、「善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務を課します。注意をもって作業していれば、結果が期待どおりでなくても報酬は発生します。
なお実務では、この2つをまとめて「業務委託契約」と呼ぶことが多いのですが、業務委託という契約類型は民法に存在しません。 中身が請負なのか準委任なのかは、契約書のタイトルではなく条文で決まります。 ここは毎回もめるので、先に確認しておいたほうがいいです。
途中でやめたときの扱いも、条文の側で分かれています。
→ 請負は641条 — 注文者は完成前なら「いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」
→ 準委任は651条1項 — 「委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる」
やめられること自体は同じですが、請負のほうには損害の賠償が解除の条件として付いています。
ただ、2020年4月1日に施行された改正民法で、途中で終わったときの報酬に中間の段が入りました。請負では634条が新設され、可分な部分の給付で注文者が利益を受けるなら、その部分を仕事の完成とみなして、利益の割合に応じた報酬を請求できます。 準委任にも648条3項に、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できると書かれています。「完成か、ゼロか」の間に、割合という段が用意されたわけです。
同じ改正で、準委任そのものが2つに分かれました。 648条の2が新設され、成果に対して報酬を払う「成果完成型」が明文化されています。従来どおり事務処理の労務に対して払う「履行割合型」と合わせて、準委任は2類型になりました。成果完成型では634条が準用されるので、途中で終わったときの扱いは請負に近づきます。
つまり「準委任=時間で払う」は、改正後は正確ではありません。 ここは後で効いてきます。
この改正では、不具合の通知期間も変わりました。改正前の637条は原則が「引渡しから1年」で、建物や土地の工作物には5年または10年という特則が付いていました。改正後は目的物の種類を問わず、「不適合を知った時から1年以内に通知」へ統一されています。
使い分けは、こう教わります。
→ 作るものが確定している → 請負。金額が固定でき、完成しなければ払わなくていい
→ 作りながら決めたい → 準委任。仕様変更のたびに再見積もりをしなくて済む
今回は、業務システムです。画面数も、連携先も、だいたい決まっています。 だから請負を選びました。金額が確定するほうが、社内の承認も通りやすい。
教科書どおりです。
② 4ヶ月目に、仕様が変わる

開発は順調に進みました。そして4ヶ月目に、業務の側で変更が起きます。
承認のルートが1段増えることになりました。 組織変更に伴うもので、システムの都合とは無関係です。ただ、承認フローが1段増えるということは、画面も、通知も、権限も変わります。
ここで、契約が効いてきます。
→ 請負なので、契約時に合意した成果物の範囲が確定している
→ 承認1段の追加は、その範囲の外
→ 追加見積もりの話になる
見積もりが出てきました。作業量としては数日です。 ところが、契約変更の手続きに2週間かかりました。稟議を回し、覚書を交わし、押印して、ようやく着手できる。
開発は3日、手続きは2週間。
そして、この変更は1回では終わりませんでした。半年のあいだに、4回起きています。 そのたびに同じ往復が発生します。
③ では、準委任にすればよかったのか

「最初から準委任にしておけば、変更のたびの手続きは要らなかった」——そう考えるのが自然です。
ところが、準委任には別の問題が出ます。
ここで選ぶ準委任は、履行割合型のほうです。つまり、かかった時間の分だけ払う。 これは変更に強い一方で、社内では通しにくい。
→ 総額が確定しないので、予算の枠が取りにくい
→ 「いくらで終わるのか」に答えられないので、決裁が止まる
→ そして進行中に「思ったより工数が」となると、発注側が全部かぶる
つまり、二択のどちらを選んでも、片方の問題が必ず残ります。
→ 請負 = 変更に弱い。スコープのリスクを受注側が持つ代わりに、変更が全部再交渉になる
→ 準委任 = 予算に弱い。コストのリスクを発注側が持つ
そして、この二択には共通の前提があります。
④ 二択が前提にしていたもの

どちらも、「時間の量」を価値の根拠にしています。
請負の金額は、内部では工数で見積もられます。履行割合型の準委任は、そのまま工数課金です。呼び方が違うだけで、根っこにあるのは「何人が何ヶ月かかるか」という同じ数字です。
成果完成型の準委任は、この点で例外に見えます。ただし成果の定義を書けなければ選べないので、仕様が動く案件では結局この2つに戻ってきます。
この前提は、工数とコストが比例していたから成立していました。同じものを作るなら、同じくらいの時間がかかる。だから時間を数えれば、価値が測れた。
AIで、その比例が崩れました。
崩れ方が厄介なのは、一様に崩れていないことです。
→ AIの流儀に合う仕事は、数時間で終わります
→ 合わない仕事は、従来どおりかかります
→ そして、どちらになるかはやってみるまで分かりません
同じ規模の機能が、片方は3日、片方は3週間。見積書の上では同じ行なのに、実際の所要時間が桁で違う。 ここで、工数を根拠にした金額が意味を失います。
さらに、受注側にとっては構造的に不利になります。
→ 準委任では、工数が減った分だけ売上が減る。速く作るほど損をする
→ 請負では成果物単位なので金額を据え置けるはずですが、発注側もAIの生産性を知っているので値下げ圧力がかかる
どちらを選んでも、「時間を売る」構造から逃げられていません。
⑤ 二択の外に、3つある

契約形態を「名前」で並べるとバラバラに見えますが、「リスクを誰がいつ取るか」の軸で並べると1本の線になります。
| 形態 | 費用を先に出すのは | 報酬が決まる時点 | 発注側が持つ意思決定 |
|---|---|---|---|
| 請負 | 発注側 | 契約時(完成で確定) | 仕様まで |
| 準委任(履行割合型) | 発注側 | 契約時(工数で確定) | 仕様と進め方 |
| 準委任(成果完成型) | 発注側 | 契約時(成果で確定) | 仕様と進め方 |
| ラボ型 | 発注側 | 契約時(期間で確定) | 何を作るかを含む全部 |
| 成果連動 | 主に作る側 | 事業が利益を出した後 | 共同 |
| 合弁 | 双方が出資 | 配当・持分 | 共同(会社として) |
上から下へ行くほど、作る側が前倒しでリスクを取り、代わりに事業の意思決定に入っていきます。
ラボ型開発
一定期間、専任のチームを確保する形です。仕様を先に固めずに始められるので、要件が動く案件と相性が良い。
注意点が1つあります。 ラボ型は、発注側に「何を作るかを決める能力」があることを前提にしています。決められないままラボを回すと、優秀なチームが毎日待機している状態に金を払うことになります。
成果連動型
作る側が先に作り、先に払う。事業が利益を出したら分配する。
これを「安く作らせる方法」だと思って選ぶと、必ず失敗します。成果連動は、作る側が事業の意思決定に関与できることとセットでなければ成立しないからです。関与させずに成果だけ連動させると、作る側は自分で動かせない変数に報酬を賭けることになる。合理的な判断として、手を抜きます。
実務では、さらに条項が付くことがあります。ある共創案件で提示された形は、こうでした。
→ 無償保証(引き渡し後の一定期間、不具合は無償で直す)
→ サービス譲渡の確約(育った事業を、約束した条件で渡す)
→ 採用代行(渡したあと運営できる人を、こちらで採って引き継ぐ)
渡す約束をするから、渡せる状態まで作る責任が生まれる。 受託が「納品したら終わり」なのに対して、こちらは「運営が回り始めるまで終わらない」。
合弁
双方が資本を出して事業体を共同設立する形です。ここまで来ると、契約というより会社をひとつ作る話になります。
→ 誰が代表を出すか
→ 知的財産は、どちらに帰属するか
→ どちらかが抜けたいと言い出したとき、どう解散するか
3つ目が、いちばん揉めます。 始めるときの条件より、終わるときの条件のほうが難しい。そして始めるときは、誰も終わりの話をしたがりません。
⑥ あとで知った — 軸は「リスク配分」だった

素朴な整理のつもりでしたが、調べるとこの軸が、そのまま国際的な整理になっていました。
「本質的な差はリスクの配分にある。固定価格はスコープのリスクを提供側に置き、実費精算はコストのリスクを顧客側に置く」。
僕が「誰がどのリスクをいつ取るか」で並べ替えたものは、すでに契約形態を比較する標準の軸でした。
そして、主要な契約モデルは3つとして整理されています。
→ 実費精算(Time and Materials)
→ 固定価格(Fixed Price)
→ 成果連動(Outcome-Based Contracts)
二択ではなく、三択が標準でした。日本の実務で「準委任か請負か」の二択に見えているのは、3つ目が定着していないだけです。
さらに、その中間形も報告されています。「パートナーに良い成果への共同責任を持たせつつ、革新の機会も与える」という考え方から、固定のコスト基盤でアジャイルのスプリントを調達する方法が生まれた、と。
「変更に強い」と「総額が読める」を両立させようとする試みは、すでに走っているわけです。
ただし正直に書いておくと、成果連動や合弁は、どこでも使える形ではありません。 発注側が事業の意思決定を共有できることが前提で、それは組織として重い判断です。「安くなるから」で選ぶ形態ではありません。
新しい理屈は、ひとつも要りませんでした。
⑦ 成果連動を選ぶと、契約書で固めるものが入れ替わる

ここから先は、二択の外へ出たときの話です。
ある共創案件で、成果連動の契約を結びました。そして、分配率の話は一度も揉めていません。 揉めたのは全部、その手前でした。
契約書で固める対象が、分配率から「利益の定義」へ移ります。
揉めた3つは、どれも率ではなく定義の話でした。粗利を分配するのか再投資に回すのか(分配率が決まっていても、原資を作らないと合意すれば受取額は動く)。どちら側の人件費を、どちら側に付けるか(作業量は1ミリも変わらず、費用の付け場所が変わるだけで分配できる粗利が増える)。設備の支払いを、どの年度に乗せるか(総額は変わらない)。
そのうえ、分配対象の利益がそもそも存在しない年があります。 単年度で評価すれば毎年もめるので、3年ないし5年のトータルで見るという合意も別途要りました。
分配率を何%にするかは、30分で決まります。上の3つは、3ヶ月かかりました。
理由は単純で、この3つは契約の話ではなく、相手の社内制度の話だからです。だから交渉の場では決まりません。持ち帰って、社内で確認して、また戻ってくる。往復するたびに数週間が消えます。
契約形態の選択は、ここまで含めて選ぶものです。 成果連動を選ぶというのは、相手の社内制度と往復する時間を工程に入れる、ということでもあります。
⑧ 現場で使うなら、この選定シート

表1:形態を決める5問
| 問い | はい → | いいえ → |
|---|---|---|
| 1. 作るものが確定しているか | 請負 | 次へ |
| 2. 何を作るかを、発注側が決められるか | 次へ | 準委任(決める人を借りる) |
| 3. 期間を区切って専任チームを確保したいか | ラボ型 | 次へ |
| 4. 事業の意思決定を、作る側と共有できるか | 次へ | 準委任またはラボ型 |
| 5. 資本を出し合う用意があるか | 合弁 | 成果連動 |
4問目が分岐点です。 ここに「いいえ」なら、成果連動は選べません。関与させずに成果だけ連動させる契約は、必ず崩れます。
表2:成果連動を選んだときに、先に固める3つ
| 固めるもの | 具体的に決めること | 決まらないと |
|---|---|---|
| 利益の定義 | 何を売上に計上し、何を費用として引くか | 受け取り額が相手の裁量で動く |
| 費用の帰属 | どちらの人件費・間接費を、どちら側に付けるか | 付け替えで利益が消える |
| 計上の時期 | 設備・リースの支払いを、いつから始めるか | 年度をまたいで数字が動く |
この3つが空白のまま分配率だけ決めた契約書は、精算の日に何も守ってくれません。
表3:発注側が、交渉の前に自社で確認しておくこと
→ この事業の粗利は、どの部署に立つのか
→ 人件費の付け替えは可能なのか
→ 支払いの年度をずらす裁量は、誰にあるのか
この3つを持って交渉に来る発注者は、ほとんどいません。 そして、持ってくる発注者との仕事は、驚くほど速く進みます。
⑨ この見方が効き続ける理由

契約形態が増えたのは、法務が親切になったからではありません。作る側の生産コストが崩れたからです。
工数とコストが比例していた時代は、時間を売れば成立しました。だから二択で足りた。工数が減っても価値が減らない時代になると、時間を売る契約は、速くなるほど損をする構造になります。
そこから逃げるには、売るものを時間から成果に変えるしかない。成果を売るなら、成果に影響する意思決定に関与する必要がある。関与するなら、リスクも前倒しで取ることになる。成果連動や合弁は、その必然の行き着く先であって、流行りのスキームではありません。
だから発注側も、選び方が変わります。「どの契約が安全か」ではなく、「この事業のリスクを、どこまで分けたいか」から入る。そこが決まれば、契約の名前は自動的に決まります。
そして、この軸は技術が変わっても変わりません。リスクの配分は、AIが来ても、その次が来ても、同じ枠組みのままです。
ちなみに、契約書の条文で毎回つまずくのは「甲は乙に対し」のところです。
甲が誰で乙が誰かを確認するために、1ページ目に戻る。戻ったついでに別の条項を読んでしまって、また戻ってこられなくなる。
最近は、契約書の余白に「甲=うち」と鉛筆で書くことにしています。 原始的ですが、これがいちばん効きました。
以上です。