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2025.8.22.FRI

リーンスタートアップとは?大企業が多産全死になる本当の理由

リーンスタートアップとは?大企業が多産全死になる本当の理由

会社を作るとき、昭和の強い会社に憧れていました。

分煙などせず、全室喫煙可にしてやろうと思っていた。体調が悪くなるので、やめました。

いまオフィスで吸っているのはシーシャです。中途半端な昭和に憧れて、令和に着地しました。

先に一行だけ置きます。リーンスタートアップとは、小さく始めて早く確かめ、外れたら方向を変える進め方のことです。

僕は15名ほど、売上高7億円ほどのコンサルファームを10年やっています。大企業と組んで新規事業を作る仕事です。

今日は、そのやり方を取り入れた大企業が、なぜ全部死ぬのかという話をしていこうと思います。

前置きはさておき、本題に入ります。

① 教科書どおりに、小さく始める

① 教科書どおりに、小さく始める

まず、意外に思われるところから書きます。

「PoCをやりましょうとなった時に、振るい落とされる新規事業は実はそんなにありません」。 30件見て、企画段階で止まったのは2件でした。

多くの人が、MVPやPoCまでは通しています。「大企業の事業における厳しい投資判断の目を、リーンスタートアップやスモールスタートという概念により掻い潜ることに成功した」。 これが要因です。

理由ははっきりしています。小さく始めてもがいて成功したスタートアップの事例にならい、「小さく始められた方が撤退時にダメージが小さい」という側面に焦点が当たった。だから 「大企業でも小さく始める分には積極的に始めて良い」 という多産多死の文化が入りました。1年で20件超が起案される会社もあります。

始めることは、簡単になりました。

② そのとおりに進めて、多産全死になる

② そのとおりに進めて、多産全死になる

ところが、結果はこうでした。

ある大企業が新規事業をやるために、外部の会社と組んで100億ほどの資本を入れ、新規事業創出の会社を作りました。年間20〜30本の新規事業を生み出しています。

どちらの会社の人材も、プロダクトアウトはできました。 ここまでは通ります。

しかし、PMFや黒字化まで押し上げる1→10フェーズの死の淵で、漏れなく全滅しました。 その全滅活動に、年間数十億が使われているのを横目で見ていました。

多産多死ではありません。多産全死です。

③ そして、死因が毎回同じだと気づく

③ そして、死因が毎回同じだと気づく

回数を重ねるうちに、はっきりしたことがあります。

→ アイデアは、いろいろ生まれる
→ 死ぬ場所は、毎回同じ
→ 死因も、酷似している

「100回試行して100回死んだ」。 これが実際に出た結果でした。

打率が低いのではありません。打率が0です。 そして0に何を掛けても0のままです。

多産多死なら、確率の問題です。多産全死は、確率の問題ではありません。

④ 原因は「一様さ」だった

④ 原因は「一様さ」だった

原因を一つに絞ると、これでした。

組織が一様であること。

VCと比べると分かります。スタートアップに投資するVCは、ポートフォリオとして多産多死に賭けています。ただ、その多様性という言葉の中身が違います。

アーリーステージのVCは、アイデアではなく人材に投資する傾向があります。つまり担保しているのは、アイデアの多様性ではなく、やり方と人材の多様性です。いろんな経験を積み、いろんな資質を持った人が、いろんなやり方をする。そのうち1%でも上場すればいいというスタンスで賭けています。

大企業は逆です。

「大企業で数年勤めた人たちの経験は、一様になる傾向がある」
→ 採用基準も、人材要件の中で一様になる
→ そして 「インキュベーションプログラムが、やり方まで一様に変えている」

「この一様さが、成功率を1%ではなく0%にしている」。 30件のうち、1→10へ渡ったのは0件でした。

ここを理解するには、経営書より生物のほうが早いかもしれません。「生物は、一部の遺伝子エラーとともに進化する」。 一様な集団からは、突然変異が出ません。出ないものは、選ばれようがない。

⑤ スタジオを作ると、別の一様さが生まれる

⑤ スタジオを作ると、別の一様さが生まれる

対策として広く採られている形があります。外部の組織と合弁を作り、新しい風を入れてスタートアップスタジオを確立する。

ただ、ここに落とし穴があります。

「特定の外部の企業とスタジオを作った瞬間に、これまでと違う文化の一様な組織づくりの一途を辿る」。 風は入りますが、入った風もまた1つの型です。2社で作った組織は、2社ぶんの型しか持ちません。

理屈のうえで正しいのは、「スタジオ化せずに、多くの外部の組織とコラボしまくるモデル」です。多様性は、数と幅でしか担保できません。10社と組めば10通りのやり方が入ります。

「しかしこれは、大企業のガバナンスや企業文化の崩壊につながります」。 だから実際には採れない。ここが厄介なところです。

⑥ あとで知った — 勝つ条件は、リーンの逆だった

⑥ あとで知った — 勝つ条件は、リーンの逆だった

では大企業はどうすればいいか。

「スタートアップに学ばない、リーンじゃないスタートアップをたくさんやること」だと思っています。

勝率を上げる方法は2件あります。

1件目、1→10フェーズをもがくのに十分な予算を投入すること。
アーリーステージのスタートアップが、資金をつないでもがいている期間です。そこを最初から張れるなら、条件が変わります。

2件目、これまで築いたアセットを、しがらみなくフル活用すること。
顧客基盤、販路、技術、信用。スタートアップが何年もかけて作るものを、既に持っています。

これをやられたら、同じ分野のスタートアップに勝ち目はありません。 当たり前のことですが、「結局体力勝負ではスタートアップは大企業に勝てない」からです。

これは、リーンが流行する前への原点回帰に近い。ただし、原点に帰って同じことをしても、うまくいかないのは自明です。 原点に潜んでいた課題と向き合う必要があります。

⑦ なぜ、わざわざ小粒にするのか

⑦ なぜ、わざわざ小粒にするのか

集中して予算を投下すれば財力で圧倒できたはずの大企業が、わざわざスタートアップと同じ土俵に降りてきた。 ここに課題が潜んでいます。

理由は、「目立つ大きな失敗死亡説、小さな失敗0理論」だと考えています。

「本来、大きな予算を確保して、横綱相撲で戦えば勝ちやすかったのに、大きな予算で失敗すると、その責任を問われる」。

大きな失敗は悪目立ちし、キャリアの評価に直結します。だからリーンスタートアップという便利な言葉を使って小粒にし、実質的に勝負していない状態を作る。

起案者の側も、その意向に忖度します。

→ 予算は、過小に申告する
→ 一方でPLは、ストレッチを効かせて大きく見せる
→ 結果、成功すれば大当たり、失敗しても懐が痛まない案件に仕立てられる

これが、0→1における昨今の大企業ハックの主流です。多産多死の顔をした多産全死は、こうして作られました。

⑧ 3年後に死ぬ、2つの理由

⑧ 3年後に死ぬ、2つの理由

このやり方で作られたプロダクトは、たいてい3年で死にます。理由は2件に大別できます。

1件目、ストレッチを効かせた目標PLを達成できない。
説明するまでもありません。最初から届かない数字を置いています。

2件目、資金がショートする。
スモールに始めたので、スケールする段階で本格的な予算を改めて確保しなければなりません。ところが決裁者はスモールだから通しただけで、本気で事業に向き合う気はない。

体質が変わっていないので追加予算は取れず、予算が無いのでインパクトのある成果も出せない。そのまま動けなくなります。

つまり、こうです。

→ 横綱相撲で申請する → 決裁者が引く
→ 小粒にして申請する → 通るが3年で死ぬ

どちらに転んでも失敗しかない。 起案者は、この無理ゲーを突きつけられています。

⑨ 直してみる — 目標は保守的に、予算は大きく

⑨ 直してみる — 目標は保守的に、予算は大きく

ジレンマを抜ける形は2件あります。

1件目、売上目標は保守的に見せて、アセット価値を最大化する。

数字は堅実に置きます。頑張れば達成できる目標にすることで、メンバーの士気も上がり、宣言を達成し続けている限り横槍も入りにくくなります。

そのうえで、その事業で得られる他の価値を強調します。新しい顧客データベース、特許、技術ノウハウ、対外的なブランド認知。経営層には「今すぐ数十億を稼げなくても、社全体にとって有益な資産が増える」という形で、投資として見てもらいます。

そのために、起案の時点で「金をかけてでも解消したい経営課題」と紐づけることを、条件に組み込みます。売上だけを目的にしない。

無理な目標を負うストレスが消え、達成可能な目標が士気を上げ、達成そのものが横槍の防御になるという状態を作ります。

2件目、ステージゲート付きで、大きめの予算を確保する。

一度に大きな予算を決裁します。ただし撤退条件と利用条件を設定し、決裁者に「最悪、逃げられる」心理的安全性を用意します。

そのうえで複数のステージに分割し、「フェーズをクリアできれば自動的に次の投資へ進む」仕組みにします。

ステージゲートというと、インキュベーションの標準化のように受け取られがちです。そうではなく、本来は起案者と経営者の双方にとって安全な投資判断の枠組みです。 成果が出れば自動で次へ進むので、実質的に大きな予算を、安全に確保できます。

⑩ この考え方が効き続ける理由

⑩ この考え方が効き続ける理由

新規事業の手法は、これからも新しい名前に置き換わります。それでも、この構造は残ります。

手法の問題ではなく、一様な集団からは突然変異が出ないという構造と、大きな失敗が個人の評価に跳ね返るという構造の問題だからです。

→ 一様な人材が、一様なやり方で始める → 死因が揃う
→ 大きな失敗は責任問題 → 小粒にする
→ 小粒だから1→10で資金が尽きる → 3年で死ぬ
→ だから、回数を増やすほど損失だけが積み上がる

多産多死のつもりで回している数字が、実は多産全死ではないかを見てください。 死んだフェーズが一箇所に集中していたら、事業ではなく仕組みの問題です。

ただし、正直に書いておきます。「自動的に次の投資へ進む」を完成形で見たことは、まだありません。 ステージを割るところまでは多くの組織がやります。その先の「自動で」が、たいてい骨抜きになる。結局そこで一度、人が判断します。 そこをどう設計しきるかは、解けていません。

この判断を実際の案件で使う場面については、新規事業コンサルとMVP・PoCのページに整理しています。

多様性といえば、うちのオフィスの喫煙室は、結局シーシャ専用になりました。

昭和に憧れて作った部屋に、令和の道具だけが置いてあります。

混ざると、だいたい中途半端になります。 ただ、揃っているよりはましだと思っています。

以上です。

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