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2025.4.16.WED

新規事業に向いてる人材とは?共通する能力はたった一つだった

新規事業に向いてる人材とは?共通する能力はたった一つだった

いま、仕事の都合でマルタ共和国に住んでいます。八王子市くらいの広さしかない島です。

来たばかりのころ、愚痴の材料はいくらでもありました。 島は狭く、古着屋も少なく、知り合いもいない。食べるものも合わない。

「置かれた環境に対して愚痴をこぼすこと以上に簡単なことはありません」。

先に一行だけ置きます。新規事業に向いている人材とは、理不尽や無理難題に直面したときに、心の底からやりたかったことだと自分を上手に騙せる人です。

僕は15名ほどの会社を10年やっています。大企業と組んで新規事業を作る仕事で、採用も配置も自分でやってきました。

今日は、主体性でもロジカルさでもなく、そこだけが残ったという話をしていこうと思います。

前置きはさておき、本題に入ります。

① よく挙がる条件を、まず並べてみる

① よく挙がる条件を、まず並べてみる

新規事業に向いている人材を語るとき、条件はいくらでも出てきます。

主体的な人。自分ごと化できる人。暗黙の前提を問える人。勢いのある若手。論理的に考えられる人。どれも、外れてはいません。

ただ、これらを基準に採用して配置した結果を10年見てきて、残ったのは別のものでした。

「理不尽や無理難題に直面した時に、心の底からやりたかったことだと自分を上手に騙せる人」。 これだけです。

言い換えると、「嫌いなことややりたくないことを好きになるのが上手い人」 ということになります。

② 得意なやり方が、最適ではなくなる日が来る

② 得意なやり方が、最適ではなくなる日が来る

具体的な場面で書きます。

たとえば、デジタル領域の集客を5年ほど専門にしてきた人がいます。その手法で顧客を集めようとして、施策を始める。ところが 「顧客との相性や環境を鑑みて、ドアノックしたり荷電によるドブ板営業の方が相性が良い」 と分かった。開始から30日ほどで、そうなります。

このとき、机に向かう手法にこだわり続けることは、事業における最適解ではなくなります。

しかし顧客獲得という課題は、手法が変わっても消えません。残り続けます。

つまりその人は、長年かけて高いモチベーションで深めてきた専門と、違う分野に向き合うことになります。 5年分の蓄積が、その1件では効きません。

③ 代役が、そもそも存在しない

③ 代役が、そもそも存在しない

体系化と組織化が進んだ会社なら、別の部署に相談してチームを組み直せばいい。

ただ、新規事業ではそれができません。

理由は2件あります。1件目は「新規事業においては専門性ベースではなく、ミッションベースでアサインされることが多い」 からです。そのため、10名のチームでも代わりの人はほとんどいません。

2件目は、初期のチームが生ものだからです。 構想の段階からいるメンバーや、意思を持って入った人を、専門が違うという理由だけで交代させると、チームそのものが成立しなくなります。 3名しかいない体制では、1名の交代が全部を壊します。

結果として、不得意なことや難しいことに直面したまま、高いモチベーションを保って最高の成果を出すことが求められます。

④ 適材適所という言葉が、成り立たない時期

④ 適材適所という言葉が、成り立たない時期

こういうことを書くと、適材適所ではない配置が人を不幸にする、という指摘が来ます。

それは正しい指摘です。 ただ、時間の流れを入れると話が変わります。

さっきの例で、足で回る営業をやると決めたとします。その7日後には、法人向けの拡大戦略に切り替わって、営業の相手が変わるかもしれません。 そして1か月後には、またデジタル施策が最適になっているかもしれない。

「その時に最適なことが変化するのが新規事業の初期フェーズ」 です。3か月で3回変わることもあります。

「その度に誰かのモチベーションや専門性に配慮している余裕なんてありません」。 正直なところ、「モチベーションくらいなんに対してでも持てよ」 と言いたくなります。

⑤ 採用でモチベーションを合わせても、意味がなかった

⑤ 採用でモチベーションを合わせても、意味がなかった

始めたころは、モチベーションのミスマッチは起こりうるものだと考えていました。だから採用の時点で合わせようとして、面談を3回重ねたこともあります。

そうではありませんでした。

「モチベーションがマッチした状態で採用しても、プロジェクトがモチベーションとミスマッチするように変化していく」。 それが新規事業だと分かってから、入口で合わせようとするのをやめました。6か月あれば、仕事の中身は別物になります。

机に向かって仕事をしたい人が、体力勝負の仕事になる。職人として一人で手を動かしたい人が、人を育てながらチームを作ることになる。論理的に考えたい人が、考えるより先に動くことを求められる。

「結構多くの人が病みます」。 体感では、10名のうち6名から7名がここで止まります。

一方で、病まずに続けられる人がいます。その人たちに共通していたのは一つでした。「やりたくないことにモチベーションを持ち続ける能力がすごく高い」。

⑥ 島で試したこと

⑥ 島で試したこと

話が飛ぶようですが、冒頭のマルタに戻ります。

住み慣れた環境でなくなることで、モチベーションを失うのは簡単です。これは、専門外のことを無理やりやらされている状況とよく似ています。

そこで自分に何をしたかというと、置かれた状況を好きになる理由を、無理やり作りました。

前から釣りをやってみたかったのだから、海釣りを始める最高の機会だと考える。料理は一度もしたことがなかったが、島の食材で日本食を作るのは課題を解くようで楽しいと考える。服の買い先が分からないなら、感じのいい人に話しかけて聞けば英語も上達すると考える。

冷静になると、自分の性格ではないし、しんどい。 それでも理由をつけて、好きになろうとします。

そして騙し始めた初期に、しんどいと自覚したら、必要以上に「いま成長できている」「この部分は得をしている」と繰り返し言い聞かせます。 自己暗示です。

そうすると、いつの間にか本当に好きになっていて、得意なことに変わっています。

実際、島に来て10か月ほどで釣りは相当うまくなり、週末に作り置きをするのが楽しみになり、好きな服の方向まで変わりました。

⑦ 深く騙されると、境目が分からなくなる

⑦ 深く騙されると、境目が分からなくなる

ここは正直に書いておきます。

深く自分を騙した結果、本当はやりたくなかったのかどうかが、時々分からなくなります。

自分が本当にやりたいことは何だったのか。その手応えが薄くなるのは、少し怖い状態です。

とはいえ、理不尽や無理難題とは明るく向き合えています。代わりに手放したものがある、というだけの話だと思っています。

⑧ 仕組みに落とすと、どうなるか

⑧ 仕組みに落とすと、どうなるか

こういう話をすると、過酷な会社という言葉がちらつきます。

ただ、新規事業をやろうとしているなら、その線引きを先に考えた時点で負けます。「理不尽とか、無理難題とか、モチベーションが持てないとか言う人は、その時点で新規事業に向いていない」 と考えています。

これを個人の気合いではなく、組織の仕組みに落とす方法があります。

理不尽や無理難題に対して、合理的にそれを好んで向き合えるルールを作ることです。

報酬でも、裁量の広さでも、何でも構いません。理不尽に直面した人が、少しでも前向きにそれを捉えて好きになれるための一押しを、制度として用意する。 手当を数万円足すだけでも、受け取り方は変わります。少なくとも2件、目に見える形で用意しておくべきだと思っています。

用意しない組織では、その能力を持っている人から先に抜けていきます。 一番損な役回りを引き受けているのが、その人たちだからです。10年やって、この抜け方は3回見ました。

だから僕は、「明るいブラック企業こそが最強に新規事業が強い会社だ」 と思っています。時代に逆行した持論であることは承知しています。

運用では、次の5件に名前を付けて配りました。名前が付くと、会議の中で指差せるようになります。

1件目、「向いている人は、嫌なことを好きになるのが上手い」。 能力の話ではなく、変換の速さの話です。同じ状況を渡しても、10名のうち3名は7日で別の見方に立て直します。

2件目、「モチベーションは、入口では合わせられない」。 採用時に一致させても、仕事の側が6か月で別物になります。合わせた状態は保存できません。

3件目、「合わせるのは人ではなく、仕組みの側」。 理不尽が来ること自体は変えられません。来たときに何を返すかは決められます。

4件目、「理不尽に向き合う人に、目に見える一押しを返す」。 報酬でも裁量でも構いません。何も返さない組織では、この能力を持つ人から先に抜けます。

5件目、「代役がいない前提で、チームを組む」。 専門で組むと、最適が変わるたびに崩れます。3名の体制なら、1名の交代が全部を壊します。

この5件は、1枚に印刷して配れる分量に収めています。増やすと、誰も覚えません。

⑨ 見極めるための、たった1件の質問

⑨ 見極めるための、たった1件の質問

採用や配置で使っている見方を、1件だけ書いておきます。

経歴でも志望動機でもなく、「これまでで一番やりたくなかった仕事を、どう処理したか」 を聞きます。

我慢した、と答える人は続きません。環境を変えた、と答える人も、初期フェーズでは苦しくなります。 変える先が存在しないからです。

続く人は、そのとき何を面白いことにしたかを、具体的に話します。 話の中に、自分を騙した跡が残っています。

この判断を実際の案件で使う場面については、新規事業コンサルとMVP・PoCのページに整理しています。

島に来た日のことを、まだ覚えています。

古着屋がない、知り合いがいない、食べるものが合わない。 数え上げた条件は、いまも一つも変わっていません。

明日は4時間後に海釣りが始まるので、そろそろ寝ます。変わったのは、島ではありませんでした。

以上です。

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アークチャンネルは、新規事業開発の実践者たちが好き勝手喋るVTRの内容を、スタートアップスタジオの先輩社員の神谷と、大学生インターンの五十嵐がゆるく、まじめに掘り下げていくトーク番組です。\n\n・大企業特有の「新規事業の闇」\n・スタートアップの人材採用や育成の舞台裏\n・AI時代ならではの企画ノウハウ\nなど、『そこまで言っていいんかい!』な新規事業のリアルに切り込みます。