昨今、UXデザインという言葉に大きな注目が集まっています。しかし、言葉ばかりが独り歩きして、本質的な意味の理解が浸透していない状況にもあります。
本記事では、「UXデザインとは、いったい何をデザインするものなのか?」といった疑問を持たれている方に向けて、UXデザインとはどのようなものなのか、その概念を紹介します。
体験のデザイン
UXとは、「User Experience(ユーザエクスペリエンス)」の略であり、ユーザー体験のことです。つまり、UXデザインとは、ユーザー体験をデザインすることを意味します。
では、体験をデザインするとはどういうことでしょうか。
例えば、両親が子供にクリスマスプレゼントをあげるシナリオには、デザインされた体験が詰まっています。
多くの家庭では、クリスマスの時期に下記のような行いがあるかと思います。
- クリスマスが近づくと、家の中の飾り付けをする
- クリスマス・イブの夜に、ケーキや食事を用意してパーティーをする
- 子供が、プレゼントをもらうための靴下を枕元に置いて寝る
- 子供が寝ている間に、両親がそっと枕元の靴下にプレゼントを入れる
- 子供が朝目覚めると、靴下の中にプレゼントが入っている
子供がプレゼントを貰いたいという欲求を満たすだけであれば、このような行いがなくても、両親がクリスマスの朝に子供にプレゼントを手渡しすれば実現できます。しかし、それだけではクリスマスプレゼントを貰うという子供の欲求は満たされません。子供にとってクリスマスプレゼントはサンタさんからの贈り物であり、サンタさんから貰って初めて、クリスマスプレゼントを貰いたいという欲求が満たされます。
そのために、クリスマスの演出によって、あたかもサンタさんからクリスマスプレゼントを貰ったような感覚を、子供に提供しているのです。それが体験をデザインするということです。クリスマスプレゼントの演出では、下図のように体験がデザインされているのです。
ビジネスでUXデザインが行われている例
クリスマスプレゼントの例では、体験を提供する人と受ける人が親子でしたが、同様のことが商品やサービスにも必要とされます。そして、商品やサービスのユーザーに提供する体験をデザインすることが、UXデザインです。つまり、UXデザインでは、体験を提供する人と受ける人が企業とユーザーの関係になるのです。
ユーザー体験を意図的にデザインして、提供している有名な例としては、スターバックスコーポレーションがあげられます。同社の会長兼CEOのハワード・シュルツ(2015年2月24日時点)は、実際に、「スターバックスはコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのだ。」と述べています。体験のコンセプトとして、「ザ・サードプレイス(第三の居場所)」を掲げており、「日常で手に届く少しリッチな時間」を体験として提供するように店舗が設計されています。
「日常で手に届く少しリッチな時間」を演出している店舗の設計としては、下記があげられます。(今では当たり前のスタイルですが、スターバックスが普及し始めた当初では、このようなスタイルはほとんど見受けられませんでした。)
- カウンターで「バリスタ」というスタッフがコーヒーを受付て、提供する
- おしゃれなランプの下でコーヒーを待ち、受け取る
- 「ラテ」、「モカ」、「エスプレッソ」など、コーヒーの飲み方がメニューとして提案されていて、飲み方を決められる
- おしゃれにデザインされた店舗内の空間
そして、これらの設計は、下記のような思想のもと設計されていると考えられます。
確かに、スターバックスのようなカフェを「ザ・サードプレイス(第三の居場所)」として、利用している人はたくさんいます。休日にカフェでゆっくりと読書をする人、カフェで集中してパソコンの作業に打ち込む人など、こういった人々をカフェに入ると多く見かけます。まさに、こういった人々は、自宅でも職場でもない場所を求めて、カフェを利用していることがわかります。
このようにコーヒーという直接的な商品ではなく、カフェという空間の中での体験を価値として提供することで、ユーザーにとっての魅力を大きく増すことができるのです。
アプリにおけるUXデザイン
では、アプリにおけるUXデザインとは、どのようなものでしょうか。
基本的には、スターバックスの例と同じです。スターバックスの例では、デザインの要素として、カウンターやメニューの内容、店舗の空間などがありましたが、アプリではUI(ユーザーインタフェース)や機能、仕様、グラフィックデザインがデザイン要素になります。
例えば、今や多くの人が利用しているLINEにおけるユーザー体験は、アプリのUIや仕様が大きく影響しています。LINEの機能だけに注目すると、メールアプリ、メッセンジャー、テキストチャットなどと捉えることができます。そう考えると、フィーチャーフォンやスマートフォンなどに元々インストールされているメールアプリと同じように感じます。しかし、多くの人が今や元々インストールされているメールアプリを利用せずに、LINEを利用しています。この要因として、ユーザー体験の違いがあげられます。
では、どのようにユーザー体験が違うのでしょうか。
ざっくりと捉えると、それぞれ下記のような体験の違いがあると考えられます。
- 従来のメールアプリ:手紙の交換
- LINE:気軽な会話
従来のメールアプリは、自分のメッセージと相手のメッセージを別々の画面で確認する必要がありました。それに対して、LINEでは、会話を連想させる吹き出しにメッセージが表示されます。その吹き出しは発言を行った順番に、上から並べられて表示されるので、発言の流れを捉えやすくなっています。さらに、ノンバーバル(非言語)の気軽なコミュニケーションを可能にするスタンプやグループ機能で、コミュニケーションの負担を下げるような機能も提供されています。
こういったUIのデザインや仕様の違いが体験の違いを生みだし、ユーザーにとっての魅力も変わってくるのです。つまり、単純な機能の特徴ではなく、ユーザーにとっての体験の魅力を把握して、その体験を提供できるようにデザインを行うことで、アプリで得られる体験の魅力を磨くことが、魅力的なアプリ作りに重要になってきます。こういった考え方が、UXデザインの根幹としてあります。
UXデザインを実践したい方へ
アプリ戦略大学では、「UXデザイン講座」という題目で、UXデザインの進め方や手法/フレームワークの活用方法を配信しています。UXUIコンサルティング・ファームであるARCHECOが、これまで数々のプロジェクト(企画、戦略、設計、開発など)で、UXデザインを実践して蓄積してきた知識、経験に基いて、UXデザインの流れや方法を体系的に整理しています。