UX/UIデザインの最先端の現場で活躍するデザイナーの能力には、大きな変化が現れている。本章ではそれらの変化を交えながら、今後より一層求められるであろう2つの能力の重要性を説明する。その能力とは、タイトルに示した通り、下記の2つである。
- 世界観への期待を創るUIデザイン(WorldViewDesign)
- エクスペリエンサビリティを向上するUXデザイン
UIデザインと、UXデザインの重要性が同じ粒度で語られることに違和感を覚える方もいるかもしれないが、概念的な上位はあれど、ビジネスやサービスの現場ではどちらも欠かすことの出来ない能力である。とりわけスタートアップにおいては、時としてUIデザインの審美性がもっとも重要な強みとなるケースは珍しくない。
そんな時代の変化を踏まえて、まず「世界観への期待を創るUIデザイン」について述べる。
投資判断に不可欠となったUIデザイン
「サービスを疑似体験すること」は企業や投資家の先行開発に対する投資・シードラウンド投資における重要な投資判断として、近年より一層求められる傾向にある。
サービスをつくる上で、UXデザインのフェーズでは、サービス要件が定義されるが、サービスをいくら言語で定義しても、その良し悪しやユーザの受容性を判断する過程において、受け手側による属人的な言語の解釈に大きく依存し、企画中のサービスを疑似体験するというレベルで公正かつ均質に判断することは難しい。
では投資判断のためにサービスを疑似体験するというレベルで理解するために欠かせない要素は何か?その重要な要素の一つがUIデザインである。「投資判断のフェーズでは、UIデザインの品質は重要ではないのではないか?」と考えられがちであるが、それはビジネスやサービスが飽和する前の話である。
近年、数多くのスタートアップによるサービスの台頭により市場には類似のビジネス・サービスが飽和し全く新しいビジネス・サービスモデルは産まれづらい環境にある。
そんな中、結果的に同質のビジネス・サービスモデルでも“成功”するものとそうでないものが必然的に存在する。
その要因として、宣伝・アセットによる集客力・ブランド力など様々なものが挙げられるが、取り分けスタートアップで成功しているサービスの多くが米国のユニコーン企業に倣い、デザインに注力した結果に起因しているように感じる。
ここでいうデザインとは近年ビジネスやサービス領域で“計画”や”思考”に近い意味で使われるデザインではなく、審美性やインパクトを追求し可視化する意味でのデザインである。
後者のデザインは、前者のデザインに比べて、WEBサービス領域(LPなどのコンセプト訴求や広告としてのWEBサイトではなく、いわゆるサービスを利用するためのWEB)では疎かにされがちである。しかし、サービスが溢れ、類似のサービスが数多く存在する市場において、車や家電にデザインが重視されることと同様に、UIは単なる目的を実行するための操作系としての価値だけではなく、審美性やインパクトが重視される時代が到来している。今やスマホアプリはユーザの手元にあるブランドイメージそのものである。
この変化の詳細を、下記のような市場と思考の変化の結果であると考察できる。
近年、サービスが溢れ、必要な情報を取捨選択する機会が激増し、これまで考えられてきた人が消費行動を行う際の、Attention(注意)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→ Action(行動)という反応プロセスに変化が生じた。
情報が溢れたことにより、注意喚起された全ての情報に対して、関心があるかないかを判断するのは、現代のスマホ世代のユーザにとってあまりに非効率であったため、情報の取捨選択時に条件反射のようなモデルで自然とフィルタリング(情報の前捌き)をするようになった。
この変化を一言で言い換えると、その情報が「大雑把に自分に関係あるかないか」を即座に見分けるようになったといえる。大雑把に情報を選別する方法としては、「その情報を与えるソース(サービス)に、自身の求める情報が得られると期待できるかどうか?」という瞬時の判断が大きく影響しているように思う。
同質な情報が数多く存在する中で、情報の本質単体だけでなく、ユーザにあった切り口や与えられ方により、継続的に有用な情報を与えてくれる供給源を確保しようという欲求に根ざした判断である。この論理に基づくと、情報にたどり着く前に、ユーザは取捨選択するのである…。
ユーザの手元にあるブランドイメージそのものであり、また、ユーザに選んでもらうための拠り所となるUIデザインは、投資判断において今や紛れもなく重要な要素なのである。
世界観への期待を創るUIデザインがユーザを獲得する
では、どのようにしてソース(サービス)に期待してもらうか?それこそが、スタートアップの一番の課題である。この課題を解決する方法として、下記のような方向性が挙げられる。
- 信頼できる人・企業・メディアと連携して期待を獲得する
(例:インフルエンサー・親しい人による拡散、大手企業とのタイアップ、すでにブランド力のあるメディアに露出する)
- 仕組みにより期待を獲得する。
(例:AIなどの画期的仕組みを取り入れたサービス提供)
- デザインにより期待を獲得する。
(例:デザイン性の高いUIによるサービス提供、美しい写真によるコンテンツ配信)
優秀なデザイナーが在籍していて、コネクション・資金・技術力のないスタートアップはデザインにより期待を獲得する事に全力を注ぎ、UIをデザインするのである。ユーザに、ソース(サービス)の醸し出す視覚的世界観に期待してもらい、利用開始につなげているのである。その世界観の大部分はUIデザインによって構成されているのである。
それこそが、デザイナーにしかできないソース(サービス)に期待を勝ち取る方法である。
従来の消費行動を行う際のユーザのプロセスと、デザインを起点とした期待獲得モデルを比較すると下記のような図に表すことが出来る。
上述のような顧客プロセスに配慮して、優れたデザインがユーザの期待を勝ち取るケースが米国のユニコーン企業を中心に増え続け、投資判断として顧客との直接的な接点となるUI(WEBやアプリ)のデザイン性の高さが無視できなくなってきたのである。
ここまでの内容だけを踏まえると、優れたUIデザインであればサービスが成功するような誤解を与えかねないが実際はそうではない。ユーザが利用を開始する直前のフェーズではソース(サービス)への期待が重要であるが、その後ユーザに継続利用してもらうためには下記の2点の検討を外すことができない。
・与えられる情報自体の質が担保されているか?
・エクスペンサビリティを確保出来ているか?
前者はコンテンツの品質に依存するため、次の記事更新のタイミングでエクスペンサビリティにフォーカスして記載させていただく。
エクスペリエンサビリティと聞いて、ピンとくる人はあまりいないのではないか?エクスペリエンサビリティという言葉は株式会社ARCHECOが社内で活用している言葉である。
エクスペリエンサビリティという概念を理解し確立する術を身につけることで、UXデザインをサービスへと落とし込む際の検討漏れを大きく削減することができる。