UXデザインに関する手法やフレームワークは様々なところで紹介されています。しかし、UXデザインをどのように遂行し、いつ何のためにどの手法/フレームワークを活用したら良いのか、といったことはなかなか整理されていません。本シリーズでは、UXUIコンサルティング・ファームであるARCHECOが、これまで数々のプロジェクト(企画、戦略、設計、開発など)で、UXデザインを実践して蓄積してきた知識、経験に基いて、UXデザインの流れや方法を体系的に整理し、配信していきます。
はじめに
第2章では、UXデザインプロセスの中の「消費者の調査・分析」の実施内容について解説します。今回は、新規プロダクト(サービスやアプリ、ハードウェアなど)を企画・開発するプロジェクトにおける「ユーザー調査・分析」を対象とします。
なお、この講座ではユーザーという言葉を「ユーザーになる可能性のある消費者全般」を示す表現として使います。
ユーザー調査・分析の目的
「ユーザー調査・分析」の目的は、体験をデザインするための根幹となる要素として、主に下記の事項を発掘することです。
RedBullを具体例にすると、それぞれの要素には下記のような事項が当てはまります。
では、これらの要素がどのようにRedBullの体験に組み込まれているのでしょうか。RedBullを飲む体験を1つ例にとって、体験のシナリオを図解すると、下図のようになります。
さらに、体験のシナリオに「体験を構成する要素」がどのように盛り込まれているかをマッピングすると下記のようになります。
このように、ユーザー欲求に合わせて、「欲求が発生する状況」と「欲求が満たされる条件」を明確にすることで、体験をどのように組み立てれば、ユーザーを惹きつけることができるか見えてきます。そうすることで、ユーザーを惹きつける体験を戦略的に設計することが可能になります。
なお、RedBullの場合は、「体験を構成している要素」を下記のように作りこんでいます。体験を組み立てる要素が可視化され明確になれば、作り込むべき要素も明らかになるため、商品開発やプロモーションのリソース配分の考えやすくなります。
ユーザー調査・分析の流れ
では、「ユーザーの欲求」、「欲求が発生する状況」、「欲求が満たされる条件」をどのように見つけ出せばよいのか。これらの要素を発掘するために、ユーザー調査・分析を下記の流れで実施します。
補足事項
立ち上げるビジネスのターゲットユーザーが自分自身であり、対象とする体験を十分に熟知している場合には、Step1〜Step3を省略してしまうケースもあります。特に、スタートアップで、自分の過去の経験からくる課題感や欲求をベースにビジネスを作る場合は、省略するケースは多いかと思います。
ただし、その場合でも、自分の過去の経験を整理・分析して、ビジネスで対象とする欲求/価値を明確にしておくことで、提供価値が明確なプロダクトをつくることができます。そのため、Step4の実施は必要となります。
Step1:調査対象の選定
このステップでは、新規事業立ち上げのプロジェクト発足時に設定された「事業テーマ」をインプットとして、調査の対象とする体験や人を設定します。
「事業テーマ」と一言で表しても、そのレベル感や設定方法は様々です。よくあるタイプとしては、下記のようなものがあります。
・ユーザー指定型
例)主婦を対象としたビジネスを立ち上げたい
外国人観光客向けのサービスをつくりたい
・ビジネス領域指定型→既存ビジネスに関連する体験
例)人材採用ビジネスを立ち上げたい
ファッション系のサービスを立ち上げたい
・体験指定型
例)山登りに役立つサービスを立ち上げたい
飲み会を盛り上げるアプリを作りたい
・技術領域指定型→効用を起点とする
例)VRを活用したビジネスを立ち上げたい
機械学習の技術を活用したビジネスを立ち上げたい
カーボンナノチューブを活用したプロダクトを作りたい
・既存事業派生型→既存事業の周辺の体験を調査する
例)既存の人材サービスと相乗効果のあるサービスを立ち上げたい
既存のコミュニケーションプラットフォームの価値を高めるサービスを展開したい
予め事業テーマを決めた段階で体験の領域が絞られる場合には、特に苦労せずに調査対象の設定ができます。
例えば、事業テーマが「ファッション系のECサービスを立ち上げる」といった具合に決まっている場合には、調査対象が下記の通り明白です。
- 既存のファッション系ECサービスの利用体験
- 洋服を販売している店舗での購買体験
しかし、事業テーマだけでは、単純に調査対象を定められないケースもよくあります。その場合には、制約事項を設けて調査対象を洗い出します。そうすることで、調査対象と事業テーマの関連性を担保でき、調査結果が事業テーマに結びつくようにすることができます。
さらに、設定した制約が、調査対象を発想するための足がかりとなり、洗い出しをスムーズにする効果もあります。
制約事項は事業テーマの特性やプロジェクトの目的などに合わせて設定する必要があります。先ほどの事業テーマの例を元に、「制約事項の設定」から「調査対象の洗い出し」の流れを以下に例示します。
効果・効用などを制約事項とする
自社の事業領域を制約とする
なお、制約事項に当てはまる調査対象を網羅的に洗い出すには、より多角的な視点があった方が好ましいです。そのため、時間や人的リソースが許すのであれば、洗い出しの作業をプロジェクトメンバーなどを集めて、ブレインストーミングによって行うと良いです。
Step2:調査の設計以降
本記事では、ユーザー調査の中の「調査対象の設定」の流れを解説しました。次回はStep2〜Step3の流れを解説します。
目次
【第2-1章】ユーザー調査はどのように実施するのか vol.1
【第2-2章】ユーザー調査はどのように実施するのか vol.2
【第2−3章】※次回掲載予定