UXデザインに関する手法やフレームワークは様々なところで紹介されています。しかし、UXデザインをどのように遂行し、いつ何のためにどの手法/フレームワークを活用したら良いのか、といったことはなかなか整理されていません。本シリーズでは、UXUIコンサルティング・ファームであるARCHECOが、これまで数々のプロジェクト(企画、戦略、設計、開発など)で、UXデザインを実践して蓄積してきた知識、経験に基いて、UXデザインの流れや方法を体系的に整理し、配信していきます。
はじめに
前回の「第2.1章:ユーザー調査の対象はどのように設定するのか」では、調査対象の設定の流れを紹介しました。
今回は、どのように調査方法を設計して、実施するのかを解説します。
Step2:調査の設計
前回述べた通り、消費者の調査の目的は、下記を発見することです。
・消費者の欲求
・欲求が発生する状況
・欲求が満たされる条件
調査設計では、これらの事項を発見するために、効果的な手法を選定して、段取りを決めていきます。
【調査設計の流れ】
- 調査手法の選定
- 調査手法を実施する段取り決め
調査手法の選定
UXデザインにおけるユーザー調査では、下記の手法がよく実施されています。
・インタビュー
・エスノグラフィ
・フォトエッセイ
このような手法の中から調査したい内容、プロジェクトのリソース(時間や予算、人員数など)を考慮して、適した手法を選択します。
万が一、既存の手法の中に適したものがない場合には、新たに手法を開発したり、既存の手法をカスタマイズするケースもあります。手法の開発やカスタマイズには、UXデザインの豊富な経験や知識が必要となるため、初めての方などは上記の手法から選ぶと良いでしょう。
手法の選定をするためには、手法の特性を理解しておく必要があります。手法の簡単な特性を以下でご紹介します。
◎インタビュー
【概要】
調査対象者に、質問を投げかけることで、過去に経験した体験の様子や行動などを内省してもらい、その体験における感情や思考を掘り起こす手法。他の手法と組み合わせて実施されることもある。 インタビュー手法には、下記のような種類がある。
・構造化インタビュー
・半構造化インタビュー
・デプスインタビュー
・グループインタビュー
【優位点】
質問を投げかけることで、調査対象者が感じていることや考えていることなどを発言してもらうため、消費者の感じていることや考えていることなどを探りながら、欲求を探すことができる。また、他の手法に比べて、調査時間が少なく、設備や環境も用意しやすいため、多くの人に対して調査を実施することができ、調査対象者にバリエーションが必要な場合や複数人の調査結果を照らしあわせて傾向を見たい事柄がある場合に実施しやすい。
【インタビューを採用するケース】
・具体的な体験を観察する必要性は低く、調査対象者の心理状態を探りたい
・比較的多くの人を調査対象としたいため、一人ひとりの調査に時間をかけづらい
【調査内容の例】
・事業テーマ:消費者向けの資産運用サービス
・調査の概要:
消費者がお金に対して感じている欲求(プラスαで求める事柄や解決したい課題など)を聞き出すことで、資産運用に対する欲求を発見する
◎エスノグラフィ
【概要】
調査対象者と生活や行動ともにしながら、行動や作業の様子などを観察する手法。行動や作業の際の調査対象者の感情や思考を把握するために、インタビューも合わせて実施されることが多い。
【優位点】
生活や行動を実際に観察できるため、客観的な視点から調査対象者が気づいていない欲求を発見しやすい。また、調査対象の環境や様子を体感することができるため深い洞察を得やすい。
【インタビューを採用するケース】
・調査対象者の体験を観察することによって、客観的な視点から調査対象者の気づいていない欲求を発見したい
・調査実施者が調査対象の環境や様子を実感することで深い洞察を得たい
【調査内容の例】
・事業テーマ:ファッション系のEC
・調査の概要:
消費者が洋服店でショッピングする様子を観察することで、消費者が洋服を購入する際に発生する欲求(プラスαで求める事柄や解決したい課題など)を発見する
◎フォトエッセイ
【概要】
調査対象となる人に、テーマに沿って、過去の体験を振り返ってもらい、その内容を写真とエッセイにまとめてもらう手法。まとめてもらった体験における感情や思考をさらに深掘りするためにインタビューを行うことが多い。
【優位点】
調査対象社に一定期間、記録を続けてもらうことによって、継続的な変化を観測することができる。また、
振り返った体験が写真とエッセイによって可視化されているため、インタビューと掛けあわせて実施することで、単にインタビューをするよりもきめ細かく体験を把握することができる。調査対象者が事前課題を許容でき、調査対象が写真とエッセイにまとめることができる事柄であれば、インタビューと同程度の時間で実施できる。また、プライバシーの問題や物理的制約などで、調査実施者による同行が困難な場合に、代わりに調査対象者に記録してもらうという手段としても使える。
【インタビューを採用するケース】
・一定期間における変化を確認したい
・調査対象者の体験を観察したいが同行が困難な場合
(同行が困難な例)
・調査対象の体験の期間が長期に及ぶ
・調査実施者が同行してしまうと行動に制約や大きな変化を与えてしまう
・プライバシー的に抵抗感が大きい(家の中での行為など)
【調査内容の例】
・事業テーマ:ヘルスケア向けのサービス
・調査の概要:
消費者が日常的に行っているヘルスケア(食事や運動など)の中で感じた事柄を、一定期間、写真と文章で記録することで、ヘルスケアの中で発生する消費者の欲求(プラスαで求める事柄や解決したい課題など)を発見する
調査手法を実施する段取り決め
手法を選定したら、次にその手法をどのような段取りで実施するか検討します。ただ、調査手法を実施したからといって、必ず下記を発見できるわけではありません。
・消費者の欲求
・欲求が発生する状況
・欲求が満たされる条件
これらを発見するためには、発見しやすくするための仕掛けが必要です。そのため、調査の段取りをしっかりと設計しておくことが非常に大切です。
段取りを考えるうえで、決めるべき事項は調査手法によって異なります。それぞれの手法では、以下の事項を検討しておくとよいでしょう。
◎インタビュー
・インタビュー時間
・インタビューの手法
・質問すべき事項
#欲求や欲求が発生する状況、欲求が満たされる条件を分析できるような質問内容を予め用意しておく
・必要な道具
#インタビューを円滑にするために必要な道具があれば用意する。例えば、過去の体験を思い出すきっかけにしてもらうために体験を想起できる写真を用意するなど。
◎エスノグラフィ
・対象とする体験
#例えば、洋服店でのショッピングなど
・調査対象者の行動の流れ
#例えば、普段通りに洋服店を色々とまわりながらショッピングをしてもらう、など
・観測すべきポイント
#欲求だけでなく、欲求が発生する状況、欲求が満たされる条件を見逃さないように、有益な発見がありそうなポイントを事前に抑えておく。例えば、洋服を手に取る前後の様子、洋服を手にとった時に確認している内容、店員さんとの会話の内容とその反応など。
・インタビューの実施有無
・インタビューのタイミングと進め方
◎フォトエッセイ
・対象とする体験
#例えば、日常的に行っているヘルスケアが調査対象の場合、日々の食事や運動に関わる体験を調査対象とする
・記録期間
・調査対象者に記録してもらうポイント
#欲求だけでなく、欲求が発生する状況、欲求が満たされる条件を分析できるような情報を記録に残してもらう。例えば、欲求や課題、満足を感じたことだけでなく、その前後に行ったことやその時の環境・状況などを記録してもらう。
#例えば、ヘルスケアが調査対象の場合、食事を選ぶ時に考えたことや選んだ理由、その食事を食べた時に感じたこと、食事の写真などが記録の対象となる
・必要な道具
#記録に必要な道具があれば用意する
・インタビューの実施有無
・インタビューのタイミングと進め方
調査の実施
事前に設計した段取りに沿って、調査を実施します。詳細の実施内容は、各調査手法とその設計内容によって異なるため、ここでは割愛します。
調査本番に、切羽詰まらないように、設計した段取りを十分にシミュレーションしてから調査に臨むとよいです。
段取りをスムーズに進めることに加えて、調査本番では、いかに機転を利かせて、質問を選んだり、観察対象を選ぶかも重要になります。
調査本番で大切なのは、以下の事項を発見・分析するために必要な情報を見逃さずにより多く集めることです。
・消費者の欲求
・欲求が発生する状況
・欲求が満たされる条件
これらの情報を得るためのメカニズムを図式化すると以下のようになります。
必要な情報を集めるためによく行う調査の流れとして、以下に2つ例をご紹介します。
◎観察や記録、インタビューによって知った行動から心理を深掘りする
◎インタビューによって知った欲求から、そのコンテキスト(文脈)を確認する
欲求を分析するためのメカニズムをこのようにイメージとして持っておくことで、収集すべき情報や不足している情報を調査中に察知しやすくなり、情報収集の精度を上げることができます。
次回予告
本記事では、ユーザー調査の設計と実施の流れをご紹介しました。次回はユーザー調査の最終節として「Step4:調査結果の分析」の流れを解説します。
目次
【第2-1章】ユーザー調査はどのように実施するのか vol.1
【第2-2章】ユーザー調査はどのように実施するのか vol.2
【第2−3章】※次回掲載予定