

子どもに「パパの仕事はなに」と聞かれて、うまく答えられなかったことがあります。
コンサルタント、と言いかけて止めました。その言葉で伝わる像が、自分のやっていることと違う気がしたからです。
かといって、何が違うのかを短く言えませんでした。説明できないまま、10年が過ぎていました。
先に一行だけ置きます。新規事業コンサルとは、事業の立ち上げを外部から支援する仕事です。市場を調べ、企画を作り、検証を設計し、体制を組む。そこまでを請け負います。
僕は15名ほどの会社を10年やっています。大企業と組んで新規事業を作る仕事です。つまり、これから書くことの当事者側にいます。
今日は、大企業もコンサルも、新規事業には構造的に向いていないという話をしていこうと思います。
前置きはさておき、本題に入ります。

まず人の配置です。
企業は、いま売上が立っている事業に主力を置きます。「主力人材は既存で売上が立っている事業に当てられる」。 これは判断として間違っていません。売上のある側を守るのは当然です。10名の部署から新規事業へ出るのは、多くて2名です。
ただ、結果として起きることは決まっています。「新規事業は人数も少ないし、主力ではないことが多い」。 二番手の人員と、少ない頭数が割り当てられます。
しかもこれは、採用の段階から始まっています。大企業を受ける人は、既存事業の認知でその会社を選んでいます。 つまり入口の時点で、ゼロから何かを起こしたい人はほとんど混ざっていません。

「新規事業をやるということは型を破る事に等しい」。 この一行が、以降の全部を決めています。
ところが、創業から50年を超えるような企業ほどそれは評価されにくい。資産とやり方を継承しようとする経営陣がいるとき、社内には保守の圧力がかかります。「大企業で評価されたい人は縮こまり方にハマってしまう」 ということが起きます。3年ごとに評価される立場なら、なおさらです。
これは経営陣だけの問題でもありません。長く続く企業に価値を見出す日本の株式市場では、株主の側も保守的な経営を評価します。評価される人が保守的なら、その上に立つ人も保守的にふるまいます。
本来は、型を破れる人材が新規事業をやるべきです。「イノベーティブな人材が新規事業をやるべきだが、オペレーティブな人材に対して魅力的なのが大企業」。 つまり、来てほしい人と来る人が逆になっています。会社の仕組みを内側から使い倒そうとする野心的な人は、出る杭として打たれ、機会を与えられにくい。

ここが一番はっきりしています。
新規事業では、新しく見つかった優先度の高い投資へ、すぐに舵を切ることが求められます。ところが大企業の予算は、1年前に上申して決裁された枠です。
途中で間違いに気づいても、「一年前に上申して決裁されたことを覆して予算政策を行うのは大きな苦労がつきまとう」。 決裁済みの計画を覆すには、稟議だけで数十日かかります。身軽なスタートアップにはこの労力が存在しません。軽いガバナンスの中で、その場で合理的に方向を変えられます。
つまり、同じ間違いに同じ日に気づいても、動き出せる日が数十日ずれます。
とはいえ、大企業が特別ルールを増やせば済む話でもありません。例外を作りすぎると既存事業に悪影響が出ます。 全社に一様なガバナンスを効かせている以上、ここは簡単に緩められない。
もう一つ、既存事業との関係があります。新規事業を考えていく過程で、既存事業と似て見えることをやると社内で衝突が起きます。 協力してアセットを使えれば最善です。しかし実際には 「競合他社よりも大きな敵として既存事業が立ちはだかる」 ことが何度もあります。

大企業で新規事業をやるとき、最も大きな壁はここでした。
説明責任を果たす相手が、新規事業の素人であることが多い。
創業者が現役ならまだ違います。「大企業には新規事業のスペシャリストなんていない」。 3万名の会社でも、そこは変わりません。そして厄介なのは、専門家に見える人が採用されてしまうことです。
実際に成功しきった人は、わざわざ企業に属しません。そのため、経歴を渡り歩いて作られた「新規事業経験者」が、評価者の席に座ることが起きます。
そういう人が新規事業をどう評価するか。「無責任に背中を押してくれればまだ良いが、ネガティブなフィードバックをして自分が転ばぬ先の杖を演じる」。 止めた側は、何も失いません。
そうすると何が起きるか。「あの人がいなければ危なかった」という印象が組織に残ります。 自分の存在感が上がるわけです。止めた事業が実際どうなったかは、誰にも確かめられません。

意外に思われるところです。
スタートアップのほうが金がない印象があると思います。実は逆でした。「新規事業になると途端に大企業は貧乏になります」。 とくに現場から生まれてきた企画に対しては 「アルバイトの学生ぐらい金がない」 状態になります。1年で数百万円という枠が普通に出てきます。
理由は簡単で、先が読めないものに大金を投じる仕組みが社内にないからです。
だから社内で資金を取りにいく人は、先が読めたふりを演じることになります。 そうやって組み立てられた計画に対して予算を出す側も、心のどこかで気づいています。半分気づきながら出すので、金額は控えめになります。
一方でスタートアップは違います。とにかくもがくための金をくれ、と言って許されるフェーズが確実にあります。 投資家の側も、資金が尽きれば回収できなくなるだけなので、不確実なものにガバナンスを効かせた上で出します。
結果として、金を持っている大企業の中で新規事業をやるほうが、調達に成功したスタートアップより貧乏になります。

ここからはコンサルの側です。
コンサル会社にとっての成功は、高い単価で、少ない労働力で、長く売上を立てることです。その行動原理を持った人が新規事業をやるとどうなるか。
「高い給料で、できる限り働かず、タスクを長期化させる社員ということになる」。 3か月で終わる仕事が、12か月に伸びます。
「新規事業においては、効率性よりも活動量が求められる」。 何度も試して、何度も外して、そこからしか生まれません。 賢く見えるのは資金調達の場で語る未来の話だけで、いま動いていないチームに先はない。
この矛盾を感じさせない絶妙なバランスを保てる人が、新規事業における優れたコンサルなのだと思います。ただしそれは、構造に逆らって個人が踏ん張っているという意味です。

コンサルを入れるということは、外部の客観的な視点を入れる行為です。
しかし事業を動かすのは、主体的で主観的な視点です。「客観的な視点はヒントにしかならない」。 ヒントを受け取ってゴールまで運べるのは、自分ごととして動ける当事者だけです。
そのため、コンサルは時として無責任な評論家になります。その正論が気づきを与えるならいい。ただ、推進している当事者からすると、正しい指摘がチームの勢いを下げることがあります。
そしてもう一つ。コンサルは答えを知っている専門家として扱われます。 しかし新規事業の勝ち方を本当に分かっている人が、どれだけいるでしょうか。
勝ち方の虎の巻を持っているなら、自分で事業をやったほうがいい。契約金がどれだけ高くても、事業をスケールさせられる能力があるなら、そちらのほうが儲かります。 実際にやらないということは、答えを持っていないということです。
「コンサルが売っているのは、アサインしたら勝てそうな雰囲気でしかない」。 高い水晶やお札と、効果の出方は変わりません。
試してみる方法があります。成功したときにだけ、契約額の2倍を支払う条件を提示してみてください。ほとんどの場合、相手は通常の受託契約を望みます。それは自信のなさの表れです。

コンサルが売る「勝てそうな雰囲気」を分解すると、合理的なロジックになります。
生成AIに置き換えられない領域で勝負すべきだ。立ち上げ初期には熱狂的な支持者を獲得すべきだ。ビジョンから分解してミッションとバリューに落とすべきだ。どれも正しく、どれも当事者が身をもって気づかなければ意味がありません。
学歴がないと収入の高い仕事に就けない、と教師が言葉で伝えるのに近い。本当の学びは、自分で応募して資格がないと知った先にあります。初期に間違いに気づくこと自体が、チームの成果です。
しかしコンサルは、この間違いを許容できません。理由は2件あります。
1件目は、炎上が売上を最も悪化させるからです。 準委任で受けている以上、決めた作業を実行して初めて請求できます。途中で前提が崩れて当初の工程に意味がなくなると、納品ができない。請求できないまま稼働だけが続きます。「一件の炎上は、コンサル業を破綻させる最も大きなリスク」 です。60日タダ働きすれば、その案件の利益は消えます。
だから契約時に、絶対に辿り着ける、勝ち負けの生じないゴールが置かれます。戦略は立てるが実行の結果には責任を持たない。プロセスは実行するが指標の達成には責任を持たない。正解も間違いもない案件に仕立てられます。
そのプロセスに乗って進んでも、間違いに気づく人は現れません。しかも責任を問われないよう、うまくいっているように演出されます。
2件目は、間違いが学びに変換されないからです。 人は自分以外に原因を求めがちです。進める過程で誰かが間違いに気づいたとき、プロセスのせい、やり方のせい、会社のせいにしたくなる。伴走者がいれば、その人のせいにするのが最も苦しくない逃げ道になります。
学びともがきに新規事業の本質を見出している人は、デザイナーやエンジニアと組むことはあっても、そもそもコンサルを求めません。

大手のファームと組むと、ユニコーン企業の役員、上場の経験者、大企業の役職者という経歴に出会います。
ただ、その経歴をそのまま受け取ってはいけません。本当に株主として深く成功に貢献していたなら、その人は資産を持っています。
資産のある人が、他人の事業のために最後まで責任を負えない立場に身を置く理由は、多くありません。僕は上場の経験もなく、年商も7億円ほどの小さな会社しかやっていませんが、それでも10年やれば見えるものがあります。周りにいる成功者は、次の挑戦に移るか、投資家になるか、まったく別の道に入っています。「誰もコンサルにはならない」 というのが、10年見てきた実感です。
この仕事は、やりがいではなくキャリアと収入で選ばれます。 だから資産を持った人が就く必要はない。それなのに紹介ページには華やかな経歴が並ぶ。ここが、この業界の分かりにくいところです。

自分がコンサル会社をやりながら書いているので、身も蓋もありません。ただ、抜け道は単純です。
1件目、大企業は別会社を立てること。 既存事業と既存のルール、年度予算の制約から完全に切り離し、新しいルールと人材だけで動かせる箱を作る。例外を社内に増やすのではなく、外に出す。
2件目、コンサルは成功しなければ儲からない契約にすること。 成果に応じた分配や、株式で受け取る形に寄せる。そうすれば、長引かせる動機がなくなります。
僕の会社はこの2件目を選びました。成功しなければ収益が上がらないので、全員がひりひりしています。 その点はかなり過酷ですが、構造としてはこれしか思いつきませんでした。
詳細まで書くと8時間かかるので、ここまでにします。
関連して、事業計画が投資ではなく費用に見える話を別に書いています。
この判断を実際の案件で使う場面については、新規事業コンサルとMVP・PoCのページに整理しています。
子どもの質問に戻ります。
あのとき答えられなかったのは、同じ名前で呼ばれる仕事の中に、逆を向いたものが混ざっているからでした。
いつか子どもが働くようになって、この構造に気づく日が来ます。そのとき僕がもういなくて、やっていたことが同じものだと思われるのが、耐えられませんでした。
だから、書いておくことにしました。
以上です。
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